第4話 愚か者への判決

 「yeah!」「マジ、ヤッバ」に精魂尽きて

 人生詰ませて、息の根尽きる

 「いいね」「いいね」の数が生きる糧

 そこに何の意味があるものか

 見えぬ相手にちやほやされて

 増えれば快感、無視され過激に

 他人の快感、己の地獄

 家族は崩壊、悪夢、悪夢の絶望感

 パラノイアのパラレルワールド


 閻魔大王と次期大王候補の側近・義は、死後の世界だけでは裁けない罪が人間界を席捲していることを憂いていた。大王と義の前に新たな映像が流れた。鶴心裡教団を裁いた判事の裁判記録だった。


 慎ましくも商魂たくましく営む店に若者と友人が訪れた。席に就くと友人が主犯の若者にカメラを向ける。テンションが上がった若者は湯飲みを舐めもとに戻し、共有の醤油ボトルの注ぎ口に直接口をつけてもとに戻す。他人の注文した寿司に山葵を乗せたり、舐めた指を寿司ネタにつけるなど、若者は非道を繰り返していた。カメラを向ける友人は「キモ」「ヤバ、マジで」と言いながらも注意することもなく撮り続けた。映像は、SNSで拡散された。知り会いだけに見せるはずの映像はその知り合いに拡散された。当然あり得る出来事だ。余りにも非道な行いは、批判の炎上を見せた。面白がられるだろうと投稿した映像は、若者を窮地に追い込んだ。後悔先に立たず、後の祭り。

 本人や学校が特定された。学校には抗議の電話の嵐。学校の静寂な日常が奪われた。

 Witterに馬鹿げた映像を投稿する輩をバカッターと呼ぶ。バカッターの愚かな行動は、安価で良質な食材を提供する店の性善説を崩し、不潔・気持ち悪いなど悪質なイメージを顧客に与えた。

 ニュースは非道だ。若者が悪いと非難しながら被害を行けた店名を容赦なく連呼する。視聴者に非道=その店の印象操作と植え付ける。配慮の欠片もない。いや、報道の先が理解できないでいる。それを正義だ、事実だと報じた結果、店は更なる窮地に込まれる。チェーン店の他店にも多大な影響を及ぼした。株価は暴落。一日で160憶円の損失に繋がった。

 世の中には馬鹿が多い。一時的でも再生回数が伸びたのをいいことに真似をする者も出現。他の飲食チェーンも迷惑行為の犠牲者となった。

 これは店舗と犯罪者だけの問題ではない。大手チェーン店は

不正行為防止・抑制のためダブルチェックできるAIカメラシステムの導入を余儀なくされた。多大な経費が業績を圧迫する。従業員に還付されるかも知れない資金が機器に投じられる。従事する高揚感も削いだ。

 新たな国家的危機を呼び込んだ。恐ろしいのは、監視システムだ。出入り禁止の客を判別し告知・警告する優れモノだ。その第一線を突き抜けるのがAIカメラシステム世界シェア2位であるジェノサイド企業である中酷のダーバテクノロジーだ。ダーバテクノロジーは強酸党と繋がっている。英国の公用車のパーツにGPSを仕込み、公人の動きを監視していたことが明らかにされた。中酷は監視社会。個人の行動を国が把握している。犯罪者も追尾システムで追われる。個人の会話や行動が国に監視されている。監視する国は設置した国でなく中酷・強酸党だ。日本企業は個人の追尾に性善説やプライバシーの侵害を理由に開発に遅れを取っていた。

 今回の事件は既に深刻化している。他の企業と比べて安価で性能の良いダーバテクノロジーが有力視されている。誤っても採用してはいけない。スパイ天国の日本は世界から敬遠される決定的なシステムを導入し、世界のネットワークから除外される可能性が現実味を帯び始めたからだ。

 強酸党は既に仕掛けてきている。以前にも日米の防衛策が日本の外務関連から漏洩した。米国はすでに中酷と通じてる議員や人物を特定している。内政干渉と日米関連の強化の狭間で積極的には動けないでいた。しかし、米国は日本を追い込む方法を熟知していた。秘密漏洩を防ぐため、今後の経済の生命線となる半導体での取り扱い強化の協定に日本を巻き込んだ。

 強酸党が強引に支配下に置いた香港で客が飲食店テロを起こした。中酷・強酸党の仕込みの可能性が大きい。この事件再発防止のためダーバテクノロジーは有効であるとの記事を中酷から世界に拡散し始めた。さらに2025年に開催される大阪万博の監視システムをダーバテクノロジーが担うための布石だ。大阪は中酷人観光客で潤った甘い汁を忘れられない。テレビで人気のタレントが知事になった。中酷に訪れコスプレハニートラップに嵌められ、賄賂で手懐けられた犬だ。その犬は継承者にも中酷依存の旨味を伝授し、大坂万博は中酷万博の色合いを濃くしていた。

 企業体は安価で品質の良いものを選ぶ。ダーバテクノロジーはその最優先企業に躍り出ていた。

 バカッターの行為は大袈裟ではなく。日本の安全保障を危機に陥れようとしていた。バカッターの若者を擁護する粛清対象者が増える。反逆者が明らかになるのは良い事だが、安倍川元総理の暗殺の主犯を英雄視するような世界に恥を晒す真似は二度と繰り返してはならない、その為の粛清係の設立だった。


義 「非道と呼ぶにも憚れる。もはや外道だ」

大王「まさに餓鬼にも勝る輩だ」

義 「分かりました大王の意志が。偽善者が今回の事件を歪曲さ

   せ日の本の崩壊を企んでいる。死霊を裁くのでは手遅れ。

   生霊の段階で腐った魂を粛清せよ、とのことですね」

大王「ふむ、あはははは」


 映像が続いた。災高裁の結審だった。


判事 「被告人は反省をしているか」

被告人「あっ、はい」

判事 「これから、やらぬか」

被告人「はい」

判事 「面白いからやったのか」

被告人「は、はい、でも、反省しています、もう、しません」

判事 「面白い事を止めるのか、つまらぬ人生だな」

被告人「いや、その~、迷惑を掛けるっていうか…」

判事 「面白いことをしないと言ったではないか、嘘か」

被告人「そ、その~言葉が足りませんでした」

判事 「足りないのは脳みそではないか」

被告人「…」

判事 「お前の脳みそで作る味噌汁は吐き気がしそうだな」

被告人「…」

判事 「どう償うのだ」

被告人「一生を掛けて償います」

判事 「お前の一生とは世間が忘れるまでか、俺、有名人だった

    んだぜ、とほざける迄と言う事か」

被告人「一生、反省すると言う事です」

判事 「反省した事のない奴が未来を予言できるのか」

被告人「約束します」

判事 「忍耐のにの字も感じぬが」

被告人「本当に馬鹿な事をしました。一生を掛けて償います」

判事 「信じられん!被告人に判決を言い渡す。偽善高等学校・

    建畜科 失平。善良な飲食店で万死に値する行為を動画

    に投稿し、償えない損害を店側に与えた。謝罪と償いを

    今後の人生で行う事を命じる」

被告人「は、はい」

判事 「決して逃げるではない。逃げれば最後と知れ。賠償額を

    言い渡されればそれに従え。返済で苦しむお前に同情の

    余地はない。家族を巻き込むな。自分のケツは自分で拭

    け。それが罪と真摯に向き合う事だ」

被告人「はい」

判事 「以上で決心する」


 映像が消えた。大王と義はこれが「生霊への処罰」の限界か、と余りにも手緩い判決に眉を顰めていた。そこにモニターが現れ、文字が流れ始めた。


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