第6話 捏造文書は蜜の味

 所詮、この世は狐と狸の化かし合い

 騙される奴が悪いのか、騙す奴が悪いのか

 オレオレ詐欺に闇サイトバイト

 「私は騙されない」「俺ならもっと上手くやれる」

 手口が知られるほどハードルは低くなる

 舐めているのか、舐められているのか

 人の振り見て我が振り直せ

 先人の苦言もどこ吹く風

 ここはひとつ痛~い拳骨でも喰らわせましょうか


 大王の懸念を余所に日の本は可笑しな輩に蝕まれていた。魂界の大言厳は日の本の現状を憂い、一番弟子であり今は優秀な教官主席でもある龍厳を呼び寄せた。龍厳は米国の魂界の要請を受け民主党の動きに注視しながらカード前大統領の復帰を手助けしていた。龍厳は米国の人間の思考に馴染めずその役を信頼する龍凰に委ねた。龍凰はと言うと分かりやすほどの米国の割り切った思考に水を得た魚のように立ち回っていた。その甲斐もあって龍厳は米国を龍凰に任せ、日の本の行く末に専念出来ていた。龍厳は警死庁の仁にある提案を持ちかけた。


龍厳「仁、無能に蝕まれた輩にお灸を施しては」

仁 「ピンポイントで攻め、沸点を高めて広めさせるか」

龍厳「可笑しな輩には国語力がない。その無能さを突く」

仁 「龍厳よ、もう手配を終えているのか。ならばその策を」

龍厳「戦争の現実化は報道されている以上にに議員の間では認識

   されている。よって野党や与党の親・中缶の議員は防衛費

   に沈黙を続け、その鬱憤を他にぶつけたがっている」

仁 「鬱憤を発散させると見せかけて、墓穴を掘らせるのか」

龍厳「無能さを刺激する旨味のある餌でね」

仁 「具体的にはどうするのか」

龍厳「では、こちらを見て下され」


 ある個室のある居酒屋の場面が映し出された。


議員「先輩、何か面白いネタはありませんか」

官僚「ないことはないが古いぞ」

議員「いいです。それで内容は?」

官僚「放送法に関してだ」

議員「いいですねぇ」

官僚「故安倍川総理と経済安全保障担当大臣の高倉議員との偏向

   報道を訝がる会話を記した行政文書だ」

議員「いいじゃないですか。高倉は邪魔だし、与野党の中に敵も

   多い。反日の最大の壁であり話題性もある」

官僚「但し、行政文書だぞ」

議員「いいじゃないですか」

官僚「じゃ、後日、届けてやるよ」


仁 「これは?」

龍厳「餌に喰らい付いた議員だ。議員は立憲強酸党の大東博之。

   官僚は彼の現職の先輩だ、高倉嫌いのね」

仁 「高倉やらとは一匹狼で敵が多いな」

龍厳「後ろ盾を亡くした今、彼女に肩入れする者は少ない」

仁 「まともな者ほど敵が多い。歪んでいる」

龍厳「だから、遠慮はいらないかと」

仁 「魂界の方々はこのように人間を使うのか」

龍厳「簡単じゃないですよ。人材の選択、憑依の是非とか」

仁 「都合のいいものがあったものだ」

龍厳「まさか。官僚に作らせた。勿論、憑依した者の指示でね。

   官僚の意志を操って。その代償が合意に達すれば難しく

   ない。憑依者とはギブアンドテイクの関係だ」

仁 「人間を操れるのか」

龍厳「誤解してはいけませんよ。あくまでも本人の意志。私たち

   の仕事はそうしたいと思わせることだ」

仁 「成程」

龍厳「マスゴミを巻き込めるような者を選んだ」

仁 「餌にはどのような隠し味があるのか?」

龍厳「真偽を追及させ、高倉を辞職に追い込む。それは天に唾を

   履く行為。高倉からすれば嘘。自信をもって否定できる。

   内容の正確性は証明できない、出来るはずがない。喧嘩を

   仕掛けて自分が罠に嵌る。本来なら、高倉にも憑依して対

   抗するはずだったが、高倉が憑依を拒否し、上手くいかな

   かった。その点が気掛かりだが…」

仁 「役人は自分を守るものだ。告発した大東は梯子を外される

   な。マスゴミは官僚からも疎まれる高倉落としに躍起にな

   る。反日共と偏向ニュースが騒がしくなるな」

龍厳「隠し味は、雉も鳴かずば撃たれまい、ですよ。これも演出

   ですよ。黙らせるのは本人が自ら口を閉ざすのが一番です

   からな、むふふ」

仁 「魂界の方と話すのは骨が折れそうだな」

龍厳「まぁ、そう言わずに。餌は極秘文書の漏洩。官僚のお墨付

   き。起爆点は立憲強酸党の大東博之。彼らがよく使う逃げ

   道を極悪新聞社に記者会見を開かせ、閉ざす。その対象は

   脚光を浴びさせたい経済安全保障担当大臣・高倉桜子だ」

仁 「面白い。国会で嘘をつくのは認められている。不確かな案

   件を問うために。しかし、それを外部で行えば処罰の対象

   となる。以前に似た事件があったな。偽造されたメールを

   元に国会を揺るがした罪で議員辞職。その者は自決した」

龍厳「ご存じでしたか。では話が早い。嘘は構わないがそれを報

   道を通じ広めれば罰せられる。私は騙された側だと言い逃

   れ出来ないように極悪新聞社に会見で報道させ、大東議員

   ・立憲強酸党の逃げ道を塞がせる。同時にその後の報道で

   高倉議員を貶めるため名前を連呼させる」

仁 「高倉とやらは大丈夫なのか?」

龍厳「大丈夫です。我らの配下が憑依しようと試みるもガンと受

   け付けない意志の強さがありましてな、その我の強さが良

   くも悪くも、でしてな…」


 龍厳は、心配事を抱えているように仁には思えた。 


仁 「高倉議員はマスゴミの敵だな。名前を消し去りたい。その

   逆をマスゴミに行わせるのか」

龍厳「甘い蜜を害虫は見逃さない。ここぞとばかりに良く吠える

   犬が追随する。SNSが賑やかになる。吠える犬の過去や問

   題が噴出する。その対応に追われる」

仁 「だから、雉も鳴かずば撃たれまい、か」

龍厳「可笑しな輩を炙り出す。あとは個別に粛清していく」

仁 「それは面白い。最後に漏洩した人物の記憶はどうなる」

龍厳「憑依が解かれたら夢を見てたように忘れるか斑記憶とな

   る。本人には罪の意識も重みもなくなる。悪魔の証明とな

   る。水掛け論だ。証明すべき者が証明出来なくなるのが隠  

   し味ですかな」

仁 「氷で殴打する。被害者は出るが凶器は溶けてなくなるか」

龍厳「そういうことですな」


 龍厳からの報告を受けた数日後、スクープとして行政文書が国会の予算員会で立憲強酸党・大東議員によって公表された。その前日、極悪新聞社・朝毎新聞の仕切りで大東議員の記者会見が開かれた。これで偽造・偽情報だと確認されれば公職に就く者が偽情報を故意に広めた重罪から逃れられなくなった。

 浅はかな無能な者は美しさに迷いなく引き寄せられる。棘があろうが。美しい花には棘がある、甘い話には裏があるなど気にもせずに盲目になる。愚かなり。

 そもそも行政文書を公式文書として捉えている時点でアウト。行政文書は、役所で二人以上で共有され文書化された瞬間に真偽を問わず行政文書となる。単なる役人のメモ書きで効力などない。その文書を基に大東議員は、高倉議員を追い込んだ。仁はその様子を見ていた。


大東「この行政文書は然るべき所から入手したものです。ここに

   書かれている高倉議員の発言は事実ですよね」

高倉「私の事が書かれている四頁に関しては事実ではありませ

   ん」

大東「事実ならどうするんですか、議員を辞められるんですか」

高倉「事実なら大臣も議員も辞めますよ」


 「これか」龍厳が不安な顔をしていたのは。確かにこの高倉と言う者は意志が強固だな。しかし、攻め方が甘い。なぜ「事実なら私は辞めるので、偽造ならあなたも辞めると宣言してください。人を陥れるにはそれ相応の覚悟を持って頂かない」と。「宣言されないとなればそれは偽造であることをあなたは認めた事になる。偽造であればお答えする必要もない」と切り返さなかったのかと…。もし、魂界の者が憑依していればこのような甘い対応はなかったのにと、仁は悔やんでいた。


 極悪新聞と関連報道番組は放送法を持ち出し、報道や発言の自由を侵害されると問題を摩り替え、高倉議員を辞任に追い込もうと必死だ。まともな議員は偏向報道の横行に眉を顰めていた。

 偏向報道は国民を誤った道へと導く重大な罪として反日罪の適応を真剣に取り込む時期に来ている。

 大王の憂いを仁は痛感していた。国会は国の成り立ちを議論・決定する場。今回は予算委員会。いつもの事だが大事な決め事を行う場で雑談レベルの話を持ち込み混乱と時間を費やす。こんな輩に投票する者がいる現実が「正義」を揺るがす。投票権の厳格化が必要になってきている。仁は改めて警死庁の役割と魂界の協力に熱い思いを抱いていた。



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