【短編】オクスリ大ちゅきActress

お茶の間ぽんこ

オクスリ大ちゅきActress

「ねえこれめちゃくちゃおいしいんだけど!」


 少女らしい赤いリボンが特徴的なロリィタコーデの僕の彼女——マホは至福の声をあげる。


 たったワンコインでこれほど喜んでもらえるのだから、彼氏冥利に尽きるというものだ。


 マホとの遊園地デートは楽しいな。


「マホがチュロスを食べる姿、とても映えているよ」


 僕はマホにスマホを向けると彼女はチュロスを口にくわえてみせて敢えてスマホとは別の方に視線をやる。


 カシャッ。とてもいい写真だ。


「ねぇ後で送ってよ! インスタにあげるから!」


「これで太客が増えるといいね」


「ヒロトとの思い出はプライベートの方しか上げないよ! もう!」


 マホはチュロスを頬張りながらしかめっ面をする。どうしてこんなにも可愛いんだ。


 彼女との出会いはまともなものではなかった。


 会社の飲み会で、今まで女性経験がない僕を既婚者の先輩二人にからかわれて散々飲まされた挙句、歌舞伎町を歩く女をナンパしてお持ち帰りしてこいと命令を下されて声をかけたのがマホだった。


 そのときの彼女もアマベル系のガーリーなファッションで、仕事帰りのスーツ姿の僕とは不似合いで隣を歩くものならパパ活でもしているのではないかと勘違いされていただろう。


 本来なら体裁を気にするべきだったのだろうが僕は随分と酩酊していてつい声をかけてしまった。どうせ断られるだろうと諦め半分だったが、マホは尻尾をブンブン振る子犬のように上機嫌で僕の誘いに乗ってくれた。


 僕たちは二人で近くの安居酒屋に入ってビールを注文した。マホはとてもおしゃべりなので一方的に話し続けていたが、僕はえらく酔っぱらっていたので激しい眠気に襲われていた。


 必死に寝まいと抗っていたが次々と頼まれるお酒にのまれていって気がついたときにはラブホテルでマホと寝ていた。ここで言う「寝ていた」は睡眠という意味しか内包されておらず、決してセックスしたわけではない。それは僕がスーツ姿のままで彼女も少女らしい服を着ていたままで布団に入っていたところから察することができた。


 僕はジンジンする頭を癒すために洗面台の水を飲んだ後、依然として小さく寝息を立てるこの娘をどうしたものかを考えあぐねた。無防備な彼女を見ていると少しぐらい触っても良いのではないかと邪な心がでてきたが、マホはあまりにも気持ち良さそうに眠っていたので邪魔しないことにした。


 一時間くらい経った後に彼女は目を覚まして呑気に「フワフワなベッドで心地良いし横にはヒロトさんがいたから温かかったしすごく気持ちよく眠れたー」と言った。きっと僕じゃない男だったらセックス三昧だったのだろう。


 僕たちは特にすることがなかったし朝でボーっとしていたのでそのままチェックアウトすることにした。その後ラインで彼女といくらかやり取りを続けてプライベートでも遊んでいるうちに付き合うことになった。


 マホは「ナンパされてセックスしなかったのは初めて。単純に身体目的じゃなかったって意味でポイント高かったよ」と言ってくれた。普通に眠たかっただけなんだけれど敢えて伏せておくことにした。


 マホは歌舞伎町のガールズバーで働いている。それなら僕にナンパされたときに店を紹介すればいいのに、と訊いてみたが「お店に連れて行ったらもうお客さんになっちゃうから恋愛に発展しないじゃない! それに、あの日はナンパしてくれるお兄さんを探してたんだ。わたしはガールズバーで働いているからそんな出会いがないし」と言った。


 交際人数は片手では収まらない数らしいが、今まで付き合った男はどれもクズ男だったという。水商売をして地雷系ファッションをしているからそのような男にしか引っ掛からないのではないか、と考えることもあるがそれは偏見なのかもしれないので彼女には伏せておくことにしている。


 マホにとって僕は一番まともらしい。女性経験が少ないから慎重に付き合っていることが功を奏しているのかもしれない。


「で、次はどれに乗るの?」


「えっとねー次はスターダスト・ハイウェイ!」


「それは僕もCMで見たことある。かなり人気のアトラクションだよね」


 スターダスト・ハイウェイというのはこのテーマパークの看板アトラクションとも呼ぶべきジェットコースタ―だ。子どもでも乗れるぐらいのスリルではあるが、その作りこまれた世界観が人気を博している大きな理由だ。


「お店の友達に絶対行った方がいいってオススメされたんだー。わたしも一番気になってる!きっと楽しいよ!」


「マホが楽しいって言うんだから楽しめると思うな」


「ふふっ。じゃあいこ! こっちこっち」


 彼女はにっこりと笑って、はしゃぐ子どものように僕の腕を引っ張る。本気で楽しんでくれているようで嬉しい。


 マホと遊園地デートに行く話になったとき、つい「僕、こういうところ行くの初めてだからどこ回ればいいか分からないな」とこぼしてしまった。本当は徹底的に下調べしてエスコートしてあげれば良いだろうしそうするべきだったと分かっていたけれど僕は少し不安だったのだ。するとマホが「いいよわたし色々調べとくねー」と言ってくれた。だから今日は彼女の案内に頼りっきりだ。


 スターダスト・ハイウェイの前に行くと待ち時間が「百八十分待ち」の看板が置かれていた。


「3時間も待たなければいけないのか、ちょっと長いな」


 僕は万里の長城のように果てしなく続く長蛇の列に圧倒されて苦い顔をした。


「そうだよね、ちょっと厳しいよね…。 違うところに行こっか!」


 マホは少しシュンとした様子をみせた。


「マホはどうしたい? 乗りたいなら並ぼうか?」


「うーん…他のところに行こう!」


 彼女はテーマパークのアプリを起動して今の時間帯で空いているアトラクションがないか探しだした。


 マホの少し落ち込んだ顔を見て自分が余計な発言をしてしまったことを悔いた。さっきあれだけ乗りたがっていたのに乗りたくないわけがない。無意識に僕がムードをぶち壊していたのだ。


 これじゃ、自己中なダメ男じゃないか。


「…いや、やっぱり並ぼうか。待ち時間もテーマパークの醍醐味だよ。それにマホと一緒ならむしろ楽しいよ」


 僕がそう言うとマホはパァッと顔を輝かせた。


「ほんと? 嬉しい! 本当は乗りたかったんだ」


 マホは人目を忍ばず僕に抱きついてきた。自分の顔が熱くなるのが分かった。


 少し恥ずかしかったが彼女の背中に手を回す。華奢なマホの体から温かさを感じた。


◇ 


 三十分は並んだだろうか。五十メートルは前進したが一向にゴールが見えない。


 周りを見ると僕たちと同じカップルがスマホをいじったり暇をつぶしていた。


 僕たちはといえば、マホがいっぱい話してくれるので待ち時間でも二人の時間を楽しむことができていた。


「ねえあの子どうしたのかな?」


 マホが指をさしてそう呟く。指す方向に目をやると、小さな女の子が行列を縫うようにトボトボ歩いていた。


 少女は辺りをキョロキョロしながら今にも泣きだしそうな顔をしていた。


 割り込まれた人々は少女に訝しげな視線を送るだけで声をかける人はいなかった。


「もしかして迷子なのかもしれない」


「え! それはかわいそう…。なんとかできないかな」


 マホは不安そうな目で僕の方を見つめる。


 確かに少女を放っておくことはできない。


「マホ、並んで待ってて」


「ちょっとヒロト⁉」


 僕はマホを置いて列を抜けて少女の方に向かった。


「どうしたの?」


 僕は列を割り込んで少女に声をかけた。もちろん割り込まれた人たちから迷惑そうな視線を送られたが気にしないことにした。確かに傍から見ると不審者に見えるかもしれない。


「え、えっとね…お母さんたちとはぐれちゃった…」


 少女はそう言うと何かが切れたみたいにワンワンと泣きだした。


「並んでいて迷子になっちゃったのかな?」


「ううん、違うの。並ぶ前にはぐれちゃった。でも次はこれに乗るって言ってたから…」


 どうやらここに向かう途中で迷子になってしまったようだ。母親が少女抜きで並ぶわけがない。


 そうなると母親はアトラクションの入り口で待っているか、もしくはインフォメーションセンターで待っているかのどちらかに違いない。


 僕は少女と一緒にアトラクションの入り口に向かい、少女の母親らしい人物を探した。


「ママ!」


 少女が僕から離れて走っていった。そこには辺りを見回すその少女の母親と少女によく似た女の子がいた。


 少女は母親に抱きついて再び泣き出した。


 このままだと僕が不審者のように思われるので事情を説明した。


「サナの面倒をみていただいて本当にありがとうございます」母親は僕に礼を言った。


「いえいえ。サナちゃん、お母さんたちと会えてよかったね」


 僕は少女、サナちゃんが泣き止んだのを見て安心した。


「うん! ありがとうお兄さん!」


「あたしからも! ありがとうお兄さん!」


 サナちゃんとよく似た女の子からもお礼を言われた。


「双子ですか?」僕はあまりにも二人が似ているのでその母親に訊ねた。


「そうです。サナとカナって言うんです。一卵性なのでときどき私ですらどっちか分からなくなっちゃんですよ」


「ははっ、本当によく似てますね」


 僕は屈んで少女たちと目線を合わせる。並んでみると本当に分からないものだ。


「ヒロト!」


 後ろから僕を呼ぶ声がしたので振り返るとマホがいた。


「マホも列から抜け出しちゃったの?」


「だってどうなったか気になったんだもん! あ、お母さん見つかったんだね!」


 マホは胸を撫でおろし、僕と同じように少女たちに屈んでみせた。


「この子たちは双子なんだって」僕はマホに言った。


「へー双子さんね…。 二人ともかわいい!」


 マホはそう言うとサナちゃんとカナちゃんの頭をワシャワシャと撫でた。


「あら、綺麗なお姉さんに撫でてもらって良かったわね」母親が微笑んだ。


「うん! お姉さん、お人形みたい! 私もお姉さんみたいになりたいな!」


「私も私も!」


 サナちゃんたちはニコッと笑ってキラキラとした目でマホを見た。


「もう皆褒めるのが上手いんだから…! ふふっ、ありがとね」


 マホも口角を緩ませて笑ってみせた。


 しかし、それは笑うために口角を緩ませたように見えた。彼女の目は少し寂しそうだった。



 僕たちは結局あの家族と一緒に列を並び直してスターダスト・ハイウェイに乗った。サナちゃんたちに僕たちの関係を何度かからかわれたが、家庭を持ったらこのような感じなのかと想像することができて楽しかった。


 アトラクションに乗り終えるとすっかり日が暮れていたので、僕たちは宿泊するホテルに行ってチェックインをすませて豪華なディナーを楽しんだ。


 マホの様子が明らかにおかしくなったのはディナー後、夜十時頃である。


「ないないないないないないないないないないないない!!」


 洋風な宿泊部屋に入ってお互いに荷物の整理をしているとマホが今まで見たことがない形相で声をあげた。


「何かなくしちゃったの?」


「ないの! あれが!」


「ないって何が?」


「それはその…お薬がないの…! どこかに置いちゃった!!!」


「薬?」


 彼女が薬を服用していたのは知っているがそんなに大事な薬なのか。一日くらい飲まなくても問題ないのではないか。


 マホは激しく動揺した様子で部屋から出ようとした。


「どこにいくの?」


「どこって…探しに行くのよ、薬を!」


 僕は半狂乱な彼女についていった。しかしホテル内を探し回ったがどこにもなかった。


 フロントにも訊きに言ったが薬の落とし物はないと言われた。


「となると、遊園地のどこかでなくしちゃったのかもね」


「探さなきゃ! あれがないとワタシだめなの! よりによって何で今日ないの⁉」


 綺麗にセットされた髪をぐしゃぐしゃに搔きむしってホテルの外に出ようとした。


「もう遊園地は閉まっちゃってるよ」


「でもだめなの! 本当にないとどうにかなっちゃう!」


 マホがあまりにもしつこかったので僕は遊園地に電話をして錠剤の落とし物がないか訊ねてみたが、遊園地にも届いていないようだった。


「ねえ、何の薬か分からないけど一日ぐらい飲まなくても大丈夫だよ」


「だめだめ! 近くのドラッグストアは! どこ⁉」


「いい加減にしろ!」


 僕はキレた。


 疲れも相まってマホのヒステリックな声でイライラしたのだ。


 僕の怒鳴り声でマホはビクッとして急に静かになった。パンパンに膨れ上がった風船がパンッと割れたように。


「ごめん。そうだよね。今日は我慢する」マホは小さく呟いた。


 僕も我に返ったが謝る気にもなれなかったので、僕たちは無言のままその場を離れた。


 部屋に戻った後、僕たちは疲労に任せて寝た。



 深夜に僕は尿意を催して目が覚めた。


 僕とマホはツインベッドで寝ていたので彼女を起こさないようにベッドから離れようとしたが、横にはマホがいなかった。


 トイレは電気が点いていて物音が聞こえたのでマホが用を足しているのだと納得して出てくるのを待った。しかし、しばらくしても彼女が出てくることはなかった。

あまりにも遅かったのでノックした。中からは反応がない。うめき声だけが聞こえた。


 僕は心配になったのでドアを開けた。


 そこにはマホがいた。手首をカッターで切り刻んでいた。


 何本も血のタトゥーを彫っていた。あまりにも痛々しい。


 マホは夢中で僕に気づいていない。


「なにやってんだよ!」


 僕が彼女からカッターを取り上げてトイレットペーパーで傷口を押さえた。


「ヒ、ヒロト…」


「なんでこんなこと…⁉」


 マホに問い詰めると俯いて僕に目を合わせようとしないで泣き出した。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


 僕はフロントに電話して応急手当ができるガーゼや包帯を手配してマホの手首を止血した。


 何を言っても、マホは謝るばかりで話ができる状態ではなかった。


 僕はマホが落ち着いて眠りにつくまで見守った。


 マホの頭を撫でてあげていると彼女は寝静まったので、またマホが変な挙動を起こしても分かるように彼女を後ろからそっと抱いて眠った。



 翌朝、僕は起きると目の前にじっと見つめるマホの顔があったので驚いた。


「ヒロト。おはよう!」


 マホの声色は活気があって昨日の出来事は夢なのか疑ったが、彼女の手首には包帯が巻かれていたので夢ではないことを気づかされる。


「ああ、マホ。おはよう」


「昨日はその…取り乱しちゃってごめんね」


「もう大丈夫?」


「うん! 夜になると時々あーいうことがあるんだ」


「そっか。何か悩みがあったら言ってね」


 僕はまたマホが元気をなくしてしまったら嫌なのでそれ以上触れないことにした。


 僕たちは身支度を済ませると、チェックアウトを済ませるためにフロントに向かった。


 エレベーターに乗ろうとするとマホは「忘れ物しちゃったから先に行ってもらっていい?」と言って部屋に戻っていった。


 僕はフロントに行ってチェックアウトした。フロントマンには後からマホが部屋のキーを持ってくると言って会計を先に済ませた。


 ジーパンのポケットに入れた財布を取り出すときに僕も自分のベルトを忘れてしまったことに気づいた。ベルトを外した覚えはなかったがないということは置き忘れてしまったのだろう。


 僕は支払いを済ませると宿泊部屋に戻った。


 部屋に戻るとマホが椅子に乗って僕のベルトで首を吊ろうとしていた。


 叫ぶ余裕すらなかった。


 首からベルトを外してマホを降ろした後、彼女の頬を叩いた。


 マホは盛大に嘔吐した。ぐちゃぐちゃに卵を混ぜたお粥みたいなゲロだ。


 もう何がなんだか分からない。


「ちょっとゆっくりしようか」


 僕は動悸が激しいマホを落ち着かせるために優しく背中をさすった。


 マホは落ち着くと顔をくしゃくしゃにして泣いた。


「ヒロトも私のこと、嫌いになったよね」


「嫌いになんて、なってないよ」


「嘘よ。私、薬飲まないと情緒不安定だし、こんな女と付き合いたくないでしょ」


「それくらいで嫌いにならないよ」


 僕の言葉は彼女に響いていない気がした。


 彼女の震える手を握ってあげる。


「僕はこれでも君の彼氏なんだ。僕に話したら嫌われると思ってることも、マホの気持ちが楽になるなら喜んで聞くよ」


 僕は優しくマホに問いかけた。


 長い間沈黙の時間に包まれたが、マホは一呼吸するといつもとは違う口調で語ってくれた。


「私もね、一卵性の双子の妹がいたの。小さい頃の私は今の自分とは違って堅物というか、真面目ちゃんだったんだ。人に甘えるのが下手で友達もいなかった。妹、は私と真逆で誰とでも仲良くできて羨ましかったな。私の両親もマホばかり贔屓して私のことなんて眼中にない感じ。顔は同じなのにね。でもマホは私のことを好きでいてくれた。私はまともに話せるのはマホしかいなかったのよ。ある日、二人で川遊びに出かけたの。川に入っちゃって水を掛け合ったりして楽しかったわ。でもマホは調子に乗って奥まで泳いでいってね、服を着たままだったから途中で疲れちゃったみたいで。おぼれちゃったの。もっと早く大人を呼んでいたら助かったかもしれないのに、私、『マホがいなくなれば私だけ見てくれるんじゃないか』って思っちゃってすぐ呼ばなかった。だからマホは死んだんだけど、親はマホが死んだことを認めなくて私——カホが死んだって言い張るもんだから、その日から私がいなくなっちゃったの。それからは


 彼女は陰鬱な過去を淡々と話してくれた。


「そんなの…あんまりじゃないか」


 僕は何と相槌を打てばいいのか分からなかった。何不自由ない生活を送ってきた僕には適切な返しが思いつかなかった。


「私はただこの世でたった一人自分のことを好いてくれたマホの存在を消してしまったんだよ。マホの方が私より上手く生きていけたはずなのに。だから私はマホとして生きることにした。を演じて生きてきたんだ。だけど、私の中をいくらマホの存在に塗り替えても全部変えられないじゃない。だからODしちゃうわけなんだけど。もうこのクセが治るわけないよね」


 彼女は話し終えると自嘲気味に微笑んで天井を見上げた。


 僕は圧倒されて言葉が思い浮ばなかった。


 軽々しく共感することが正しいのか。感じたことのない辛さを想像だけで共感して語るのは軽率極まりないのではないか。だったら「よく頑張ったね」と当たり障りのない発言で済ませるべきなのか。


 しかしそれは思考の放棄でしかない。


 僕は彼女の方に向き合って言う。


「僕は、安っぽい慰めしかしてあげられない。カウンセラーでもないし。肯定をすれば良いか否定してあげれば良いのかも分からない。それに君にしか分からない辛さはどうにもしてあげられない。ただ僕は、今僕の目の前にいる君が好きだということには変わりないし、君が歩むこれからを一緒に過ごしたいなと思ってるよ」


 これが正解なのかどうかもよく分からない。


 しかし愛を伝えるぐらいは許してほしい。


 彼女は僕の方をじっと見つめてきた。


「ごめんクサくて柄にもないセリフだけど」


 居た堪れなくなって付け加えて言った。ただ目だけは逸らさなかった。


「ふふっ、確かに激クサだよ」


 彼女は吹き出して笑ってくれた。


「僕のために死なないで欲しい。カホ」


「なに。それ告白?」


「僕にだって君の心の片隅には存在してもいい権利ぐらいはあるはずでしょ」


 僕がそう言うと彼女は僕にギュッと抱きついてきた。


「本当の私は多分激重束縛メンヘラだよ」


 僕も仕返しにきつめに抱き寄せる。


「もう知っているよ」


 カホはそこにいると実感できた。

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