第9話 商業国家マリシア

満点の星空の夜の後、

朝日の眩しさで目を覚ましたアレグリア達は

再びマリシア国へ向かって歩き出していた。

「シエッドってそういや、

ご飯とかどうしてたの?」

「マリシア国で買ってたぜ。」

「それなら結構買い溜めしてたんだね。

サイコーの布袋を失くしたのも

ちょっと前でしょ?」

「買い溜めなんかしてねぇよ。

お腹が空いたらマリシア国に戻ってたぜ。」

「あの森からマリシア国まで

かなりの距離があると思うのですが……。」

「走ったらすぐだぜ?」

「貴方は一体何者なんですか……?」

シエッドはもしかすると

かなりの手練れかもしれない。

手練れというより、運動神経が抜群なのだろう。

いや、運動神経抜群どころの話ですらない。

アレグリアはこの三人でいることに

かなりの安心感を覚えた。そんな時、

坂道を上っていると遠くの景色が見えた。

「おお……。」

アレグリアは思わず感嘆の声をあげてしまった。

遠くから見てもわかる程の、家屋の数々。

威厳があり、古風さを感じさせない白い城。

壁はなく、城下町に向かう商人達も小さく見える。

アレグリア達は、マリシア国を認めた。

そしてこの商業国、マリシア国の内部に

ワンス村に爆弾を送った理由が、犯人がいる――。

「よしっ、じゃあ早く爆弾の謎を解決しちゃおう!

お風呂とご飯が待ってるよ~!」

駆け足になったマールにアレグリア達は続いた。


マリシア国の城下町は、

とても活気に満ち満ちていた。

あたりには多種多様な出店が並んでおり、

人の数もブリムオン国より多い。

「はいはいはい!こっちの肉お値打ちだよぉ!」

「冒険者御用達のアイテムが揃ってるよぉ!」

「是非お泊りはプレジオン宿屋でどうぞ!」

宿という言葉に反応したらしいマールが、

呼び掛けのお姉さんに聞いた。

「もし、お姉さん。いいお風呂は付いてる?」

「もちろんです!」

「ご飯は?」

「一応頼めますが、

他店の飲食店の方が良いかと。」

なんて正直な人なのだろうか……。

「マリシア国は商業国で人も多いけど、

 そんな群雄割拠の中でも自信ある?」

「はい!プレジオン様お墨付きですよ!」

マールが首をかしげる。

「プレジオンって誰?」

宿の集客のお姉さんは

顔色を変えずに受け答えをする。

「旅の方ですね。プレジオン様はマリシア国随一の

貴族で、凄い方なのですよ。」

話が進んでいるが、

マールは大事なことを忘れてしまっているらしい。

「マール、お金がありませんよ。」

手持ちがないとバレると恥ずかしいので、耳打ちする。

「なんだ?金がねぇならアタシが出すぜ!

お姉さん、いくらいるんだ?」

「1万でどうでしょう!」

シエッドがずいずいと前に出るので

アレグリアは慌てて静止させる。

「シエッド、流石に全て払わせるわけには――」

「いいよいいよ!

アタシ金はいっぱいあるからよ!」

シエッドは小袋を取り出す。

袋は膨れ上がっており、今にも底が破けそうだ。

中を覗くと、金貨がどっさり入っていた。

「うわっ、正確な金額とか分かんないじゃんこれ。

凄い稼いでたの?

それとも凄い倹約家だったの?」

「闇ルートみたいなもんだぜ。へへへ。」

「なんですかそれは。詳しく話を――」

「これで宿泊できるよな!はいよ!」

アレグリアがお金の来歴を尋ねる暇もなく、

取引は既に成立してしまったようだ。

「ありがとうございます!

お部屋はあちらの203号室になります!」

アレグリア達はその203号室へ入る。

中は綺麗で広くて着飾っておらず、

4つあるベッドの上にアレグリアは座った。

そして、お喋りな二人が同時に口を開いた。

「お風呂が先だね!」「飯が先だな!」

二人の目線が合い、火花を散らしている。

「身体を清潔に保つのが先だよ!」

「ん〜にゃ、腹が減っては何も出来ぬだぞ!」

二人を眺めていたアレグリアは妙案を思い付いた。

「各々がやりたいことをしませんか?」

二人がアレグリアを見つめ、顔を綻ばす。


お風呂に入り、昼食を食べ終えたアレグリアは

マリシア国を見て周っていた。

金銭はシエッドから貸してもらっており、

シエッドには頭が上がらないと思った。

今頃二人はどうしているのだろうかと考えたが、

あんな二人の行動なんて読めるわけないと

アレグリアはマリシア国の

城下町歩きに意識を戻す。

人の数はとても多く、皆が様々な格好をしている。

冒険家らしき者、鎧を身に着けた者、

貴金属をふんだんに身に着けた者。

アレグリアはこの国の、この通路にいる人達全員が

何か目的を持って歩いているのだと思うと

なんだか不思議な気持ちになった。

そして少し人酔いしそうになってしまう。

無論、ブリムオン国もこのマリシア国程じゃないが

人の数はいたのだ。

しかし、人がまばらだったワンス村の後に

こんな大都市に来てしまったのがミスだった。

そう思いながら人混みを眺めていると

突然、轟音が鳴り響いた。

それが爆発音だと気付くのに数秒要した。

途端に周りの人々は音の発生源の方角を見やり、

ざわざわと喧騒が増す。

何かトラブルが起きたに違いない。

アレグリアは音の発生源へと駆け出した。

人混みの間を通り抜けていく間

「アレグリアってば

すぐトラブルに突っ込むんだから」

と、マールに言われたような気がした。

そして暫く走っていると

アレグリアの向かい側から走ってくる人も現れた。

やはり何かが起きている。

アレグリアが更に足を速めると、

かなりの大きさの広場らしきところに到着する。

そしてその広場が音の発生源だとすぐに分かった。

荒らされた形跡のある出店、

破壊された木材や石材。

そして、背中から幾つも鋭利な物が生えた少女。

生えているのは鉱石のような見た目である。

だが身体からそんなものが無数に生える筈はない。

彼女は能力者か、もしくは、魔物か。

この世には数こそ非常に少ないものの

魔物が存在する。

どうやって魔物かどうかを判別するかというと

例えば一つは

身体的な構造が人間であるかどうか――。

彼女は一体どちらだろうと考えていると、

一人の灰色の髪の笑顔の少女を認めた。

……シエッドだ。接敵しているらしい。

アレグリアは急いで駆け寄る

「シエッド、大丈夫ですか!」

「ん?あぁ!アレグリアか!丁度良かったぜ!」

シエッドは一層顔を綻ばせた。

「アイツが急に暴れ出して、

人をボコボコにしてたから

さっき買った爆弾を投げてみたんだけどよぉ、」

シエッドがこちらを睨む少女を指差す。

―――待て。

「シエッド、貴方、爆弾を買って

それを使ったんですか?この広場で?」

「ん?そうだぞ。

なのにピンピンしてやがるんだぜ!

結構な強敵だぞ!アタシ達で一緒に戦おうぜ!」

爆弾が売ってあり、簡単に購入出来るこの国。

そしてその爆弾を躊躇なく使用するシエッド。

アレグリアは頭がパンクしてしまわないように、

意識をすぐさま少女へと向けた。

「あ!周りに人がいない時に使ったからな!」

申し訳程度の弁明を聞きながら、

アレグリアは帯剣を抜いた。

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