番外編 名前遊び
これは表題の通り番外編になります。
本編のストーリー進行とは関係ありません。
そのため番外編は読まなくとも支障ありません。
本編執筆に意外と手間取っているので
せめて更新はしようと思い番外編を書きました。
場面的には7.5話の話になります。
三人が話すだけのコメディ全振り回です。
「シエッド、あの子の本当の名前って結局何ていうの?」
「ん〜、あんま覚えてないんだよな。
それよりアレグリアの名前で遊ぼうぜ!」
「いいね!賛成!それじゃっ、せ〜のっ」
「「アレグリアの【あ】!」」
アレグリアは後方で仲睦まじく話す二人を見やった。
「なんですか、アレグリアの【あ】って。」
「名前の文字の頭文字で遊ぶんだよ!
よし!それじゃあシエッド、考えよう!」
「おっしゃ、二人寄ればかなりの知恵だな!」
シエッドがそう言うと、
二人はお互いに口を見せないように手をやり、
ゴニョゴニョと喋っているようだった。
先程まで草木まみれの森で
気分が下がってしまいそうなアレグリアだったが、
今はどうしてか気分は高揚していた。
「よし!全部考えたよ!」
「聞かせてやるぜ、アレグリアを!」
二人の自慢げな声が聞こえる。
アレグリアは一旦止まり、振り向いた
「はいはい、なんですか?」。
「それじゃいくぜ?」
マールが首肯している。
「「アレグリアの【あ】!」」
「あなた達の好きにはさせません!」
二人のシンクロした声が響く。
マールが手に持った杖を剣のように振り、
髪をかきあげ、顔を誇らしげにしている。
そして再び二人の声が重なる。
「「アレグリアの【れ】!」」
「レモンは唐揚げにかけないで下さい!」
シエッドがレモンをかけるような素振りをしてから、
作ったような重々しい顔で首と手を振っている。
アレグリアは刹那、ある記憶が去来する。
マール達がのこの変な遊びのセリフは、
アレグリアが過去に間違いなく言ったものである。
マールはそれをシエッドに仕込んだのか――!
アレグリアが真実に気付いた間にも、
彼女達の声は長年連れ添った夫婦のような
完璧なシンクロをしてみせている。
「「アレグリアの【ぐ】!」」
「愚のこっちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ですね。」
マールはおかしくなった悪者のように天を仰ぎ、
すぐに落ち着いたような素振りを見せる。
これは確か――
ブリムオン国で演劇の代理をした時のセリフだ!
「「アレグリアのぉ、【り】!」」
「リスですか貴方は。ちゅーちゅー。」
シエッドは手を口に見立て、馬鹿にするような顔で
アレグリアを見ている。
いや、馬鹿にしているのだ。
それに、こんなことを言った覚えはないのだ!
マールは嘘を織り交ぜている!
そんな中、最後の【あ】は、一層響き渡った。
「「アレグリアのぉぉぉ、【あ】!!」」
少しの沈黙の後、
マールだけでなくシエッドも口を開いた。
「あ〜ん、まいっちんぐ〜!!!」
アレグリアは帯剣を抜く。
一定の間隔で、横手の剣を上下に振るう。
振るう度、剣の帯びる雷の量は目に見て増え、
轟く音も大きくなってくる。
やがて空は黒くなっていき、
暗闇の中で雷は一層煌めく。
「この……不届き者!!!」
二人が悲鳴をあげた。けれど――
こんなハチャメチャも悪くないと思った。
本名を呼ばれず、
愛を込めてドロボーと呼ばれる彼女は
急に暗くなった空に驚いた。
「まずい、雨が降ったら嫌だな。」
が、そう言い終えると
耳をつんざく轟音が聞こえた。
それが雷だと気付くのに数秒要した。
驚いたドロボーは高速移動中だったためか、
非常に激しく転倒し、穴に落ちてしまった。
穴から見上げる空は、既に青くなろうとしていた。
「……不遇だ。」
ドロボーが穴から抜け出すのも、
遠方にいるランドでさえ、
僅かに雷鳴が聴こえていたのはまた別のお話。
2月1日 誤字脱字を訂正
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