第10話 召喚士
「シエッド、彼女は一体何者ですか?能力は?」
「何者かはアタシも知らねぇよ。
ただ能力はな、背中のトゲトゲがあるだろ?
あれを魔法で飛ばしてくるんだよ。的確にな。
お陰でよぉ……」
シエッドは右手を開き、掌を見せてくる。そこには
折られたような形跡のある太い木材があった。
「その辺の木材が折られちまったんだ。」
シエッドはそれを捨て、側に落ちていた剣を拾う。
ためつすがめつし、「よし。」と呟いている。
「勝手に使っていいのですか?」
「アイツ倒したらチャラってことで!
それに、あの袋もないしな。マールが喚くアレ。」
「その袋の中に、シエッドの武器が
全て入っているということでしたよね?」
「そうそ。アタシの武器じゃないと
本来の実力は出せねぇけど
それでもアタシは強いってとこ、
ちゃんと見とけよ!」
そう言うと、シエッドの表情はがらりと変わった。
神妙な顔付きになり、
目線も少女しか捉えていない。
今まで見てきたシエッドとは、別人のようだった。
そしてシエッドは剣を上段に構え、静止した。
眉一つ動かさず、じっと少女を見つめている。
時を止められているのかと思う程
ぴくりともしない。
まるで波一つない水面ような静けさだ。
すると、少女の方が動き始めた。
背中の鉱石の棘が抜け、中に浮く。
それが一つ、二つと増えていき、
数えられなくなる。
背中に生えていた棘の数とは割に合わず、
恐らく猛スピードで何度も生えているのだろう。
そしてそれらは束となって
シエッドに降り注いできた。
だが、シエッドは静止したままだ。
鉱石はもう眼前まで迫ろうとしている。
「シエッド!私も手を貸しま――」
「ちゃんと見とけっつったろ?」
いつもの笑顔でそう呟くと、剣が振り下ろされた。
剣の速度は凄まじく、目にも止まらぬ速さで
飛びかかる鉱石を払いのけてゆく。
そして、その一連の動作がとても美しかった。
剣の動きに無駄はなく、完璧としか言えない所作。
どの瞬間を切り取っても、絵になりそうな程に。
剣が鉱石と接触する音が数秒間鳴り響く。
魔物らしき少女は攻撃をやめた。
宙に浮いていた鋭利な鉱石が地に落ちる。
「凄い、私以上の剣技です……。」
アレグリアは驚愕し、感激した。
「アタシだってやる時はやるんだぜ?
それより――」
アレグリアは少女を見やる。
少女は恐ろしい剣幕でこちらを睨んでいた。
先程よりも強力な攻撃が襲いかかる気がした。
「困りましたね……。」
「何がだ?」
「彼女、魔物かどうか分かりません。
人間だったとしたら攻撃して良いのか……。」
人間にはあまり能力を使いたくないと思っていると
「流石アレグリア、人命第一だな!
おーい!アンタ!人間か!?魔物か!?」
シエッドがすぐさま質問した。
返答は帰ってこず、
代わりにまた鉱石が襲いかかる。
シエッドとアレグリアは難なくそれらを弾く。
だが、このままでは堂々巡りだ。
アレグリアは少女に向かって叫ぶ。
「お願いです!手荒な真似はしたく――」
「そいつは魔物。容赦しなくていい。」
後ろから聞いたことのない女の子の声音がする。
振り向いても誰もおらず、
横を風が吹く音だけがする。
慌てて前を向くと、
背丈の小さい少女が魔物の少女に駆け出していた。
その少女は黒いコートのような衣服に身を包み、
茶髪のサイドテールだった。
茶髪の少女の呟く声が聞こえる。
「パーテ、アグレカション、ユニオン。」
すると茶髪の少女は怪しい光に包まれる。
その茶髪の少女を認めた魔物は
猛々しい叫びを上げる。
茶髪の少女に反応したようで、
宙の鉱石は一点に集まり、
一つの大きい鉱石となる。
大きさは魔物のサイズを有に超えている。
そしてそれは、
茶髪の少女に高速で向かっていった。
「危ないっ!」
衝突すれば、少女の身体はただじゃ済まない。
少女は巨大鉱石など意に介さず、
右手を突き出した。
鉱石は少女の手に衝突した。
しかし、少女はびくともしなかった。
鉱石はそのまま落下してしまう。
鉱石が大きい紙切れのようだった。
「久しぶりの魔物。絶対捕まえる。」
少女は鉱石を跳び越え、魔物に飛びかかる。
そして右手を突き出し、魔物に触れる。
瞬間、轟音と共に魔物は吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ魔物はそのまま家屋に吹っ飛ばされ、
そのまま壁を打ち破ってしまう。
遠くからは見えないが、
気絶しているように見えた。
まるで先程の攻撃をそのまま跳ね返したような――
「……まさか。」
「アイツすげぇな!仲間にしようぜ!
もしくはアイツと戦ってみようぜ!」
「待って下さい。彼女が一体何者なのか……。」
「私は、ダーチ。召喚士。」
茶髪の少女、ダーチはこちらを見ずにそう言った。
ダーチは、魔物の傍にまで行く。
「貴方の名前は、エスピーナ。私と共に行こう。」
そう言うと、魔物は泡のようになった。
そしてその泡は、ダーチの胸の中に入った。
アレグリアは驚き、困惑した。
「貴方、ダーチは召喚士なのですか?
もうこの世界にはいないと思っていました。」
「確かに、魔物なんてもうほぼいない。
でも、私は、召喚士。」
ダーチと向かい合ってアレグリア達は話をする。
「ダーチさん、その右目は一体?」
「右?――ああ、左目のこと。これは、怪我。」
「おいアンタすげぇよ!アタシ達と旅をしねぇか!?」
「そんなのに、付き合ってる暇、ない。
でも、貴方達、強い?」
アレグリアはもう一人常識人が欲しいと思った。
「アタシは腕に自信があるぜ!
しかもまだ手加減してるしな!」
アレグリアも自身をアプローチしてみる。
「王国の騎士団長をしていました。雷を操ります。
彼女、シエッドは私以上の剣技を持っています。
もう一人いる仲間のマールは
王国一の魔法使いです。」
「その王国って、どこ?というか、何の旅?」
かなり食い付いてくれている。この調子だ――!
「ブリムオン国の騎士団です。
私達が行くのもブリムオン国ですよ。」
「なら私も行く。良い?」
「えぇ、勿論。……え?」
「いいぜぇ〜!やっほ〜!」
アレグリアは追放されてから驚いてばかりだった。
どうして仲間になる人みんな、
こんなに簡単に付いていこうとするのだろうか。
「ええと、ダーチ。
私達は遊びってわけではなくて、
凄く苦しい旅になるでしょうし、
そもそも、どうして貴方が付いて来るのです?」
「アレグリアぁ!そんなこと言うなよ!
アタシの時もそんなこと言ってなかったか!?」
「シエッドは黙って下さい!」
シエッドにチョップする。
いてっ、と呟いてからは黙ってくれた。
「私は、最悪の魔物、殺そうとしてる。
でも、その魔物の場所、わからなかったから、
占いしてもらったら、
ブリムオン国に行けば、
目的は叶うって言われた。」
「ブリムオン国に最悪の魔物……?
そもそもその占いは正確なんですか?」
「占いについては、大丈夫。
最悪の魔物は、最悪の魔物。私も知らないけど、
ブリムオン国に、いるらしい。」
そしてダーチは付け加えた。
「それに、一人で行くの、不安だった。
一緒だと、嬉しい。」
「わかりました、
よろしくお願いします、ダーチ。」
こうして新しい仲間が一人増えた。
アレグリアは常識人が増えたことに
心の内で大いに喜んだ。
「さて、それじゃあこの荒れた広場の片付けを
みなさんで手伝いましょうか。」
「ええ〜!?
あっ、じゃあアタシは討伐専門だから……」
「逃げるな、シエッド。」
ダーチがシエッドの服の襟を掴む。
「アレグリアみたいなのが二人に増えたら
どうすればいいんだよぉ!!」
シエッドの悲鳴の中で
新しい仲間を加えて慈善活動を行うのは、
ブリムオン国にいた時ほど、幸せだった。
王都追放 伊砂リオテ @ISKROT
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