第6話 吉報と共に

「アレグリア、次はどこに行く?」

「そうですね。久しぶりに街に行きませんか?」

「また人助けか。見境なく助けていたらお前の身が持たないぞ。」

「まだ人助けをすると言ったわけではありません。」

「わかるんだよ、お前のことなんて。街にトラブルなんて幾つもある。それを全て片っ端から解決しようなんてどだい無理なんだ。」

「ですが放っておく訳には……」

「お前は優先順位を付けるべきだ。重要事項を先に終わらせろ。お前のその優しさは素晴らしいものなんだ。だからせめてそれを――」

「うわっ!」

アレグリアは目を覚ました。

先程の光景が夢であることを確認する。

夢で見た場所はブリムオン国の光景だと思った。

ブリムオン国で、一体誰と話していたのだろうか。

アレグリアは上手く思い出せなかった。

その時アレグリアの個室の扉が開いた。

蝶番ちょうつがいが軋む音を聞きながら、

夢のことは忘れようと思った。

「アレグリアぁ、起きて……るね。ランドに会いに行こうよ。」

「おはようございます、マール。では早速行きましょうか。」

アレグリアは素早く身支度を整え宿を出る。

朝日が照り輝いており思わず目を細める。

気持ちのいい朝だ。

「お前達か…。」

村人の一人がアレグリア達を見て顔をしかめた。

「ありがとうございます。」

アレグリアは丁寧にお辞儀をした。

信用を得るには、まず感謝から初めてみよう。

「えっ?」

「睡眠時というのは一番守りが薄くなる時です。それに乗じて攻撃をするという選択もあったでしょう。」

アレグリアは起床時、夢を吟味していながらも自室が荒らされた形跡がないか確認したのだ。

「なのに無防備な私達を襲いませんでした。信用してくれてありがとうございます。」

アレグリアは再び丁寧にお辞儀をした。

「な、なんだよ。もう、わかったから顔を上げてくれ。」

男はそそくさと歩いて行った。

「アレグリア流石だねぇ、もう心掴んじゃった?」

「まだまだですよ。それに、村人達が元々

悪い人ではないように思えます。私達に悪くしたのも、

本心では嫌だと感じていると思います。」

「なるほどなるほど。確かに爆弾とか怖いもんね~。」

必ず誤解を解き、本心を確かめる――。

アレグリアは決意を固めた後、ランドを探し始めた。


ランドは壁の前に立ち、黄昏れていた。

「ランドさん。」

「あっ、アレグリアさんとマールさん。お腹空いてないですか?」

ランドは屈託のない笑顔で接してくれている。

「お腹ペコペコだよ~。ご飯でも食べながら三人で話でもしない?」

アレグリア達はランドの自宅へ案内された。

ご両親は家の裏で畑仕事をしており、挨拶を交わす。

その後早速家の中へ招かれた。

「私が料理を作りますのでアレグリアさん達はゆっくりしていて下さい。」

「そんなわけにも行きません。少しくらいお手伝いを。」

「マールちゃんの腕前見せてやるぜ~!」


暫くして、三人分の料理が用意出来た。

ランドは本当にパンとご飯を同時に食べていた。

アレグリアは疑問をぶつけることにした。

「食料なんかはどうしているんですか?」

「食料品なんかもマリシア国から貰っていましたから、爆弾が送られてからは外交を全面的に止めて地産地消を止む無くされました。

お陰で食料の価値が急上昇しました。

畑とかが凄い増えたりしたんですよ。

こうして今考えると正気の沙汰ではありませんね。壁なんか本当に意味がないです。」

「それでも村人全員は養えないよね。どうやって全員分の食料を確保したの?」

マールがスープを飲みながら話を深掘りする。

「農産系の能力者がいるんですよ。」

「おお、なるほどね。それなら安心だね。」

マールが笑顔で、安心しているようだ。

「ちょっと探して色々聞いてみよっ」と言って席を立った。

料理は平らげているが、相変わらず慌ただしい人だ。

止める間もなく「ごちそうさま〜」という間延びした声だけが聞こえる。

アレグリアは気を取り直して質問を続けた。

「壁を無くす気はあるのですか?」

「この村には村長みたいな方はいません。村のみんなの意思によって重要事項は決定されます。ですから壁については私からは何も……。ただ、私自身はそこまで乗り気ではありませんでした。ですが恐怖が村のみんなを支配し、思考を鈍らせました。」

マールは箸を強く握り締めている。

「ランド自身はどうしたいのですか?」

「私自身ですか?」

「はい、ランドはどうしたいのですか?」

「私は……。外交を早く再開すべきだと思います。村のみんなだって、きっと外交を取り戻したいです。他村に恋人がいる人とか、上京した人が村に帰ってきたいかもしれません。よそでしか食べれない物もあります。そして何より……」

ランドは少し目を閉じた後に、決意のこもった強い眼差しを見せた。

「いつ来るかもわからない恐怖に、ずっと怯えたまま、自由のないまま暮らすのは誰だって嫌です。」

ランドは強い口調でそう訴えた。

「村人達全員、そう思っているのですね。」

「ええ、転移魔法で飛んでくるんですから、壁なんてそんな意味なんてないんです。けれど、みんな不安を消せないんです。」

アレグリアは考えた。このワンス村の人達を。

ランドを安心させてあげる方法を。

「私達、実は手持ちがなかったんです。」

「お金なんてそんな。アレグリアさんみたいな来訪者が来たことで、村も一歩進めましたし。」

「いえ、払わして下さい。ですがお金は用意出来ません。ですから――」

「私達がマリシア国が爆弾を送った原因を突き止めます。そしてマリシア国に謝罪させます。」

「ふぇっ?」

「それが宿代と、この美味しいご飯代です。構いませんか?」

ランドは慌てふためいていた。

「ええっ?いや、マリシア国ってすごい大国ですよ?そんな、えっ?えっ!?」

アレグリアはすっと立ち、ランドの家を出る。

来訪者が数年いなかった村で、食事でも取れば大多数の人が見に来るだろう。

案の定、家の外には大勢の村人達がいた。

きっとアレグリア達の話は聞こえていたに違いない。

アレグリアは高らかに声を張り上げる。

「みなさん、私達は今からマリシア国に向かいます!爆弾を送った理由を探るためです!そして、マリシア国に理由をみなさんに説明させ、謝罪させます!」

一呼吸置きながら、村人達と目を合わせる。

「そして貴方達の不安を取り除きます!故人の無念を晴らします!そして、ワンス村に再び明るさを取り戻します!」

群衆の中には、マールが混じっていた。

肩をすくめ、やれやれと言わんばかりに首を振っている。

アレグリアの宣言を聞いた人々は、歓声を上げた。

「頼むぞ~!」「また都市の上手い飯を食べたいんだ!」「アイツの無念を晴らしてくれ!」

やはり、本心は悪い人ではなかった。

アレグリアは心から安堵した。

いつの間にかランドは後ろに立っていた。

「凄いですね、アレグリアさん。」

「人助けが私の責務ですから。」

「アレグリアぁ!何カッコつけてるの!」

マールもアレグリア達の傍に寄ってくる。

アレグリアはそんなマールを見て、顔を綻ばせる。

「流石ですねマール。騎士団らしい仕事への情熱です。

それでは、早速行きましょうか。」

「えっ?ああ、先にお風呂に入っとかないとね。」

「いえ?マリシア国にですよ。」

マールは身体をビクッと震わせ、目を背ける。

「い、いや、私転移魔法まだ使えないし~……」

「この中に転移魔法を扱える方はいらっしゃいませんか?」

アレグリアが村人達に呼び掛けると

「私、使えるわよ。マリシア国方向に私の限界で飛ばしたら、半分くらいは距離が縮むわよ。」

若い女性の一人が手を挙げていた。

「では、早速お願いします。」

「ええ、任せて!頼んだわよ貴方達!

昨日は酷いことしちゃってごめんなさいね!」

「そんなの構いません。ありがとうございます。」

若い女性は早速呪文を唱え、アレグリア達の下が光り出す。

「ええ!?待ってよアレグリアぁぁ!」

アレグリアはマールは気にしないことにした。

彼女は文句は言うものの、

なんだかんだ言って快く手伝ってくれる。

アレグリアは、後ろのランドを見やった。

「ランド、必ず原因を解明します。

あと、村のために行動出来る貴方は尊敬します。」

「私尊敬だなんてそんな……。

それよりアレグリアさん!待ってますね!」

ランドはにこやかに、

目に涙を僅かに浮かべて答えた。

アレグリアは首肯し、再び民達に身体を向ける。

「みなさん、次に会う時は必ず吉報と共に!」

もう一度、先程よりも大きい歓声が上がる。

「さあ、もうすぐ飛ぶわよ!」

女性が大きい声で朗らかに言った。

アレグリア達の眼前が

白に埋め尽くされる前に見えたのは、

ワンス村の人達の曇りない期待の顔だった。

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