第6節
最初の授業が終わり、次の授業までの10分間に生徒会室の広間で休憩を取ろうと自室を出る。広間には顔が死んでるストラーフが力なく下を向き座っていた。
「おい、だいじょぶか?」
心配になり隣に座って声をかけると
「……ふー」
ため息が返ってきた。どうやら授業の内容が難しすぎて頭がパンクして放心状態になっているようだ。
「なんの授業受けたんだ?」
「魔術力学」
「俺と同じじゃねーかよ。どこがわからないんだ?」
「全部」
俺と同じ授業を受けたはずなのに。最初の授業がこれでは先が思いやられる。と思ってたところに。
「いたの」
とアメリカが一言。
「アメリカは何を受けたんだ?」
「理科」
「どんなんだった?」
「ただの生物学。敵の弱点とか生態とかのやつ。これなら簡単」
と淡々と言う。視界の隅でストラーフが少し顔が歪んだように見えたのは無視しよう。3人で授業について談笑していると
「あー君たちもいたのかい」
会長も自室から出てきたようだ。
「かいちょー。何受けたの?」
アメリカが聞く。
「私は魔術力学だよ。名前の割には簡単だったね。最初の方ということもあるだろうけど」
今度ははっきりとストラーフの顔色が悪くなる。
「なんでみんな簡単とかいうんだよ。俺分からなかったぞ?」
ストラーフが抗議するも
「ばか」
「ハァ」
「まぁ、うん、しょうがない」
と撃沈した。そろそろ10分がたとうとしていたので、部屋に戻ろうとするとストラーフに
「おい、どこに行くつもりだよ。今日の午前はもう授業ないぞ?」
と。は?と思ったが、聞くと最初の授業で実技の時間を多くとりたいため、座学は今日は少ないらしい。これをストラーフに言われたことが悔しい。
「お前も案外馬鹿だな」
と笑って言われた。そして会長とアメリカの2人も肩を震わせていた。恥ず。
ピロンと端末の通知音が鳴る。学園からの連絡のようだ。内容は「新入生全員に通達。各階層のトレーニングルームに各自端末を持って5分以内に集まれ」だそうだ。
「一緒に行こうか」
会長に言われるがままトレーニングルームへ一緒に向かった。
トレーニングルームに入るとそこは人でごったがえしていた。トレーニングルームの広さは10,000人が入れるかどうかのギリギリの広さである。ここに全員が集まってトレーニングしようとするなど、できたものじゃない。
それにトレーニング器具が一切見当たらない。どういうことだと不思議に思っていると空中にホログラムが映し出された。そこには1人の男が。
「やあやあ皆さん初めまして。皆さんの攻撃魔術科目を担当する、ボイル・マークローと申します」
紳士的にあいさつしたのだった。
「それでは皆さん早速ですがお手元の端末を開いて、青の丸のようなアイコンのアプリを立ち上げてね」
ポケットから端末を取り出し言われた通りにアプリを立ち上げる。すると画面に「join」と出てきた。
「そしたら『join』をタップしちゃってくださーい」
画面をタップする。そして訪れる不思議な感覚。自分の体がゼロから構築されていくような感覚。思わず目を閉じて浸ってしまった。目を開けると目の前にはトレーニング器具の数々。そして人は消え失せ、生徒会メンバーのみ。一体どういうことだ?
「説明しますと、皆さんが立ち上げたアプリは『DTD(正式名称:Different spaceTransferDevice)』というものだよ。簡単に言うと転送装置だね。トレーニングルームから皆さん専用のトレーニングルームまで転送してくれる便利なアプリ。このアプリはトレーニングルーム専用なのでそこはご理解よろしく」
さらっと説明されたが理解が追い付かない。理解不明な点が多すぎる。
「気になっている方も多いだろうけど、後々他の授業で説明はやるとして話を進めるよ。あ、それぞれのトレーニングルームに割り当てられているのは同じ部屋ごとで登録されていることは言っとくね。この時間の目標だけど、皆さんにはこの時間で自分の『メイン武器』を選んで、扱えるようになってほしい」
なんとも簡単に流したが気にしない方がいいのかもしれない。メイン武器って言ったってどこにそんなものがあるのだろうか。
「それでは、おそらく皆さんの正面に現れてあるであろうホログラムの中から自分の好きな武器を選んでください。使い方は武器の写真の横の欄についているはずだよ」
とちょうど目の前に画面が映し出された。様々な武器がずらりと並んでいる。
「それといい忘れましてたけど、ここで受けた外傷はトレーニングルームに戻ると治るよ。でも痛みがないわけではないのでご注意を」
それっきりマークロー先生は黙ってしまった。持ち武器といっても今までナイフすら握ったことがない。
「おい。これスゲーな!!自分の好きな武器が選び放題だぜ!!!」
既に選んだのであろうメリケンサックを拳にはめたストラーフがそこにいた。一人でシャドーボクシングを始めている。どうやらお気に入りのようだ。
「うーんどれも悩ましいな」
顎に手を当てて考えてる会長は手にピアノ線を握っていた。
「ふむ。これはどうやら魔術を使って動かすものらしい。明智君。そこを動かないでくれ」
「え?」
身構える俺。
「束縛せよ」
会長が発声するとともに俺に向かって伸びてくるピアノ線。そして全力で逃げる俺。捕まったらやばい気がする。
「動かないでくれといっただろう?」
「いや無理ですって!ちょっとやばそうな予感がぁ!」
「まぁいい。しかしこれはいいな軽いし扱いやすい。候補の1つだな」
とつぶやき会長はまた武器選びに没頭し始めた。まったく、ひどい迷惑だ。アメリカはというと
「力がなくてもできるもの……。ナイフ?」
ぶつぶつ呟きながら自分に合った武器を探しているようだ。
「そもそも私科学班だからむりだよ~」
泣き言を漏らしている。さて、俺は何を選ぼうか。
リストを見ると本当に様々な部武器が乗っている。両手剣や日本刀などのオーソドックスのものもあれば、民族武器などのマニアックなものもある。本当に悩ましい。
まず、自分がどの位置で戦いたいか考えてみる。俺は自分の戦闘能力がそこまで高くないと自覚している。となると後方支援型の武器を考えるべきだ。中~遠距離武器が妥当だろう。
そして、自分が直接動くような武器はやりずらいと思う。魔術を使って動かすものか飛び道具がいいだろう。
魔術で動かす武器がいいか。と探しているとさっき会長が持っていたピアノ線を見つけた。説明には正確に扱うことができれば汎用性は高い。とある。ステータスが扱いやすさ、火力、汎用性、俊敏性、耐久力の五角形であらわされていて、このピアノ線は扱いやすさが他のステータスよりも明らかに低い。これを初見で動かした会長に恐怖を覚える。横目で会長を見るともうスムーズに動かしている。怖い。
俺に正確な魔術元素制御ができるとは思わないし、でかめの飛び道具がいいか?そして俺の目に留まったのはマスケット銃。どんなもんかと手に取るとこれが意外となじむ。一丁だけだと連射性に欠けると思ったので二丁持ってみることにした。
俺は戦闘能力が高くないとはいっても筋力がないわけではない。それに銃身は細身で重さはかなり控えめ。これなら二丁扱えそうだ。
他の武器も手に持ってみたがマスケット銃ほどなじむ感じがするものはなかった。よし。俺のメイン武器はマスケット銃にしよう。
少し動かしてみようと片手で銃を構え、天井に釣り下がっているサンドバックを狙って引き金を引く。見事的中…するはずもなく、弾は明日の方向へと飛んで行った。これはかなりの練習が必要そうだ。
周りの様子を見るとストラーフはホログラムのコンピュータ相手にメリケンサックをはめて奮闘中。会長は頑張ってピアノ線を素早く動かせるように練習している。アメリカは手に小型の鋭利なナイフを持ち、人形に向かって刃を通す練習をしている。
あれ?まともに扱えてないの俺だけじゃない?最低限止まっている大きな的ぐらいは当てられるようにしておきたい。そもそもの原因は何かというと銃についている照準器と自分の目の合わせ方が正しくないことだと思われる。
まずは両手でしっかり構えて撃ってみた。あたった。どうやら両手ならあたるらしい。今度は片手で持って撃ってみた。やはり当たらない。まずは照準云々よりも手の震えからくる安定性の無さが課題だな。
もう少し持つ位置をトリガーは引きにくいがバレルに近くしてみた。すると的にかすった。こっちの方がいいかもしれない。もう一度狙って撃つと今度はしっかりとあたった。しかし、反動が大きく腕がもげるかと思うぐらいの衝撃を受けた。ここも要検討だな。
生徒会メンバーのメイン武器
会長・・・ピアノ線
明智・・・マスケット銃二丁
ストラーフ・・・メリケンサック
アメリカ・・・小型ナイフ
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