第5節

 ぐったりとした様子の我らが生徒会長と科学担当の2人を生徒会室に運び、各々授業を受ける準備を始めた。俺は自室で大きめのサイズのホログラムを出し選択した授業のコードを入力して待機。傍らに参考書も置いておくのも忘れない。今のご時世では珍しくもなんともない電子版だ。メモをする準備をし、時間になるまで待つ。

 俺が選択した教科は魔術力学である。これが最も戦闘に関係すると思われたからだ。魔術力学は魔術そのもののに関する学問だ。そもそも魔術とは何なのかなどの魔術を扱ううえで知っておくべきことがそこには詰まっている。

 時間になり、ホログラムに初老の男性が映された。

「私は皆さんの魔術力学を担当いたします王龍ウァンロンです。昔はペキナの近衛兵長といて働いていました。魔術についてはそれなりの心得があるので皆さんに教授していきたいと思います」

初老の男性は好々爺な面持ちで自己紹介を始めた。ペキナの近衛兵というとペキナの軍隊の中でも上位の強さを誇るエリート部隊だ。そこの兵長をやっていたということはこの爺さん相当の実力者だろう。

「では早速ですが、みなさんの手元にあるであろう参考書の2ページを開いてください」

指示されたページを開くと魔術についての歴史がびっしりと書き連ねられていた。見ただけで読む気が失せる。

「ここに乗っている魔術の歴史はごく一部の大まかなものでしかありません。しかし、魔術の歴史なんてものは社会の時間にでも学んでくれればいいので、今回は少しだけ触れて残りは飛ばします。約500年ほど前に、ある学者がポンペイ遺跡という遺跡で保存状態のいい死体を見つけたことから始まります。その死体を調べてみると、1マイクロメートルにも満たない古代の生物が発見されました。その学者はそれを魔術体と名付け、他の学者と研究を重ねました。その結果魔術体よりも危険度が低く、どこでも生存できる個体が作り出されました。それが魔術元素です。研究の終了と共に魔術元素は瞬く間に世界に広がりました。ここで大事なのは、まっゆつ元素が生物であることです」

魔術元素、と聞くと水素や酸素といったものと同じように考えてしまうが、そうではないようだ。

「では、次の見開きのページを開けてください」

次のページをめくると可愛いとも言えないし気持ち悪いとまでは言えない微妙な絵で魔術の仕組みが説明されていた。

「魔術を扱う上で最も重要なことがここに書いてありますので説明します。まぁ、こんな絵であらわされているのは少々不本意ですが。

 まず、現在の地球の環境下では空気中も水中も空も魔術元素というのがあることを理解してください。場所によってそれぞれ微妙な性質は違いますがそれはまた後で。我々は地球上にある魔術元素を反応させて魔術を発生させています」

参考書には魔術元素と書かれた丸に手足が生えたキャラが「僕はどこにでもいるよ!」と言っている。なんて触れずらい絵……。

「どのように魔術元素を反応させるのでしょうか。その鍵は『音』にあります。魔術元素という生物は自身の近くで発生した音に対し生命の危機を感じ何らかの反応をする。という本能的性質があります。それが魔術にあたるわけです。ここまでわかりますか?これを理解してないと魔術は扱えるわけないのでよく理解しておいてください。

 そして重要な点がもう1つあります。基本は魔術はただよう魔術元素の反応によって発生します。しかし、異なる方法があります。それは体内の魔術回路を使う方法です。長い時間魔術元素に触れたり、魔術元素濃度の高い場所にいたりすると君たちの体は魔術元素に慣れようとし、体が魔術元素に変わり始めます。体が魔術元素に変わった部分を魔術回路と呼びます。魔術回路は体内にあるため、ただよう魔術元素を使うより素早く、効率的に魔術を使うことができます。君たちにとってはこれが主流になることも少なくないはずです。ここで注意点が1つ。魔術回路を使いすぎるとどうなるか、という点です。結論から言うと高確率で死にます。先ほども言った通り魔術元素とは生き物です。生き物を生かす分のエネルギー必要になります。そのエネルギーは普段でしたら体が変質した部分から来ますが、魔術回路がなくなると宿主の体のエネルギーで代用しします。つまり死です。くれぐれも魔術回路切れだけは起こさないよう注意してください。基本的な説明は以上となります。頭がこんがらがっている人も多そうなのでここで一度休憩及び質疑応答の時間とします。質問がある方は私にデジタル帳で質問を書いて送ってください。休憩が終わったらその中の何個かの質問にこたえようと思います。では五分の休憩とします」

王龍先生の怒涛の説明が終わった……。大体の基本は分かったが絵のせいで内容が定着しない!誰だこの参考書作ったやつ。マジで許さん。

 まぁとにかくここでの重要な点は

①魔術とは魔術元素という生き物が周りの音に反応して起こる反応である

②魔術を使う方法として、漂う魔術元素を使う方法と体内の魔術元素である魔術回路 

 を使う方法がある

③魔術回路を使う方が便利だが、魔術回路を使いすぎると死ぬ

ということだろう。上手く使えるかどうかは別として有用な知識であることは確かだ。と色々自分で整理しているうちに休憩時間が終わってしまった。

「それでは授業の続きを始める。まずは質問が来ていたので返していこうと思います。1つ目は、『魔術は人によって違う属性があると聞きましたがそれはどういうことでしょうか』というものです。これは、魔術属性と呼ばれるものですね。魔術属性というのは人によって扱いやすい属性が異なり、火、水、土、空、闇、光の6つに分かれる魔術の性質のことです。火は炎を、水は水、土は土、空は空間、闇は存在、光は光をそれぞれ操ることができます。この違いは人の声や音、魔術回路に流れる周波数の違いです。わかりましたでしょうか。

 そして2つ目『音を出さなくても発生する魔術もありますがそれはどうなっているんですか?』というものですが。音とは言いましたが音とは空気の振動のことを表します。我々には聞こえませんが微弱な超音波が魔術元素を反応させている場合もあるのです。これから話すことと関係あるので一緒に話してしましますね。

 魔術の発動条件は大きく分けて3つに分かれています。次のページを開いてください」

………また奇妙な絵が描かれている。

「1つ目は発声魔術。人の声によって発動する魔術です。魔術元素が反応しやすいため威力の高い攻撃魔術が多いです。実際にやって見せましょうか。燃えろ」

先生の手に炎の玉がぼっと現れた!

「こんな感じですね。実際は発声する言葉は何でもいいのですがこういうものは雰囲気です。2つ目は発音魔術。人の声ではない何かで発生します。例えば指を鳴らすとかですね。主に支援系統が主ですかね。実際にやると」

パチンッと先生が指を鳴らす。先生の腕が太くなっていく!

「こんな感じですね。これは筋能力を若返らせる魔術です、一時的ではありますがね」

とムキムキの先生。そして一瞬で元に戻る先生。

「では最後に3つ目。無音魔術です。先ほども言った通り、空気を振動させる微弱な音波が出せれば、理論上は可能です。出せればの話ですが。それが出せたら超級魔術の域となるのでさすがにこればっかりは私もできません。しかし、魔術とは空気の振動。もし自分が使った魔術と同じ周波数を出せることができたら同じ魔法も再現可能ということです。ということでやります。よくみていてください」

先生が手をパンと叩く。先生の手に炎の玉がぼっと現れた!!発声魔術の時と同じ大きさ、同じ火力に見える

「とまぁこんな感じです。これが習得できるようになると、戦闘では早く魔術が使え、並列使用も工夫しだいによっては可能になります。私は本来発声魔術のものを短縮し発音魔術に昇華させることができます。魔術は極めれば極めるほど圧倒的優位性というのは見つかっていくものなので皆さんも頑張ってください。

 次。3つ目の質問。『普段私たちは声を出して喋っていますがそれはなぜ魔術元素に反応しないのですか?』というものです。これはねどういうことかというと、魔術元素は生き物だって話はしましたが、魔術元素は声に含まれる意思を表す部分に反応していると考えられています。皆さんも殺意のこもってない言葉なんてビビりはしないでしょう。それと同じです。魔術元素が発声主の感情を読み取って反応を示しているということです。だから魔術を使うときに大事になるのは声の大きさもそうだけど、感情というのが一番大事になってきます。これを忘れると発動させたくても発動できなくなるから気を付けてください。

 さて次の質問…と思ったのですがもう時間がないようですね。では今日はここらへんで終わりにしたいと思います。しっかりと理解できるまでは復習はしておいてくださいね」

と先生は言い残しホログラムは消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る