第4節

 402期生徒会室に戻った後、部屋に重い雰囲気が流れている。生きようと決心したのに早々と人の死亡話を聞くという、なんという皮肉。

「……お風呂、入る?入るなら沸かすけど」

ボソッと会長がこぼす。時間を見ればもう20時を回っている。

「じゃあ、お願い」

アメリカがそう言うと

「わかった、沸かしてくる」

会長は浴室の方に消えていった。

「ここのお風呂男女別なんだけど、男の方も沸かしとくー?」

浴室の方から会長の声がする。

「俺たちでやるからいいよー」

と返すも

「ごめんもう沸かしちゃったー」

と言う。思わず笑ってしまった。

「ハハッ聞く意味ないじゃんかよ」

それから始まる談笑タイム。先輩たちがあーだったとか、あしたからどうすればいいんだとか。とりとめのない会話をして、それからお風呂に入って、自室に戻る。

 しかし先輩方には悪いことをしたかもしれない。聞いちゃいけないことを聞いてしまった。反省だ。一年も激戦区で戦っていれば、仲間を失うことだってあるだろう。どんなに強い人だったとしてもそれは例外ではないはずだ。

 少し気持ちが沈み、バフっとベッドに寝転がり携帯端末を開く。ホログラムが浮かび上がり明日の授業スケジュールが出てきた。朝8時から魔術力学と理科の授業が早速入っている。

 授業は1時間一コマで、好きな授業を選択して受けることができるらしい。過去の授業も動画として残るので全ての授業に参加する必要はないと思われる。そのため、同時に2,3つ程度の授業が同時に行われているわけだ。

 午前中は両クラス共通の授業が3つ入っており、午前は戦闘クラスは戦闘の実技訓練、科学クラスは科学クラスのみの授業となる。6時に全ての課程は終了し、それ以降は自由時間。授業や訓練を全く受けないことだって可能だ。しかし、一ヶ月後には戦場に立つため死にたいならば、ということになる。

 授業内容は6つ。攻撃魔術、支援魔術、魔術力学、理科、社会、演算式学だ。これから戦場へ出る身としてはなんとしてでも魔術系科目はとっておきたい。とは言っても理科も社会も演算式学も全て魔術に関係しているので必修科目だろう。

 また、学園都市には年に数回試験が行われるらしい。戦闘の実技試験とその他の筆記試験を2週間かけてやる。1年最初の試験は1ヶ月後の10月3日からスタートとなる。その結果で部隊編成を決める。部隊編成を考えるのは生徒会だそうだ。

 暇な時間は自由行動。自主練をしてもよし。探索や模擬戦、復習。なんでもいいらしい。

 この学園都市の構造は海溝の両壁に8層づつあり、片方を戦闘クラス、もう片方を科学クラスに分けている。それを1年目と2年目で更に半分に分ける。3年目の1年間は本場の戦闘地へ研修らしい。また、1層毎に食堂やトレーニングルーム、図書室、医務室……、といった施設が設置されている。生徒を8つの部隊に編成し、それぞれの部隊が一層使うということになっている。生徒会は第一層の施設を使う。

 357期生徒会室は戦闘クラス側の壁の頂上、さっきまでいた356期生徒会室は科学側の頂上だ。距離にすると平均70km。それを短時間で移動できるのだから半無重力空間というのは便利なものだ。

 肝心の戦闘についてだが、奴らは不規則的にやってくる。みんなが寝静まってる中来ることもあれば、授業中だって来る。どんなときでもすぐ臨戦態勢に移れる俊敏さと対応力が必要なわけだ。

 ピコンと唐突にメッセージ通知がなる。会長からだ。

「一応生徒会のグループを作っておく。活用してくれ」

という短い文面とともにメッセージグループへの招待コードが送られてきた。一応そこに軽い挨拶を返し、携帯端末の電源を落とす。ついでに部屋の明かりも消し寝る体制に入る。

 暗闇が部屋を包み込む。次第に意識が消えかかっていく。けたたましいサイレンが鳴りひびこうとも、携帯端末の通知音がなろうとも、意識は暗闇の中へと落ちていく。



                       ✽



 耳元で携帯端末の無駄にうるさいアラームが鳴る。時刻は7時。ちょうど食堂が空いた時間だ。ちゃちゃっと軍服に着替え、部屋を後にする。洗面所で軽く寝ぐせを直し、顔を洗って食堂へ向かおうとすると、生徒会室のドア付近に俺以外のメンバーが集まっていた。

「遅いじゃないか。親睦を深めるためにも一緒に朝食を取ろう、と送ったつもりだったのだが」

と会長。ポッケに入れた携帯端末を取り出しメッセージアプリを立ち上げると確かに通知が届いていた。

「悪い。見てなかった。結果的に合流できたから許してくれ」

「……十分待った。十分を返して欲しい」

と少し怒っているアメリカ。現在の時刻は7時10分。どうやら7時集合だったらしい。

「まぁ集まったことだし、行こうか食堂」

そう言って俺たちは食度に向かった。食堂は生徒会室を出て右側の廊下を進んだ先にある。そこまでの距離はないが。酔って吐かれたら大変だ。

「おい、ストラーフ。今度は大丈夫だよな?って寝てるし」

心配になって声をかけると、そこには半目状態になっているストラーフが。

「ああ、彼は昨日の夜の戦闘を遅くまで見ていたそうだ」

昨日の夜というと、うっすらとだがサイレンが鳴っていた記憶はある。その戦闘のことだろう。

「要するにただの馬鹿」

なかなか辛辣なことを言うアメリカ。

「だれがぁ……ばかだってぇぇ」

力が入っていない声で答えるストラーフ。こんな彼を見るのは意外と珍しいかも知れない。

「会長…髪の毛ボサボサ。直してあげる」

すトラフの声を完全に無視し興味が会長の寝癖に行くアメリカ

「ん?そうかい?髪型なんてまったっく気にしてないからなぁ」

アメリカが手に持ってる串で何度も会長の髪をとかす。が、直らない。何度やっても直らない。そんなことをしているうちに食堂についた。 

 人でごった返してるかと思いきや、意外にも人は少なかった。どうやら各部屋に朝食を届けることが出来るらしい。なぜそっちにしなかったのか聞くと、

「え?だって君みたいなやつはどうせ部屋でひとりで食べるだろう?」

とごもっともな答えが返ってきた。実際その通りだから何も言えない。

 朝食はバイキング制で和洋中色とりどりの料理が並んでいた。4人がけの席を取り、さっそくバイキングの列へと並ぶ。俺は和食コーナーに行き、ご飯一膳と味噌汁を持って席に戻ろうとした。その途中、目を輝かせながら色とりどりの料理を見る会長とアメリカがいた。

「何をやっているんだ?早く取らないと時間がなくなるぞ?」

「いや、だって、こんな豪華なものが朝食だと?なにか毒でも入ってるんじゃ……」

「こんな食べ物、見たことない…。怪しい」

ものすごい勢いでそんな事を言う2人。そのままぶつぶつと「いや、でも」と繰り返している2人を無視し、席に戻る。

 席にはもうストラーフが座っていて、ステーキという朝から重いものを選んで、ほかのメンバーの帰りを待っていた。まだ2人は帰ってこないのでなにか話題はないかと思い2人のことを聞いてみることにした。

「なぁ、ストラーフ。会長とアメリカがさっき料理見て騒いでいたんだが何か知ってるか?」

少し、苦笑いをしてストラーフが答える。

「あーー。あの2人は生まれも育ちもスラムなんだろうな。スラムじゃあこんな料理一生で1回食えるかもわからないものだからな。2人も生まれて初めて見るものばっかりなんだろう」

「なるほどじゃあなんでストラーフは平気なんだ?」

「俺はもともと貧困街の人間じゃないからな。元貴族だったんだよ俺。親が失脚しちゃって落ちぶれたけど。だから数年ぶりだな。こんな豪華なものは。」

表情を暗くしてストラーフが言う。なにか琴線に触れたのかもしれない。これ以上踏み込むのはやめておこう。

「そういう明智はどうなんだ?」

「俺は東都育ちだけど、東都には貧困街とかなくて皆地上に住んでたから、こんなもんがふつうだとおもってた」

「東都はそんなとこなのか。お前、いいとこ住んでんな。」

そんな感じで談笑していると、2人がげっそりといった顔で来た。手にはパンとジャムを持っている。席に着くと

「「はぁぁぁぁぁぁぁ」」

と長いため息。そして始まる口撃。

「なんでさぁ!人が困っているというのに君たちはっさぁ!!助けもしないわけ!?」

「信じられない…!」

罵倒が出てくる出てくる。まるで湯水のように。だいぶ気力が削られたが一通り終わったあとやっとのことで朝食になった。そして

「「美味しぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」

と2人の歓声が食堂に響く。スラムで生まれ育った者にとってはそれは天井の食べ物と思える程の美味しさであった。2人はまたたく間に最初に持っていたパンを平らげると、すぐにおかわりを取りに行った。俺とストラーフはそんな2人を見て吹き出して大笑いした。

「お前らw食いすぎだバカ!www」

「帰りの時に吐くなよー!wおいてくからな!」

 時刻は7時40分。楽しい食事の時間も終わり、生徒会室に帰る道中、案の定アメリカと会長が吐いた。

「うげぇ。食いすぎた」

「食べ過ぎって……良くない……」

「「だから言ったのに」」


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