第2節

どれぐらい見とれていただろうか。数分といわれればそんな感じもするし、数時間といわれても納得できる。ただの命の取り合いが、俺たちを引き付けた。

 生徒会室前の半魚人があらかた片付いたと思ったら、第二陣と入れ替わった。第二陣は半魚人だけではない。真っ黒で普通の半魚人の3倍ぐらいの巨体を持った半魚人が数匹混ざっている。

「この戦闘。端末で中継やってぞ」

とストラーフが端末片手に言った。ポケットから今日配られた端末を開くと通知が来てた。それをタップすると各戦線の状況が中継されていた。黒い半魚人がいるのはここだけで、他は撤退し始めている。

 ここが一番の激戦区っぽい。なら、ここは中継よりも生で見る方が得だろう。端末の電源を落としてポケットにしまう。もう一度先輩方の活躍を見ようとすると生徒会室の硬質ガラスに赤黒い靄がかかっていてよく見えない、

 何秒か呆け、そして気付く、赤黒いものがすべて人の「血」であると。よく見ると臓器やら手足やらも浮かんでいる。先ほどまで戦っていた先輩たちの、だ。赤黒い靄の中で先輩たちが黒い半魚人の相手をしているのがわかる。たちまち吐き気が4人を襲う。耐えきれず洗面所に走り出した。

 洗面所について一斉に吐き出す。ついさっきの光景が頭をかすめる。武器を握ったままの手、驚いた表情の顔、臓器が飛び出ている胴体。

 そして、吐いた。4人全員が一斉に。何も食べていないからまだ幸いなものの、気持ち悪いものは気持ち悪い。

 自分の吐瀉物を見ると余計さっきのグロテスクな景色が浮かんでやまずい。

「はは、初めての共同作業がまさか吐瀉とはな」

ポツリと会長がこぼす。

「これで俺ら、ゲロ友だな」

ストラーフが言うと

「そのネーミング嫌」

とアメリカが零す。

 やっと落ち着いてきた。それは他の3人も同じなようだ。

「しかし、なかなかに刺激だったな。」

と俺が言うと

「1年後はあそこに立っていると思うと怖気がするね」

と会長が返してくれた。

「そこまで生き残れるかどうかわからない」

アメリカが冷静に言う。

 先輩たちは今は5,6万程度しかいないがもとは俺達と同じで15万前後いたはずだ。つまり、一年で全体の三分の二の10万人が死んでいる。

 3人に2人が死ぬということでもある。そうすると優秀者が集まる。優秀者が集ま手もなお、今回のように死者は出る。死の身近さというもを嫌というほど突き付けられた。

「俺はまだ死にたくない。」

ストーフが。

「同意」

アメリカが。

「そうだな。死にたくはない」

俺が。そして

「生き残ろう、絶対に」

会長が。

「ここに第402期生徒会の始動を宣言する!」

各々を思いを抱え402期の生徒会の開始が宣言された。



             *



 生徒会室のホールに戻ると黒い半魚人の影はなくなっていた。血の霧でぼやけてよく見えない。

   ピピピッ!!

 けたたましく携帯端末からアラームが鳴る。

「敵個体の撤退を確認。戦闘員は撤収してください。今回の戦闘の死者数は366人、負傷者多数。繰り返します……………」

 戦闘が終わったらしい。1日の戦闘で死者数が400。これは少ない方なのか?

 このペースで行くと、襲撃が3日に1回と仮定して、1年で襲撃はおよそ122回。×400だから、48800人?あれ?意外と少ない。さすが1年生き残ってきた先輩たちだ。1年で10万が死んでるわけだから。今日はまだ優しい方だったってことか?あれで?

 また思い出して吐き気がする。気持ち悪い。吐かないように、上を見上げると、撤収していく先輩たちの姿が見える。

 この学園都市はマリアナ海溝上部半分を占めていて、側面の壁に穴を開けた空間を利用している。生徒会室のような例外はあるが、多くの部屋や寮はそこを使っている。

 海とその部屋との境目はどこにあるのか。人類はまだ酸素がなければ生きていけない。水の中で暮らすのは不可能だ。そこでここ学園都市では、部屋と海との間に「接続域」なるものを設けた。

 これは、海中トンネルに扉をくっつけたようなものだ。もちろん水圧に耐えられるように扉は厳重で、生徒会室から以外の命令ではあかないようになっている。

 ここの床に水を取り込み海へ吐き出す機構をつけることによって、海から部屋、部屋から海への同じ高さでの移動が可能になるわけだ。

 血の霧が晴れると人影がはっきりと認識できた。お面を被った女の人がいる。扇動をしているようだ。右手に片刃の剣、左手に両刃の西洋剣を持っている。軍服についている数々の勲章に埋もれるようにして生徒会のバッジが見える。

「一個上の副生徒会長……だと思う」

 とアメリカが「396期生徒会」と書かれたメンバー表を携帯端末で見せてくれた。便利だなこの端末。

 一個上の生徒会は3人しかいない。会長の枠がない。メンバー表は副会長から始まっている。

   副会長 サシャ・アダムズ(生徒会長代理)

 金髪のポニーテールで長い2つのうさぎ耳のようなリボンをつけて満面の笑みを浮かべる写真が横に並んでいる。戦闘中は仮面をつけるが、仮面を外すと写真のようになっているのだろう。

「副会長がさっきの戦闘に参加してたってことだよな」

ほぼ独り言なのに会長が反応してくれた。

「そうなんだろうね。期待してるよ?明智君。君副会長なんだし」

「あんま期待しないでくれ。俺の魔術は戦闘向きじゃない」

「なんだ。つまらん。私も戦闘向きではないからな」

「2人は超級魔術師か。羨ましい限りだな!」

「どこがだよ、ストラーフ。超級ってだけでこんな危険な役職ねぇよ」

「どんな力か気になる……」

「こういうのは言っていいものなのか?まぁアメリカが知りたがってるしいいか」

と言って会長は自分の魔術について語ってくれた。

 おおよそのことをまとめると

・思考速度が速くなる(めちゃくちゃ)

・頭が良くなるわけじゃない(例えば1+1という問題でもやり方がわからなければ解けない)

・どうやったら発動するかはわからない&過去に発動したことがあるのかもしれない

すごくシンプルでわかりやすい魔術だ。会長は多分と付け足してはいたが、ほぼ確定だろう。

 それに比べて自分の魔術は何なんだ。「共有」って。一応説明はしたけど理解してるのはアメリカだけっぽい。俺がわからないのになんで理解出来てるんだ。

 実際使ってみないと勝手がわからないな。感覚や意識の共有はざっくりしすぎててわからん。自分が思ったことが他人にも共有されると考えるとゾッとする。

ピロンッ

誰かの携帯端末から通知音が鳴る。

「あ、メッセージ。一個上の生徒会からだ」

「なんて?」

「『入学おめでとうございます。一度顔合わせがしたいので401期生徒会室まで来ていただけますでしょうか』だって。行く?」

顔合わせってなんか怖ぁ。断りたいところだけど行くしかないかなぁ。一応意思表示だけは

「いや、俺は行きたくn……」

「行こうか!」

はぁ。知ってた。俺以外みんな行く気満々だしな。行くか。

「場所がわかんらなくないか?」

「携帯端末からマップ出せる……。よく見てストラーフ。」

 ホント便利だな。この携帯端末。困ったらこれ見てれば何でも解決するぞ。

 戦闘時のアラームとか戦闘の中継とか戦後報告、全在校生メンバー表、メッセージ機能にマップ。まだ使ってない機能もあるだろうし、多機能だなぁ。しかもこれホログラムモニターまでついてて、立体でパネル操作とかができるんだよなぁ。ホント便利。

「それで401期生徒会室ってどこなの?」

「向かいの壁の一番上のドーム?たぶん」

「……遠すぎないか?」

「うん……遠いね」



                  *



 なんとか生徒会室についた。大変だった。学園都市の通路は重力が低く設定されて、肉体的に疲れはしない造りになっている。そこで高速で移動できるようにもなっているから。でも、ストラーフが酔った。そして最寄りのトイレを探してた。

 それだけじゃなくて渡り廊下が透明になっていてマリアナ海溝の底まで見えてしまいアメリカが気絶した。高所恐怖症だったらしい。

 さらに、まだ処理されてない死体が海中に浮いていて気分が悪くなった。気絶してたアメリカが羨ましいぐらいだ。

 俺がストラーフを引きずり、会長がアメリカをおんぶした状態で到着するというなんとも情けないことになった。

 流石にこれではまずいのでストラーフとアメリカが回復するのを待った。そして、401期生徒改質と書かれた扉を開ける。すると、

パンッ!パンパンッ!!

と空砲。

「「「「!!!!!」」」」

「へへっ驚いてくれた?ようこそ学園都市へ!ようこそ戦場へ!歓迎するよ後輩ちゃんたち!!」

 写真のように満面の笑みを浮かべ銃を持ったサシャ・アダムズ副会長が出迎えてくれた。

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