第1節 

学園都市 体育館 能力テスト結果返却後

「俺が生徒会メンバー?」

明智白霧は驚愕した。

 なんの才能も特出した能力も持っていないと思っていたのに。精々、部隊長にでもなれれば御の字だと思っていたのに。

 そんな自分に超級魔術の力があるとは思ってもいなかった。唯一の幸運は前線型ではなく、後方支援型であることだけだ。

 前線に出たらいつ死んでもおかしくはない。前線に好き好んで出るバカはいないだろう。

 生徒会かぁ……。仕事多そうだな。

 「生徒会」それは同期を統率し導く役目を担う職。政治で言うとこの内閣、軍で言うところの中央本部みたいなものだ。当然のごとく激務だ。

 そんな重大な役目を俺が負っていいものか。しかし、教師長からの直々のご指名……。「No」と答えるわけにもいかないのだろう。

「テスト結果が返ってきたところで、君たちのこれからについて説明しようと思う。」

教師長が説明を始めた。曰く

・生徒には寮が用意されている。5人で一部屋である。しかし、生徒会メンバーは生徒会室横の個室が用意されている。

・これから3ヶ月の基本的戦闘術を学んだあと試験を実施。その結果より部隊を編成。部隊編成は生徒会に一任する。

・生徒は攻撃魔術

    支援魔術

    魔術力学

    理科(地球外生命体生物学)

    社会(歴史)

    演算式学(数学)

 の6つの授業を受ける

・学園都市に在席するにあたり特別な軍服の支給がされる。

以上である。意外と学校っぽさがあって驚いた。

 戦争と言う命の危険にさらされるが、衣食住&基礎的知識が保証されるのだ。そのまま故郷にいるより明らか良い待遇である。

 あまりにも魅力的。魅力的すぎるのだ。「死」というリスクがあろうともここが楽園のように思えてしまってならない。

 正常なら、おかしいと思わなくては駄目なのだろう。命まで投げ出すことと引き換えに得られるのが最低限の衣食住保証という不公平な交換条件。

 俺だっておかしいと思いながら、ここに居たいのだ。故郷の泥をすするような生活には戻りたくないのだ。

 その後、携帯端末とデジタルでの教科書類の配布されたあと、生徒はそれぞれの寮に案内された。俺は生徒会室だ。

 生徒会室はマリアナ海溝の一番上層部。硬化ガラスで覆われたドーム状の部屋だ。部屋に入った瞬間、目眩がした。広い。正面には大きな机と椅子があり生徒会長と書かれた札が机においてある。机の前には横に長いソファーが二脚向かい合っていて、真ん中にこれまた大きなテーブルが。上は吹き抜けで光が入ってきて明るい。壁沿いには電子版が貼り付けられており、学園の様々な情報を除くことができるそうで。こんな待遇は生徒会だけらしい。

 その部屋の奥から4つ道が伸びていて、入口から見て右上の通路の先が俺の部屋だ。

 自分の部屋に入ってみてまた目眩がした。ここも広い。生徒会室ほどではないがベットや机、棚等の生活雑貨品はすべて揃っていた。洗面所やトイレ、風呂は生徒会の共有スペースだが、どうせ広いのだろう。

 柔らかそうなベッドを見て、俺は飛び込みたい衝動に駆られる。気付くと俺はベッドの上だった。いつのまに!?初めて感じるベッドの柔らかさ……。故郷では畳に敷布団のお堅い寝心地とは違う感触。なんと落ち着くことだろうか。ああ、ずっとベッドにいたい。

 しかしずっとこうしてはいられないわけで。他のメンバーの一人が来たようだ。しぶしぶ体を起こして生徒会室に足を向ける。

 俺を合わせてメンバーは4人。どんなやつだろうかと思って生徒会室に入る。

 ふと、淡い紫色が目にとまった。薄暮のような夜に飲み込まれそうな色だ。そこから覗くのは金糸雀色のキレの長い瞳。髪色と合わせて奇麗な満月を思わせた。美しいという言葉で表すのが烏滸がましいほど、美麗でどこか寂し気な気配を漂わせていた。

 それを人の顔と認識するのにしばし時間がかかった。眼の前にいたのは自分より身長が少し引くいの女。支給されたばかりの軍服を身にまとい、右目に片眼鏡、ボサボサの長い髪。髪の頂点にはピョンと伸びた角のような……所謂「アホ毛」がたっていた。

(すげー頭良さそうなのになんか残念だなぁ)

しばらく見惚れていると

「初対面で人をジロジロ見るのは失礼だと思わないのかい?」

と、その女が口にした。

 なんて返したらいいのかわからななったのでとりあえず謝る。

「…………そうだな。すまなかった。」

が、それを無視し女は椅子に足を組んで偉そうに座った。生徒会長と書かれた札がのっていた机の、だ。

「始めまして、副生徒会長君。私が会長だ。よろしく頼むよ。」

そう言うと、手を差し出してきた。握手しろということだろうか。

 自分も手を伸ばし、握手した。

「副会長になった明智という。こちらこそよろしく。」

「ああ。よろしく」

慈愛に満ちた聖母のように女、もとい会長が微笑んだ。

 幾分もしないうちに残りのメンバーも揃った。筋肉質の魔術班担当シュテルケ・ストラーフ。そして、白銀の髪を後ろ1つでまとめた科学班担当スカアハ・アメリカの2人だ。

 たった4人。されど、一人一人がポテンシャルを秘めた4人なのである。

 メンバーが揃ったところで改めて自己紹介をしようということになった。まずは会長から

「今期の生徒会長になった……私には名前がないのだがどうしたらいいんだ?

 まぁ、いいか。名前はない。ロンド出身だ。よろしく」

凛とした声が生徒会室に響く。名前はあまり触れない方がいいだろう。そして沈黙。横腹を会長に強めにどつかれ自分の番だということに気づく。

「副会長の明智白霧だ。東都から来た。よろしく頼む」

会長とはまるで逆のやる気のない腑抜けた声が響いた。

「んじゃ次は俺かな。一応魔術班担当になったシュテルケ・ストラーフだ。難しいことはあまりわからねぇがとりあえずよろしく」

優しげのある「兄貴」を思い起こさせるような声がする。

「スカアハ・アメリカ……コミュニケーション…………得意じゃない……よろしく」

小さいがはっきりとした覚悟を持った、そんな声をしている。そして最後に会長が

「さて、自己紹介もこのぐらいにして、多分だけどこれから面白いものが見れるぞ」

唐突に不安感を覚えた俺は自分の部屋に行こうと後ろを向くが

「おい、面白いものが見れると言っただろう。待ちたまえ。」

止められた。しかも肩を強い力でつかまれながら。手を払おうと手に力を入れると

「警報警報敵個体感知。戦闘員は至急出撃してください。繰り返します………」

突然サイレンが鳴り始めた。どうやら奴らが来たらしい。俺たち新入生は戦わず、先輩たちが戦ってくれる。会長が言っていた面白いものとはこれだろう。

「あぁ、やっぱり来たね。ちゃんと見たまえよ。えっと明智君」

さも当然のごとく会長が言う。俺はいやいやだが、他のものはそうでもなさそうだ。

 ストラーフは落ち着いているように見えるがよく見ると小刻みに揺れていて嬉しさが出ている。アメリカはおもちゃを前にした子供のように目を輝かせて上をみている。

 俺もそれにつられて上を見てみると、すでにそこには先輩方の部隊が展開していた。特殊スーツを身にまとい様々な武器を手に持つ先輩方。これから殺し合いをするとは思えぬほどの平静さが見て取れる。

 先輩方が身にまとっているスーツは化学班が整備、点検をしている。このスーツを身に着けることで運動能力が向上し、魔術も少しうまく扱えるようになるらしい。元から能力が高いものにとっては逆に足かせになるそうだが。

 普通の軍服で出陣している先輩もいる。その先輩方はきっと元から能力が高いのだろう。防御性はどうなってるんだ。なんて考えているのもつかの間。奴らはやってくる。

 長柄を持った魚と人が合体したような奴、半魚人が大多数を占める大部隊だ。思わず視線を下げてしまう

「敵個体数およそ八万。半魚人と断定。戦闘員の皆さん検討を祈ります」

とサイレンが鳴る。八万!多くないか?一日にかける一戦線の数としては多すぎる気がする。

「先輩方はだいたい4,5万ってとこかな?数じゃ不利だね。まぁ心配はいらなさそうだけど」

 血なまぐさいのはあまり好きではないが再び見上げると。戦闘とは言えないぐらいの惨状だった。虐殺に近い形で先輩方が半魚人を倒していく。

 半魚人は知能が低いのかワンパターンな突撃しかなく、それを確実によけて反撃をたたきこんでいっている。

 避ける、斬る。避ける、叩く。避ける、突く。避ける、殴る。リズムよく半魚人を処理していく。舞踏のようにも見えるそれ。血に染まるはずの体は海水によって洗われて、戦闘前と依然変わらない様相を保っている。

 俺たちもあと1年したらこうなれるようにならなくてはいけないのだ。たった一年で。ここまで。

「「「「はぁー」」」」

ぽつりと漏らした感嘆の言葉が重なる。顔を見合わせて少し笑った。ずっとこうしていたいと思った。戦場の恐ろしさを知らず、こうして笑っていたいと。

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