第31話 昼下がりの屋上
昼休み、恵と一刀は示し合わせたわけではなかったが、校舎屋上にいた。
一刀が購買部で買ったパンと缶コーヒーを片手に屋上に行くと、恵がベンチに座りスマホを見ている。
昼食はまだのようだ。コンビニで買ったのであろうメロンパンとサンドイッチがパック牛乳とともに未開封のまま置いてある。
「その制服新品か?」
恵は一刀を見ると軽く手を振り笑顔で応える。
「うん。JES特製。ライフジャケットにもなるんだって」
両腕を広げてみせる。
「バイトに何やらせようってんだよ」
スパイキットがもれなく付いていそうな勢いだった。
一刀は隣に腰を下ろす。
「あの怪人な」
「コンドーさん?」
「さんはつけるな。近所のおっさんのように聞こえてくる」
「怪しげなおじさんだったよね」恵は笑う。手ではまだスマホをいじっている。「からくり人形にも驚いたけど、あんなのが出てくるとは思わなかった」
「雷撃すらしのぎ切ったからな」話を聞いた平田は呆れていた。「あいつは体表強化だけでなく、肺や喉も強化していたみたいだって聞いた。喉を振動させて超音波を武器にしていたらしい。かまいたちのような音波の刃やレーザーメスのような切れ味のいい音波メスを作り出していたんだって話だ」
「斬るのと穿つ、二種類あるのなら、アメとジュースで使い分けていたのかな?」
「もう少しまともなネーミングや掛け声はなかったのかよ」頭を抱えたくなる。
「小銭や飴玉出された時にはどうしようかと思った」腰が砕けそうだった。「もともと声の甲高い人とかいるから、そういうのを改造したって感じなのかな」
「改造人間って呼んでたくらいだからな。平田さんの話じゃ、肺や喉の強化と高出力なエネルギーが必要だってさ」
「だからかな、最後は爆発していたものね」
「ヒーロー物の番組じゃお約束だが、マッドすぎるだろう」
「FBトリガーって言っていたよね。天地仁左のことも知っているようだったし」
「いったいどれだけ秘宝を狙うやつがいるんだよ」
「人気上昇中。伝説なんかじゃなくて、もはや確定事項になっちゃったし」
「狙うやつらだけじゃない。天地仁左の生み出した六柱までいるんだぞ」
「からくり人形、凄かったよね」
「平田さんが直接調査したがっていたからな」
平田は地中での崩落が進行中にもかかわらず、抜け穴に潜り込もうとして番場に押しとどめられていた。やむなく小型の無人探索ロボットを用意したが、今度は井戸の底の扉が開けることが出来なくなっていたのである。『地』の仕業なのか抜け穴が崩落していたのかは不明だったが、平田は泣く泣く抜け穴調査を断念するのだった。
「崩落も、ここまで大ごとになると思わなかったね」
「維持するためのエネルギーがなくなったからだという説明だったが、あれでもかなりゆっくりとした崩落だったらしい」
「一気に陥没が起きていたら噴火みたいな土煙が上がっていたとか? 被害も最小限だったし、龍玄寺も無事。やっぱり地上のことを気遣ってくれたのかな」
「あの周辺に家は建てるなって、言い伝えがあったらしいからな。あんな理由だとは思わないだろうが」
恵が撮影してきた映像はすべてJESに提出していた。
これならレボートも説明も楽になるのではと考えたからだ。それをもとに分析が進められていたが、全貌の解明は難しいとのことだった。
恵の手にしていたスマホには根府屋のニュース画像が映し出されている。
上空からの崩落の様子やカルデラ全景は見るものを圧倒する。
「三摩地の隕石騒ぎの次は根府屋の陥没か」
「トラックの暴走もあったよね。事件と災害の多発地帯?」
「マスコミ騒ぎすぎだろう」
「抜け穴伝説を取り上げているマスコミもあるけれど、陥没は地下鉄工事が影響しているっていう専門家もいるみたい」
「それこそ関係ねぇだろう。まったく」
「みんな事実を知らないものね。うちにも取材が来ていたってお爺ちゃん言っていたよ」
「バカ騒ぎしすぎだろう。まあ真相を語ったところで、誰も信じないだろうがな」
「夢でも見ていたのかなって思うよね」
恵は空を見上げいう。
「夢ではありませんよ」
ふいに後ろから声がする。
「彩さん」
「なんでお前が学園にいるんだよ!」
「学園見学ですよ。似合いますか?」
彩は南風学園の制服姿でポーズを取って見せるのだった。
「素敵です」
同じ制服を着ているのに、清楚なお嬢様を見ているような気がしてしまう。
うっとりとした表情で恵は彩を見つめている。
「一緒に写メとってもいいですか?」
「年を考えろよ。イタイだけだろうが」
「失礼だよ、一刀クン」
「本当のことだろうが」
「似合ってる!」
真っ向から意見が対立し、にらみ合いになりそうな勢いだった。
「恵さんに誘われていましたので、学園というものを見てみたいと思いまして、勝手ながら入らせていただきました」
制服はJESで用意してくれたという。
「番場さん、何考えてんだよ……」
「言ってくれれば案内したのに」
「サプライズです」
「許可取ってんのかよ」
「誰にも怪しまれませんでしたよ」視線を集めていたようだが。
「通うつもりなのか?」
「学業には興味がありましたが、高校生というのは恵さんからお誘いがあるまで想定していませんでした。この年代の方たちとの交流や学園生活は未体験でしたので、見学してみようかと考えた次第です」
「おとなしく通信制でもやってろよ」
「え~っ、いいじゃない。このまま授業も受けていきましょう」
「どうやってだよ?」
指摘されて考え込む恵だった。
クラスの授業に紛れ込むのは難しいし、今日は合同授業も選択授業もなかった。
「お二人は仲がよろしいようですね」
「腐れ縁だよ」
「幼馴染的な?」
二人は躊躇なく答えていた。
「あらあら。お二人の昼食はいつもここだと大場さんから伺ったので、御一緒しようかと」
手にした巾着袋を見せる彩だった。彼女もまたマイペースである。
「お弁当ですか?」
恵は目を輝かせ、一刀は呆れ顔でため息をつく。
「本当に何しに来てんだよ」
「お誘いですよ」
「お昼の?」
恵の隣に腰を下ろすと巾着の口を広げ弁当箱を三つ取り出す。
「それもございますが、恵さん」そのひとつを恵に手渡しながら「次の土曜日にお時間はおありでしょうか?」
「デートですか♪」
「ちょっと違うかもしれませんが、御一緒にいかがでしょう?」
「どこへでも行きます! 映画館でも遊園地でも、天文台でもいいです♪」
「少し遠いですが、海嶺村まで」
「海嶺村? 磯崎半島の突端にある? いいですよ。私、行ったことないですし、楽しみです♪」
「一刀さんもいかがですか?」
微笑みながら一刀にも弁当箱を差し出し訊ねる。
「なんでついでみたいにオレに言う」
恵があからさまにがっかりした顔をしているのを見ながら、怪訝そうな顔で訊ねる。
「私とではお嫌ですか?」
「面倒だ。二人で行きゃあいいだろう」
「それでもいいのですが、天地様関連の事柄ですので」
「それを先に言えよ! 何で恵を誘う? オレの方が先だろうが」
「逢引しているようで」
照れたように彩はポーズをとる。
「おい!」
「え~っ、それじゃあ、私がお邪魔虫みたいじゃない?」
「なんでこんなババアと!」
「ひどいですわ。お姫様抱っこまでしてくださりましたのに」
「それ初耳だよ……」
茫然とした顔で一刀を見る恵だった。
「優しく守っていただきましたよ」
恵の眼がさげすむような視線へと変わっていく。
「そんな目で見るな。あ、あれは、下ろすタイミングがなかっただけだ!」
慌てて否定する一刀だった。からかわれているとも知らずに。
「これからですよね」
「何がだよ。誰もよろしくなんてしねぇぞ」
「私は彩さんと二人でデートがしたい」
「これも何かの縁でございます。三人で参りましょうね」
彩は笑顔で一刀と恵に言う。
その笑みがやっぱり胡散臭いとため息をつき、頭を抱える一刀だった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます