第20話 塔の中

「儀式って言ってたが、大祭に続きがあるなんて思わなかったぞ」

 一刀はすました表情で歩く彩を横目で追った。

「私も次があるなんて知らなかったよ」

 恵は苦笑いしながら答えた。

「珠を三つ揃えて、これから何をやろうってんだ?」

「龍を起こしに行くみたい」

「寝てんのかよ! なんだ、そりゃ? 一番司になったお前がやるのか?」

「彩さん、本来の儀式は選ばれた人がひとりでやるものなんですよね?」

「龍の力を得るのは一人ですから、そうなりますね」

「じゃあ、なんで今回は、この三人なんだ?」

「レギュレーションは龍神の御心次第なのでしょう。今回は珠の継承者も随行を許されたのでしょうね」

「ずいぶんと、いい加減だな」

「ファジーなのでしょうね」

「ファジー? 彩さん、そんな言葉も知ってるんですね。意外です」

「私も色々と外来語は学んできていますから」

 彩は恵に笑いかける。

「もし恵じゃなくて他が選ばれていたら、オレたち三人がお供だったかもしれないんだ」

「桃太郎のお供みたいだね」

 恵は笑う。

「団子もらってないぞ」

「一刀クン、お腹空いてる?」

「大丈夫だ」

「私はお腹空いたな~」

 考えてみると昼からろくに食べていない。

「終わったらご馳走いたしますよ。豪華に行きたいですね」彩も同意する。

「私、唐揚げが食べたいな」

「お作りしますか?」

「本当ですか! 楽しみ♪」恵ははしゃいだ。

「妙なフラグ立てんなよ」

「え~、いいじゃない。楽しみがあったほうがやりがいあるよ」

 一刀はどう返答していいか分からずため息をつく。

「そんなに軽いもんじゃないだろう……これはよ」

 西の鳥居を抜けると拝殿や本殿の脇を通り抜けることなく、東の鳥居が目の前に現れる。

 それをくぐると、三人の前には三重塔があった。

「王武ノ塔ですね」

 彩にはすぐ分かった。

 一辺が十五メートル四方の四角い三層にわたる塔で、高さは三十メートルほどある。

 櫓か小さな城にも見える造りだ。

 塔全体が淡く光り、真新しくも感じられる。

「一瞬だったね」

 東の鳥居から王武ノ塔までは直線距離で三百メートル以上あったはずである。

 空間がねじれているようだ。

「ここで儀式が?」

「そのようですね」彩は恵に頷く。

 恵は石垣の石段を上り、塔の扉に触れる。

 継承者に反応したのか、鍵が外れ、鋼鉄の扉がゆっくりと奥に向かって開いていく。

「開かずの扉が開く……」

 彩は感慨深げだった。

「もしかして彩さんも初めてなんですか?」

「はい。ここは何人たりとも開くことのできない扉でした」

「ここが公開されていなかったのって、そのせいなのか?」

「その通りです。鬼浪の末裔が何度も塔に侵入を試みていましたが、失敗していましたから」

「やっぱり阿義の連中は三行神社にも来ていたのか」

「この扉の向こう側を見たのは天地様が最後でしょう」

 以降七百年、ここに足を踏み入れた者はいなかった。

「天地仁左を知っているのか」

「霧双霞の継承者様もお知りになりたいことがおありかと思いますが、すいません。これが終わったら何なりとお答えいたしますので、それまではご容赦を」

 彩は一刀に頭を下げる。

「言質取ったからな。逃げるなよ」

「逃げも隠れも致しません」

 彩は微笑んだ。

「入るのはいいけれど、真っ暗で中は何も見えないよ」

 光も差し込まないのか中の様子をうかがい知ることはできない。

「小型だけど強力だっていうライトを持たされてはいるが」

 一刀はポーチからペンライトを取り出す。

 JESから支給された七つ道具のひとつだ。

「これから先はどのようなことが起きるのか、一切見当がつきません。ご用心を」

「さっさと済ませようぜ」

 一刀は霧双霞を抜くと、恵よりも先に塔の中に踏み込んだ。

 突然明かりが灯る。


「どうなってんだ?」

 踏み込んだ瞬間、何かがぐにゃりと歪んだような感覚に陥る。

 恵も気付いたのか辺りをキョロキョロと見まわし、違和感のもとを探し出そうとしていた。

 光源が見当たらないにもかかわらず、真昼のように明るい。

 中央にあるのは木彫りの像だろうか? 三つの面に四本の腕がある。

 壁には顔の判別がつかない像が百体以上彫り込まれ、四方から三人を取り囲む。

「三行神社は、寺じゃないよな?」

「神仏習合の処もございますが、当神社はもとより龍神をまつる社です」彩は一刀に答える。「それよりあれは魔神体でしょうか?」

「なんだよ、それは?」

「そう呼ばれるものがあると伺っていました。塔の中に封じられている物があると」

 それぞれ三つの面が人の業を表しているのではないかと彩は感じてしまう。

「封じる? いやな予感しかしないぞ。こいつ動き出すんじゃないだろうな?」

 天地仁左のからくり、歌鳥と同じような不可思議な造りのものかもしれない。

「木彫りの像にも見えるけれど、龍の試しだとしたら、そういうのもありそう」

 関節のようなものは見当たらないが、何が起きてもおかしくない雰囲気だった。

「それに塔の中だろう。こんなに広かったか?」

 市のアリーナよりも天井が高く広い。

 しかも、ふり返ると入ってきた扉も消えている。壁中の像という像が彼らを見ているようだった。

「三重塔の中だよね?」恵も確認する。「上に行く階段も見当たらないよ」

 一刀は霧双霞をかまえ、恵も棍を握りしめいつでも対応できるようにしていた。

「すでにここは異なる空間、いわば龍の中なのでしょう」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

 彩の言葉に一刀は突っ込まずにはいられなかった。

「塔の中の様子を伺ってきた方のお話です」

「それも天地か?」

 一刀の問いかけに彩は、それが答えだと言わんばかりに微笑む。

 すべて見透かされているようで、それが腹立たしかった。

 罠やギミックがあるかもしれないとは考えたが、それでも一刀はそのまま像の前まで進んでいく。

 二メートルほどの高さがある木彫りの像は禍々しい。

 三つの面にある目は閉じられているが、開かれた口は怒り、妬み、欲望があふれ出してくるかのようだった。

 首は後から据えられたのだろうか、身体とは違う色と造りに見える。

 法具などは手にしていなかったが、今にも武器を手に動き出しそうだ。

「普通こういったところにある像ってのは有難味のあるもんじゃないのか?」

「寺院の三門にある仁王像とかとも違うよね」

 突如、三面すべての眼が見開かれた。

 生々しい眼が来訪者それぞれをねめつける。

「こいつが龍か?」

 濁り、血走った眼には狂気と憎悪が宿っている。

「違う。龍じゃない」恵は像に向かって棍を向ける。「もっと邪念に満ちたもの!」

「……鬼浪……」

 七百年前、鬼浪の者たちは復讐に燃え、狂気と怨念に満ちた眼差しを人々に向けていた。あの時の記憶がよみがえり彩は背筋が凍り付き、震える。

「憎悪だか、狂気だか知らないが、こんなのがいるんじゃ、これは儀式でも試練でも何でもないだろう!」

「じゃあ、私たちは何しに来たの、一刀クン?」

「ここが龍の中だっていうんだ。そこにこんなのがいるんだぞ。そんなの異物駆除に決まってるだろうが!」

「龍を助ける? それとも元に戻す?」

「オレたちは龍やダイケンが出来なかったことをやらされているんじゃないのか。七百年だか鬼浪だか知らないが、こんなもの残すんじゃねぇよ」

 はた迷惑な話だ! 今はいない当事者達に向かって一刀は吠える。

 壁に彫りこまれた像が揺らいだ。

 黒い影のようなものが像の中から這い出てくる。

 悪鬼か、亡者のように揺らめき、低い唸り声を上げ、向かって来た。

「いったいどれだけため込んでんだよ」

 長きにわたり蓄積された人の欲や邪な心がここには満ち満ちている。その禍々しさが一刀には鬱陶しいとさえ思えた。

 一刀は正面の壁に向かって刀をかまえ駆け出した。

 囲まれて面倒になる前に斬り込んでいったのだ。

 土偶のような影を横一文字に霧双霞で斬る。

 手応えはなかったが、真っ二つにされた影は霧散していく。

 返す刀でさらにもう一体。

 次々と現れた影を切り裂いていく一刀の刀さばきは見事としか言いようがなかった。恵の眼でも追いきれないほどの剣戟だ。

「凄いよ、一刀クン」

 彼女も負けじと前に出て、棍の先で影を突く。

 しかし、霧のように体をすり抜け、突き抜けるのみだった。

 続いて二体を横から薙ぎ払ってみるが、霧散することなく影は形を取り戻し、じわりじわりと恵や彩に迫ってくる。

「どうして?」

「霧双霞だからこそ可能なのでしょう。流石天地様の作りし名刀です」

「分かるように説明してください、彩さん」

「理屈は私にも分かりません。ですが実体の無い情念や怨念のようなものを滅するための剣を創り上げたと聞きました。そのひとつが、朧の家に伝わる霧双霞なのです」

「そうなんだ」

「そんなんで納得するな!」一刀にも聞こえていたのだろう。影を切り伏せながら叫ぶ。「刀だぞ、そんな力があるわけがないだろう!」

「事実でございます」

 彩はひと言で切り捨てる。

 まるでこの時ためにここに引っ張りこまれたと言わんばかりだ。

 一刀は舌打ちする。

 さらに雄叫びを上げ、影を切り裂く。

 最小限の動きで素早く刀を操る所作は美しいとさえ感じさせるものだった。

 一刀は多くの影を霧散させていたが、どうにも数が多すぎる。

 決定的な力を持たない恵や彩の回りに集まり始めていた。

 いったん後退し、一刀は二人の守りに回らざるを得なかった。

 影には通常の攻撃は効き目がない。それなのに影から攻め込まれると、それは物理的にも威力のあるものだった。

 彩は短刀で影の攻撃を受けるがその衝撃で彼女はよろめいている。

 再度、彼女に襲い掛かる影を一刀は霧散させた。

「ありがとうございます」

「どれだけ湧いてくるんだ、切りがないぞ」

 こいつら戦闘員かよ、と一刀がぼやく。

「向こうの攻撃だけが当たるなんて卑怯だよ」恵は文句を言う。

「思念の塊なのでしょうか、影に触れると精神的にも衝撃が来ます」

「こいつらなんなんだよ。実体が有るのか無いのか。どっちなんだ」

「通常の武器では斬れない、いわばエネルギーの塊でございます」

「霧双霞は普通じゃないってのかよ」

「天地様がお作りなったものであれば、どのようなものでも斬ることができるのではないでしょうか」

「どういう理屈だよ」影を斬りながら彩の言葉に突っ込む一刀。

「私にも分かりません。ですが、情念や怨念などの精神的なものや霊的なものにも力やエネルギーがあるのなら、それ以上の高純度な力をぶつければ消滅させることが出来るとおっしゃられていました」

「それが正解だとしても、本来計測すらできないものを斬ろうなんて考えるか? 作ろうとなんてするか?」

「天地様は必要だとお考えになられたのでしょう。龍の力からヒントを得たということでございました」

「じゃあ龍って、龍の力って何なんだよ?」

「天地様には理解できたのかもしれませんが、私には分かりませんでした。ですが、この先に龍はいるのです。会ってみればその存在がどのようなものなのか分かるはずです」

「先なんてないだろうが!」

 一刀はすでに喧嘩腰で彩と話をしていた。

 怒りが霧双霞の力になっているかのように、その刃はさらに切れ味を増し、影を霧散させていった。

「自らの手で作るのでございます」

「だから、どうやってだよ」導き手じゃないのかよ!

「と、とにかく目の前のことを片付けよう、一刀クン。そうすれば先が見えるよ」

 一刀は文句を言いながらも律義に彩を守り、影を倒してくれていたが、いつか切先が彼女に向けられるのではと、恵は彩と一刀のやり取りをハラハラしながら聞いていた。

「鬼浪が七百年前に残したものが、いえ、それ以前からのものがこの空間に封じられてきたのかもしれません」

 像の禍々しい邪悪な目がなおも来訪者を見つめ続けている。

「面倒なものを残してくれる」

 悪態をつきながらも一刀はすでに半分以上の影を蹴散らしていた。


 彩は戦闘の最中であっても恵や一刀の姿を追い続けている。

 伝えられてきた過去の出来事と今、二人が成そうとしていることが絡み合ってくる。

 こんな状況にもかかわらず彩の思考は身体を離れ、傍観者のように高みから周囲で起きる事象を観察し続けていた。

 龍とダイケンの伝承には戦いの様子を伝えるものはなにも無かった。

 それは人の目に見えるものではなかったのかもしれない。今この時のように、次元の狭間か異なる空間での戦いであったのではないか。

 剣は象徴としてだけ存在し、龍の力は物理的なものなどではなく高位のエネルギー、もしくはそれに類推するものであったとしたら……。

 天地様はそれを見抜いていていらした。

 龍によってもたらされた力が彩を生き永らえさせたように、何らかの形で彼の子孫にも継承されていたのではないか?

 仁や徳といった正の力としてだけでなく、欲望や憎悪が負の連鎖として遺伝し膨れ上がり、強大なものへと変質していった。

 滅することのできない力として。

 龍は殲滅することのできない力を自らとともにここに封じ込めた。

 そして限界まで力を使い果たした龍は眠りにつく。

 その目印として龍を崇める人々によって王武ノ塔が建てられた。

 のちにそれは神社に受け継がれ、三摩地の遺跡とともに守られてきたのかもしれない。

 龍が目覚めるのに多くの時が必要だったのか、それとも龍を呪縛から解き放つ者たちが現れるのにこれだけの時間を要したのか……。

 天地様は、いつの日かこの時が来ることを予見していたのだろう。

 稀人が何を考え望んでいたのか、今となっては知る由もない。

 彩は傍観者などではない。ましてや導き手でもなかった。当事者として二人とともに最後の鍵となる。

 鬼浪一族の呪縛や因縁とともにあった龍を永劫ともいえる時の牢獄から解放するのだ。

 決意を新たに彩は短刀を構える。


「恵! 目の前の阿修羅を見張っていてくれ、絶対にそいつは動き出すぞ!」

 中央の像がただ三人を傍観しているだけで終わるわけがない。一刀はそう確信していた。

「一刀クン、そっちはお願い」

 影に背を向け、恵は像に向きなおる。

 恵には像の手の中に突然、剣が現れたように見えた。

 両刃の直刀だった。柄が古代の勾玉を模したような形をしている。

 左の二本が彼女に向かって、右側の二本は彩に振り下ろされた。

 恵は二つの刃をかわし、彩の前に立つ。

 特殊合金製の棍棒で二本とも受け止めた。

 火花が散る。

「彩さん、一刀クンの方まで下がってください」

「わ、分かりました」

 彼女は頷き、恵の邪魔にならないように後退する。

「実体があるなら、私だって!」

 ひるまず、三つの面から覗く目を睨み返す。

 像の足はゆっくりぎこちなく踏み出してきた。四本の腕が別々に動き、刃が恵に襲い掛かってくる。

 一本にしていた棍棒を三つに分離させる。

 それぞれの手に剣を持つ要領で構え、上下左右、様々な角度から繰り出されてくる刃を受けては返していく。

 彩の眼には両者のやり取りを追うのが困難なほどだった。

 その早業は剣舞を見ているかのごとき鮮やかさがある。

 鋼と鋼がぶつかり合う鋭い金属音と刃が空を斬る風切り音だけが、飛び散る火花とともに聞こえてくる。

 かまいたちでも起きているかの様に恵の装束や皮膚が切り裂かれていく。

 恵はゆっくりと踏み込んでくる像の圧力に負けじと三節棍を振るう。

 逆に右足で踏み込み押し返そうとさえしていた。

 業を煮やしたか、像は彩を追っていた面が正面の恵へと向く。まるで首を挿げ替えたようだ。

 左腕二本の動きが一瞬鈍る。

 恵はその隙を逃さなかった。

 三節棍から棍棒へと切り替え、右腕の攻撃を体を入れ替えるように回転しながらかわしていく。

 その動きを加速させ勢いをつけると棍棒の先を左下の腕の付け根に刺すように突き付けた。

 同時に平田が備えてくれたボタンを押す。

 強烈な電撃が解き放たれる。

 そのエネルギーは雷にも匹敵するものだ。

 木の焼け焦げた臭いがあたりに漂い、左下の腕が落ちた。

 あまりの衝撃と閃光に、恵自身も驚かされた。

「物騒なもの、付けてるな」

 一刀はそれを見て呆れる。

「もしもの時にって、平田さんが付けてくれたんだけど……」

 これほどの威力だとは聞いていなかった……。いったん間合いを取りながら恵は身震いする。

「何発でも撃てるのか?」

「両端にひとつずつ。だから、あと一回」

「なら、うまく使えよ」

 像は距離を取っていた恵に再び向かってくる。

 使い慣れた体ではないようなぎこちなさがある足運びである。腕の動きとは対照的だった。まるで別々の意思で動いているようだ。

「足さばきはこっちが上なら」

 恵は刃をかいくぐり、膝の皿の辺りを棍棒の先で思いっきり突いた。

 動きは鈍ったように見えるが倒れるまでには至らない。人の膝なら皿が割れてもおかしくない一撃にも像は耐える。

 それならばと同じ個所にさらに強く、素早く移動しながら何度も棍を打ち込んだ。

 ついに膝が折れ、像はバランスを崩し、倒れた。

「手助けは……、いらないか」

 横目で見ると一刀は影を倒し切ったのか、刀を鞘に納めていた。

「もう少し待っていて」

 恵は立ち上がろうとする像の腕を根元から次々と粉砕していく。

 なおも首が面を変えつつ回っていた。ネジのいかれた玩具を見ているようだ。

 その首元に棍棒を突き立てる。

 最後の一撃が解き放たれた。

 強烈な放電現象とともに首が吹き飛んだかに見えた。

 恵がさらに攻撃の構えを取る。

 まだ終わっていない。

 首は宙に浮かんだまま、それぞれの面の目や口からどす黒いものを吹き出してくる。

「やっぱり」恵は一刀に声を掛ける。「あいつを斬って!」

「そういうことか」

 一刀は音を立てずに床を素早く走り、間合いに入ると居合から一閃、刀を振るう。

 断末魔の声がしたように聞こえた。

「滅しろ!」

 さらに上段から閃光一線、縦一文字に切り裂いた。

 醜悪な叫びを上げながら、憎悪の塊は浄化されていく。

「骨肉の争いだか何だか知らないが、次からはあの世でやってくれ」

 霧双霞を鞘に納めながら、一刀は言い放った。


「お二人とも御見事です」

 彩は感嘆し、称賛を送る。

「さすが一刀クン」

 ハイタッチを求めてくる恵の手に一刀は軽く合わせる。

「よく気付いたな」

「剣を受けていた時にね、神経が逆なでされたというか、嫌な感覚だったんだ。それに像自体は木で出来ていたのかもしれないけれど、あの首だけは別物に見えたの。彩さんが鬼浪の怨念だと言っていたこともあるし、一刀クンの刀じゃなければ倒すことはできないかなって」

「これで龍に巣食っていた鬼浪の怨念は消し去られたことでしょう」

 彩は恵に頷く。

「そのわりには何も起きないぞ」

「始まっていますよ」

 彩は胸に手を当て一刀に微笑む。

 その笑みはまるで後光がさしているようだった。

 すべてが光に包まれていく。


「あの輝きは何だ?」

 大場は指さす。

 三つの塔の相輪が同時に輝きだしたのである。

「何が起きようとしているんだ?」

 相輪の先端で光は収縮し三つの光の球体となる。それがさらに相輪から浮かび上がると、ひとつに合わさり東の方角へと向かった。

「はてさて、興味深い現象だね」

 カメラを回しながら平田は心躍らせる。

「三摩地の池の方角だ」

「行きましょう!」

 彼らは急ぎ乗り込むと車を急発進させた。平田が特殊車両でそれに続く。

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