第5話

第2章 第1節「東の魔術師」

 前線都市東部中央、通称「研究特区」。

その食堂で、魔術師・神崎ルカは大きく伸びをした。生活補助ロボットが管理運営する食堂内に、他の魔術師の姿は無い。朝食にしても昼食にしてもひどく中途半端な時間帯だからだろう。では何故彼がここにいるのかと言えば、単純に夜間警戒の当番明けで食事を取り損ねていたからである。交代時間ギリギリまで外敵を迎撃していたため魔力残量は残り30パーセントを下回り、彼の愛機である武装端末『エリック』も、フルパワーで連続稼働した影響により性能が低下し始めている。要するに彼も彼の武器も、一仕事終えたばかりで疲れ切っていたのだった。

 1時間程前に攻撃を受け骨折し、十数分前に魔術で治癒されたばかりの右肩の調子を確かめるようにぐるりと回して、ルカは両手を合わせ目を閉じる。

 「ご馳走様でした」

すると、その時。まるで見計らったかのごとく、彼の手首にはまったバングル――『エリック』が、淡く点滅し始めた。同時に、機械音声が再生される。

 [マスター]

 「ん?」

 「端末名“エリザベート”よりメッセージを受信。応答しますか?]

 「リクさんから?……わかった、繋いで」

 [了。接続開始]

『エリック』の声が途切れて、掠れたノイズが鳴る。次の瞬間、うってかわって朗らかな子どもの声がルカの名を呼んだ。

 [あ、ルカ?お疲れ様ー!]

 「お疲れ様です。……なにかありました?」

 [うんまぁ、あったといえばあった、かな。とり急ぎ聞いて欲しいんだけれど]

 「わかりました。じゃあ今から戻りますんで――」

 [いや、大丈夫だよ。もうそっちに着く]

はい?と、ルカが聞き返すより早く。通信越しではなくもっと近くで――具体的には食堂の入り口の向こう側から、地響きと共に轟音が響いた。思わず肩を跳ねさせたルカの横で、テーブルやら椅子やらが衝撃によって揺れている。さらには、緊急事態を察知した店員ロボットたちが意味もなく走り回って。混乱の最中、がらりと入り口のドアが開いた。

来訪者たるその少年は、自身の武装端末である[エリザベート]を戦闘状態で起動したまま、――つまりは無骨な鋼鉄の大剣を二つ左右に浮かび上がらせたまま、顔を引き攣らせるルカににっこりと笑いかけた。

 「ほら、すぐだったでしょ?」

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