第8話 爵位剥奪(妹視点)

「どうしてこんな事になったの!?」



お父様が終身刑となった翌日から、地獄のような日々が待っていた。

毎日届く手紙。

その内容は、私への非難ばかりだった。



『麗しく、心お優しいサリーエ様を!』

『お前はサリーエ様からどれだけ奪ったんだ!全てお返ししろ!』

『今生きているのは、サリーエ様のおかげだと知れ!』



名前は書いておらず、誰からのものなのか分からない為、どうすることも出来ない。

お母様にも、少しばかり来ているようなの。



『育児放棄!』

『サリーエ様がお可哀想…妹ばかり!』

『サリーエ様もあなたの娘ではなくて?』



頭を抱えているお母様。

私もどうした良いのか分からない。

それだけではなかった。

街を歩くと、私を見て笑いながら話をする人々。



「もう!何なのよ!私は何も悪くないわ!」



なのに、皆は私を馬鹿にするように笑う。

腹が立つ。

本当に私が何をしたって言うの?

確かにお姉様のものを奪ったわ。

姉は妹に優しくするものでしょう?

私は手渡しで貰ったわ。

だから何も悪くない。


しかし、次に来た手紙には、驚くべき事が書かれていた。



『ルザリシャルエ伯爵が終身刑となったことにより、伯爵位を剥奪する。

爵位剥奪には、その家族も含まれる。


ただし、メルヴァントの婚約者であるサリーエには新たに侯爵位を与え、元ルザリシャルエ伯爵家をディラシファル侯爵家とし、サリーエを一時的な当主とする。


セシアル・ルザリシャルエ並びにシファナ・ルザリシャルエは直ちにその場を去れ。



国王イジェガルド』



国王陛下からの正式な爵位剥奪通告だった。

受け入れられない。

どうしてお姉様だけは貴族でいられるの!?

さらに位まで上がって!

意味が分からない。

同じ家族なのに、何が違うって言うの?


すると数分後に見知らぬ騎士が入ってきた。



「この屋敷はこれより、当主サリーエ・ディラシファル様のものとなる!早急に立ち去るが良い!」

「待って!せめて私物だけは持って行かせて頂戴!」

「一部のみだ。金銭は置いて行ってもらう。衣類も最低限にしろ。副団長!」

「はっ。」

「見張っておけ。」

「承知致しました。」

「貴方達は何なの?どうして出ていかなければならないのよ!?」

「我々は国王陛下よりディラシファル侯爵家の護衛を任された、ライト騎士団だ。これ以上は言わん。さっさと荷物をまとめろ!金銭は(※)銀貨30枚のみを与える!」



殺気を放たれ、思わず後ずさってしまったわ。

お母様は急いで自室へと行くみたい。

私もついて行く。

副団長と呼ばれた女性が、私とお母様についてくる。

少し鬱陶しいわね。

私の方の荷物をまとめている時、私は女性副団長に聞いた。



「せめて、この宝石だけでもだめかしら?」

「許可出来ない。『必要最低限の物だけを持って行かせろ』との、国王陛下からのご命令だ。」

「何でなのよ?!1つくらい良いじゃない!」

「無理なものは無理だ。その宝石は生活に必要なものではない。諦めろ。」

「私を誰だと思っているの!?シファナ・ルザリシャルエよ!命令出来ると思わないで!」

「何を言っている。貴様はただのシファナだぞ。」

「貴女こそ何を言っているのよ?!」



副団長と呼ばれたこの人の態度、本当に腹が立つ。

表情を変えず、淡々と返してくる言葉にも怒りが抑えられないわ。



「国王陛下からの爵位剥奪通告を見ていないのか?」

「見たわよ!人間として同情とかないの?!」

「ある訳がないだろう。貴様達がサリーエ様に対して行ってきた事を知っているのだからな。」

「私は何も悪くないわ。全てはあの女が悪いのよ!生まれてこなかったら、私達の邪魔にならなかったのだから!」

「反省など全くしていないのか……かける慈悲などないな。」

「何よ!?」

「今すぐその物を持って出ていくが良い!母親はもう外にいるのだ。共に立ち去れ!」



14年間育ってきた伯爵家を無理矢理追い出された。

全てはあの女サリーエが悪い。

私は何も悪くない。

お母様やお父様はいつもそう言って下さるの。

だから私は悪くない、……そう、悪くないのよ!



「家を…探さないとね…。」

「あ、お母様!この服欲しいですわ!」

「ごめんなさいシファナ。買えないの。」

「どうしてですの!?」

「ごめんなさいね…。」



お母様はいつもなら笑顔で買って下さるのに…。

もう何もかも、あいつのせいで滅茶苦茶よ!




(※)銀貨1枚=現代の1000円ほど。

この世界での平民が1日生活する為に必要な金額は、1人約2000円。

銀貨2枚で家に住み、暮らすことが出来る。

2人ならば、銀貨30枚で1週間ほどもつ。

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