第88話

 エイシャと二人でアンクロの街を歩く。

 時間にしてしまえばそれほど長い時間じゃなかったけど、この数日の間でかなり詳しくなったアンクロの街並み。

 あそこの通りにはこんな店があったとかこっちにはこんな店があった。などと会話をしながら歩いているとあるお店の前でエイシャが足を止めた。

「どうしたの?」

「ん、レオ寄っていい?」

「ああ、いいよ」

「ん」

 押し開けた扉に取り付けてあったドアベルがカランと軽やかな音を響かせると店内から可愛らしい声で「いらっしゃいませ」と出迎えられた。


 声だけじゃなくて見た目も可愛らしい店員さんがそこにいた。

 子供と見紛うほどの低身長なのに表情はどこか安らぎを感じさせる感じの栗毛色の髪をお団子にしている女性店員さんが俺達に向けてお辞儀をして出迎えてくれた。

「アリーアルの洋裁店へようこそお越しくださいました。本日はどのようなものをお求めでしょうか?」

「ん、そっちのを見せて」

「はい。どうぞこちらへ」

 エイシャのいうは俺には刺激が強いんですが!

 店内に入ってすぐのところに陳列されているのはごく一般的な服で入り口から見えないように陳列されているのが肌着類。そして僅かに入り口から見えるか見えないかという位置に陳列されていたのが一般的にパジャマとかナイティと呼ばれるモノなんだけど、とってもセクシーなのだ。ここからだと材質はわからないけど透けてるものまである。

 流石にそっちに行くのも憚られて入り口付近の服を眺めて結構な時間が過ぎた頃にエイシャから声が掛かった。

「ん、これなんかどう?」

「ん、うん、いいんじゃ、ないかな。似合うよ」

 エイシャが身体に当てて見せてきたのは黒に金糸で蔓草の模様が縁取られたナイティ。身体に当てている状態だから布地は二枚分重なっているというのに、この店内に差し込む僅かな陽の光が届かない場所でさえ透けて見えるなんて。

 平静を装って答えてみたものの内心では変に緊張してるし、なんなら着ている姿を想像してしまった。

 エイシャの豊満な乳房とその頂にある乳首、そこからキュッと絞り込まれた華奢な括れ、そして丸みとハリを持ったお尻にかけてのラインがほぼ露出を隠すように包まれている状態で透けて見えるのだ。お互いの肌は何度も見ているというのにどうしてだろう、ナイティに包まれて透けて見えると想像しただけで興奮してしまったのは……

「ん、反応もいいみたいだしコレを頂く」

「はい、ありがとうございます」

 支払いを済ませている間も多分、俺の顔は真っ赤になっていたんじゃないかな。あとどうしても前屈みになってしまいたくなるんだが。

 カランと音を響かせて入り口の扉を開けると背中に「ありがとうございました。またお越しください」という店員さんの声が掛けられた。


「ん、レオの反応だといい買い物ができた」

「透けてるんだけど布越しっていうのがちょっと興奮するかも」

「リイサにも教えてあげようかな?」

「あ〜、教えてなかったら怒りそうかも……」

「ん、あとで教えてあげる」

「そうしてやって。仲間外れもアレなんで唯奈ゆいなにも」

「ん」

 エイシャとは結構普通にお風呂に入ったりで裸でくっついているのも戸惑わなくなっているけど、唯奈ゆいな里依紗りいさ相手だとちょっと恥ずかしさが残ってて、それは二人が恥ずかしそうにしているからという部分もあった。

 そのことをエイシャに指摘された二人だったけど性格的なものか唯奈ゆいなは踏ん切りがつかない感じなんだけど里依紗りいさが積極的になり始めていたんだよね。だから、こういうナイティをエイシャだけが買ったと知れば「どうして教えてくれなかったの」と怒りそうなのでそれは回避したい。

 できればお嫁さんには仲良くして欲しいからね。


 皆んなとは別れたあの服屋の近くで合流した。

 稲垣いながきさんの手には大きな布袋にパンパンになるくらいの服が入っていてもの凄く恐縮しているけど。

 他の四人も彼女程ではないけど服を買ったようでそれぞれの手に布袋があった。それらを収納するために路地に入ったところでエイシャが戦利品をお披露目した。

「ん、どう? レオも気に入ってくれたの」

「っ!」

「(ぼっ)!?」

 息を飲んだ里依紗りいさと一気に顔が真っ赤になった唯奈ゆいな。それと、何故か「ほぅ」などと言っているアフェクト。セリシェールは興味津々でナイティを眺めていてミドヴィスと稲垣いながきさんからは見えてない様子。

 結果。すぐにアリーアルの洋裁店に再訪問することになった。


 その日の晩、礼央れお達四人の部屋ではファッションショーよろしくナイティのお披露目会が行われた。三人は礼央れおの意見を求めてその反応に照れたり嬉しくなって抱きついたりと礼央れおにとっても眼福であり忍耐を求められる状況となっていた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 翌朝、工房を訪ねた礼央れお達は親方に「予定通り、今日アンディグに向けて出発します」と伝えた。

 結局あの核石は礼央れおが持ったままだ。流石に工房に置いといてドラゴン(石像・鉱石)なんかになられると対処できる探索者は限られるからリスクは回避するに限る。

「納得のいくもんが打てたら連絡する。それまでこれでも使っておれ」

「使わせてもらいます」

「ああ、じゃあな」

「はい」

 親方に持たされたのは解体ナイフの刃を長くしたようなものだった。一言で言うなら鮪包丁といった感じのもの。


 そのあと稲垣いながきさんに任せていた掃除が済んでいることを確認してネザニクスさんのところへ鍵を返しに向かう。

 忙しくしているネザニクスさんと簡単な挨拶を交わして、またアンクロに来た際には顔を出すことを約束してロスター商会を後にした。


「二週間、あっという間だったね」

「ん、楽しかったけど纏わりつく視線が嫌だった」

「あ、それわかる」

「ゆ、シュリーナ(唯奈ゆいな)もお胸が大きい人の気持ちがわかるようになったかなぁ〜」

「そうだな、二人は結構見られていたな」

 エイシャ、唯奈ゆいな里依紗りいさ、アフェクトのお胸話を流し聞きながら馬を預けていた厩舎へ向かう。

 ここまで馬で来た礼央れお達は預けていた馬で、ルゥヴィスに乗合馬車で向かった唯奈ゆいな達三人と稲垣いながきさんは乗合馬車を利用することにしたのだった。

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