第82話

 馬車に揺られてやって来たのはカーン、カーンと槌音が響く工房。

「ご用件がお済みになるまでお待ちしています」というロスター商会の方には一度お引き取り願ったんだけどお昼には迎えに来てくれることになった。というかそうしないと帰ってくれなかった。

 さて。

「すみませーん!」

 槌音に負けないくらい大声を張りあげる。

 それでも気づかないのか何度か呼びかけることになった。で、ようやくやってきたのは十代半ばくらいの少年。火に炙られて赤くなった肌に革の前掛けと手袋をしているところから見てこの工房のお弟子さんっぽい。

「ネザニクスさんの紹介で装備品を求めて来ました」

「少々お待ちください。親方ぁ!」

 元気な少年が奥に消えて暫く経ってから親方と思われるガッチリした体躯の髭面のおっさん(おじさんというよりおっさんが適切という雰囲気だったもので)がやって来た。

「おう、待たせたな。それでネザニクスの紹介なんだってな」

「はい、装備を新調したいと相談したところこちらを紹介されました」

「ほう、で、いま使ってるのはどれだ?」

 自己紹介もなしに装備を見せろと言ってくる親方の言葉に従って礼央は解体ナイフ、唯奈ゆいなは剣と細身の剣、それと手甲。里依紗りいさは双剣、ミドヴィスは大盾と(ショテルの様な)湾刀を出した。

 戦闘に参加していなかったアフェクト、エイシャ、セリシェールは装備の損傷はなかったので今回は見送ることで事前に話し合っていた。

「オメェ、まさかこんなんで戦ってんのか?」

 うっ、言いたいことはわかってる。皆んなに散々言われてるから。

「オメェは解体ナイフと武器だな。で、ナニと戦ったらこんなに痛むんだ?」

 説明は当事者三人に任せて最後に核となっていた石を破壊しようとしたところで解体ナイフの刃が折れたことを告げる。

「で、その石はあるのか?」

「ありますけど」

「見せてみろ」

 言われるままに取り出したところ薄らと輝いていた石が強い輝きを放つと奥の方からガシャン、ガラガラという音が聞こえてズリズリと鉱石が集まってきた。ヤバイ。慌てて収納に戻すと鉱石は動きを止めた。

「ほう、面白いな」

「いや、面白いって…… ここでドラゴンの石像が動き始めたらどうするんですか……」

「そんときゃぁ、これで躾けてやる」

 使い込まれた槌をポンポンと叩いているけど本気か? いや、本気なんだろうな。じっと礼央の顔を見つめていた髭面の目がニィっと笑う。

「どうだ、これで武器を打ってみんか?」

「でも、危なくないですか? いまの見てわかるでしょう」

「なあに、どうにかなるわい。で、そっちの嬢ちゃん達はそれ使ってみたあとで要望はあるか?」

 とは親方が奥から持ってきた剣や盾に手甲。

 どれも前に使っていたものより硬度が高い素材でできているらしく同じ幅、長さだと重量が増しているらしい。

「少し重いけど…… 悪くない、です」

「私はもう少し先に重心があった方がいいです」

「これならあの黒いのを相手にしても壊れないですか?」

 ふむん、唯奈ゆいなはほぼ問題なし、里依紗りいさはバランスの問題というより剣速を上げたいのかな。で、ミドヴィスは盾の強度を気にしてるみたいだけどどんなに強度を上げても持つのがミドヴィスなら絶対的な大きさには勝てないからね。これは受け流すことをもっと覚えてもらわないと危ないかな。

 あと、今回のことを教訓にしたのか三人とも戦鎚も求めていた。よっぽどキツかったんだろうなぁ。


 三人の武器、盾、手甲は「すぐには用意できんから、ひとまずさっきのを使っとけ」という親方の言葉で仮として使用することになった。

 それらを身につけて三人とアフェクトが鍛冶場の隣の広場に行った。慣れるための訓練だと思うけど出て行く四人の背に「ミドヴィスに受け流すことを教えて」と声をかける。

「さて、坊主。そいつでどんな武器を打つ。小剣か? それとも槍か?」

「打つってことは鍛造武器なの親方?」

「鍛造? なんだそりゃあ」

 うろ覚えながら鍛造の工程について覚えていることを説明する。どうやらこの工房では鋳造と鍛造どっちもやっていることがわかった。

 そして今回の核石のようなものを武器にする場合は他の鉱石も使うということで鍛造になるらしい。

「親方、それなら二人の武器にこの核石を使ってくれないかな?」

「嬢ちゃん達の分となると核石の効果は薄くなるぞ」

 まあ、言わんとするところはわかる。唯奈ゆいな里依紗りいさも二振りの剣を注文したからなぁ。

「ん、二人に訊いてくる」

「あ、うん」

「まあ、坊主が使わんにしろ、どんなのが欲しいか要望を教えろ」

 ん〜、鍛造なら包丁も欲しいなぁ…… おっと、そうですね。武器でした。

 ものすごい顔をした親方に睨まれたよ。武器の要望を伝えたあとで包丁も相談しよ。

「親方。折れず、曲がらず、よく切れる細身の曲刀って打てます? えっと普通の鋼と違う製鉄方法が必要になるんですけど……」

 たたら製鉄と玉鋼について訊ねるとドスの効いた声で凄まれた。

「おい坊主。なんでオメェが俺らの秘伝を知ってるんだ」

「実は俺、召喚された別の世界の人間なんです」

 下手に誤魔化すのは愚策と決めて打ち明けた。信じてもらえなければそれまでと覚悟を決めて。

 で、どうやらたたら製鉄と似たような技術はあるようなんで刀について話してみたら親方が食いついた。

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