第83話

 エイシャが戻ってきて二人から核石の使用許可がおりた。

 いいのかなぁ…… ポッと行って飛んできた岩塊を撃ち返しただけなのに。

 で、刀に興味を持った親方が秘伝の製法で精製した鋼で「一本打つから待ってろ」なんて言われた。

「えっ、ちょっと、待ってろって、いつまで。あっ、親方、待って、ねぇ。お〜〜い」

 そんな礼央の叫びを聞いていたのか丁度ロスター商会からのお迎えがやってきた。


 ネザニクスさんとの昼食の合間に親方のところで起きたことのあらましを話した結果、暫く(最短でも二週間はかかるだろうとネザニクスさんが予測)アンクロに滞在することになった。そしてその間の滞在先としてロスター商会所有の空き家を借りることになった。

「好きに使っていただいて構いません。なんでしたら侍女の手配もいたしましょうか?」

「あ、それならネギルイエさんのところに行ってみない?」

「誰?」

「奴隷商のネギルイエでしょうか?」

「そう、そこに家事全般が得意な子が居たのよ」

「じゃあ、見にいこうか」

「では、先に家の方をご案内しましょうか?」

「ありがとうございます。そのあとはのんびりと街を見てまわりたいと思います」

「では、夕方にお迎えにあがりますので」

「えっ!?」

「ははっ、晩餐にご招待できればと思いまして」

「そんな、悪いですよ……」

「レオ、ここで断る方が失礼よ。ネザニクスさん、謹んでお受けいたします」

「では」

「はい」

 急遽、晩餐を共にすることになったけどそんな他所行きの服ってあったっけ?

 そう思い悩んでいるうちに滞在先の空き家に到着していた。

 そこは住宅街といった雰囲気のところで周りにも同じ雰囲気の家が立ち並んでいた。平屋で広い庭がある家が多い中、何軒か二階建ての家があった。

「この先、貴族の方の居住地区となりますのでお気をつけください」

「あ、ありがとうございます」

「はい、ではまた夕方お迎えにあがります」

「はい」

 親方を待つ間の滞在費は要らなくなりそうだけど、気苦労は増えた気がする……


「じゃあ、家を見てみましょ」

礼央れお、早く鍵を開けて」

「ん、エンリとシュリーナははしゃぎ過ぎ」

「まあまあ」

「子供じゃなぁ」

「わかってるから、ちょっと待って」

 わいわいと騒ぎながらも玄関の鍵をまわす。そのあとは皆んなが思い思いに家の中を散策するために散っていった。


 礼央れおはまず台所から見て行くことにした。

 台所には魔導竈Madokamが備え付けられている他に照明の魔導具まであった。そういやあ同じのがロスター商会にもあったなあ。

 ロスター商会に備え付けられていたものは十分な陽の光がさしていたことであまり気にしてなかったというのが本当のところ。

 台所は建物の北側に位置していたことと窓が一つしかなかったから照明が無いとちょっと暗い。これまでは夕方くらいから獣油のランプを灯していたけどアレは結構臭う。そして蝋燭もやっぱり臭う。高価な蜂蜜の蝋燭になると違ってくるけど毎日それを灯すのは経済的にキツイ。

 それもセリシェールが来てからはちょっと状況が変わって彼女の明かりの魔法に助けられている。なんでも獣油の燃える臭いは気持ちが悪くなるんだそうだ。


 一通り家の中を見てから予定していた奴隷商、ネギルイエさんだっけ? のところに行くことにした。

 ただセリシェールとミドヴィスは同行を躊躇っていたので唯奈ゆいなと一緒に露店を見に行くと言うからあとで合流することにした。

「それじゃあ行ってくるけど、そっちも気をつけて」

「わかってる。二人にことは任せて」

「二人より唯奈ゆいなの方が心配なんだけど……」

里依紗りいさ…… それ、どいう意味?」

「そのまんまだけど?」

「はいはい、行くよ」


 エンリ(里依紗りいさ)に案内されて向かった奴隷商。

 そこは一見すると豪華な屋敷で、広く手入れの行き届いた庭、煉瓦と漆喰に似た壁材のコントラストが美しい館だった。

 館の扉をノックして来訪を告げると執事と思われる人物が出てきたので用件を伝える。

 案内された応接室で待つこと三十分。

 礼央れお達が来る前に訪れていた来客の対応に時間がかかっているらしく、出されたお茶も既におかわりを頂いている。

 出直そうかという雰囲気が滲み始めた頃になって扉がノックされた。

「大変お待たせいたしました」

 部屋に入ってきたのは商館主のネギルイエさんだった。


 こちらの要望(留守の間の家の管理ができる人材)を伝えてみたもののネギルイエさんの反応は芳しくない。

「居ない訳ではないのですが……」

「何か問題でも?」

「はい。西方の生まれの者なのですが、まだ言葉を覚えておりません」

「言葉かぁ……」

 言葉が通じないというのは結構な問題。それに言葉が違うということは習慣も違いだろうから現在は教育中というところだろうか?

「ん、一応見せて」

「そうですか…… わかりました。では、お待ちください」

 ネギルイエさんが退室したあとアフェクトに疑問に思ったことを確認した。

「ねえ、西方の国ってどういうところ?」

「西方には国というものはない。そうだな西の小さな部族が集まっている地域を西方と呼んでいると思ってくれればいい」

「部族ってことはそれぞれに言葉が違ってたり?」

「そうだ。ただそれだと交易の際に問題があるから西方共通言語というものがあるはずなんだが…… いまの感じだとそれも覚えていないような、あるいは交易を行わずにいた閉鎖部族の者か…… いや、それはないか」

「因みにアフェクトはその西方共通言語ってのは喋れるの?」

「いや、挨拶程度だな。会話ができるほどじゃない」

「なるほど」

 西方の部族についてアフェクトの知っていることを教えてもらったけど、基本的には依頼で西方に行く機会は無さそうだった。アフェクトでさえ国境付近の依頼で出会ったものと挨拶を交わした程度だというんだから礼央が受ける依頼で西方に行くことはないだろうと結論を出した。

 それに部族間での争いもあるって聞いたら観光に行く気にもならないしね。


 そんな会話をしていたら扉がノックされてネギルイエさんに連れられて奴隷の人が部屋に入ってきた。

 その奴隷の人は長い黒髪をいくつかに分けてその毛先をリボンで束ねた小柄な少女だった。

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