第78話

 セリシェールの案内で森の中にある小径を半日ほど進んだところで俺は違和感を覚えた。

「止まって。なんか変だ」

「ん、どうしたの?」

「なにかあったのか?」

「祠はまだ先よ」

 引いていた馬の手綱をエイシャに預けて周りの違和感を探る。

 半時間ほど周辺を調べた結果わかったことは普段採取している植物と同じ種類と思われるものが微妙に違っていた。

 例えばローズマリーに似た植物。葉先が少し広がっているのが特徴のロリマーというお腹が痛いときに飲む薬の素材の一つなんだけど付け根の方も少し大きくて中央がくびれていて別の植物みたいだったんだけど花はロリマーと一緒なんだよね。ロリマーに似た植物があるという話は聞いたことがなかった。

 確かに普段から誰もきてない森ということを考えればそんな植物があってもおかしくないんだけど。さて、これはどうなんだろうか。

「これ昔のロリマーよ」

「昔のって? どのくらい前の」

「さあ、私も実物は見たことがないから、子供の頃に薬草の資料として見たことがあるだけだから」

「人が入らないから昔のまま残ってた? わからないな」

 セリシェールが言うように昔のロリマーだったとして、こんな森の浅いところに残っているものなのか?

「レオ、それより先を急ごう」

「ああ、そうだね。セリシェール祠まではどれくらいかかる?」

「あと少しの筈」

「わかった。案内、お願い」

「ええ」

 引き続き先頭はアフェクト、その後ろにセリシェール、エイシャが続き、最後が礼央れおという並びで周囲を警戒しながら森の小径を進んでいく。

 時折、馬が落ち着きなく嘶くから余計に何かいるのかと緊張してしまう。

 暫く進んでいると前方に陽の光が差している開けた場所があることに気づく。

「あそこに祠があったの」

 そう呟いたセリシェールの言葉通りにそこには基礎の石組みと倒れた石柱が蔓草に絡まれた姿の祠の跡があった。

「これじゃあ祠としての役割は果たせそうにないな……」

「そうだな。私達は祠だったことを聞いているからこれが祠とわかるが、この有様だとな」

「ん、無駄だった? とりあえず野営の準備」

「そ、そうね。今晩はここで過ごして明日洞窟に向けて出発ね」


 その日の夜、ここまで導いたんならあの光がなんらかの反応を示す筈。それがお約束の展開だろうという思いはあった。

 最初に見張りについたのはアフェクト。この時に何かが起きることはないと予想していた。

 それなのにいま目の前に光が、いや、俺は目を閉じているはずだから頭の中に浮かんでいる情景なのか? わからないながらに光に呼びかける。

「ここまで読んだ理由はなんなんだ」

「……、……、……」

 相変わらず何かを訴えようとしていることだけが伝わってくる。けれど、それだけで何もわからない。

 言葉で意思を伝えることができないとわかった光は祠だったものの方を示してついてくるように礼央れおを招いた。招かれるままにそこに行った礼央れおが石柱の中央に立った時、身体から何かが抜けていく感覚に襲われて膝をついた。

「ぐっ!? なんだこれ」

 礼央れおが膝を突いた石柱の中央に光が溢れてくる。そこまで感じたところで礼央れおの意識は体に引き戻された。

「……オ、レオ、起きろ! 石柱の間が光り始めた!」

 興奮気味なアフェクトに揺り起こされた礼央れおは気だるい身体を起こしてその光景を見る。礼央れおを起こしたアフェクトがエイシャとセリシェールも起こしに行った。


「あの光は何かの陣のようだが……」

「ん、あれが目的のもの?」

「転移陣だと思うけど……」

 口々に石柱の中央にある光を眺めて感想をこぼしていると次第にそれが明滅するようになってきた。そしてその中央で礼央れおを招くように光が揺れた。

「行こう!」

「んっ!」

「えっ!?」

「おいっ!?」

 駆け出した礼央れおとエイシャに一拍遅れてアフェクトとセリシェールが続く。

 礼央れおとエイシャが陣の中に入ったところで光が強さを増す。間一髪のところでアフェクトとセリシェールが二人に追いついた。

 次の瞬間には四人は光に飲まれ石柱の中央から姿を消した。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 礼央れお達が祠に辿り着いた頃、唯奈ゆいな達は探索に行き詰まっていた。

「やっぱりアイツを倒すしかないかな?」

「見抜かってなければ他のルートは行き止まりだったからね」

「すみません、お役に立てなくて……」

「そこは気にしなくていいから。それより、アイツをどうするかでしょ?」

 ここまで粘液状の生物スライムと蜥蜴顔の蝙蝠くらいしか見かけなかったのにここにきて探索を阻むようにこの先の開けた場所に鎮座している翼と長い尾を持った岩の塊。首も長く複数のツノを持つその獰猛な顔、僅かに開いた口の中から覗く牙は空想上ではポピュラーな存在、そこにいたのはドラゴンの姿をした石像だった。

 問題なのはその開けた場所に踏み込んだら石像が動き始めたこと。翼を広げてズゥン、ズゥンと足音を鳴らして近づいてきたその石像の足取りは一歩毎に滑らかに動き始めた。

 ミドヴィスを後ろに下がらせて唯奈ゆいなは右、里依紗りいさは左に分かれて構えた。結果としてドラゴンの石像の右腕を破壊することはできたがその途端に打ち出された石礫によって唯奈ゆいなが足を負傷した。

 里依紗りいさが注意を惹きつけている間に唯奈ゆいなが離脱すると石像は興味を失ったように里依紗りいさだけを狙ってきた。

 この行動から開けた場所を出れば追ってこないと予想して里依紗りいさが駆け出してきた途端、ドラゴンの石像は元の位置に戻った。ただ、この時に破壊した右腕が元に戻ったことは想定外だった。


「このままここにいても仕方がないしもう一度行くしかないよね」

「うん、今度は石礫にやられないようにね」

 唯奈ゆいなの治療を済ませ二人は再度ドラゴンの石像に挑むことにした。

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