第77話

 全員が目覚めて朝食を済ませたあと礼央れおは昨晩の不可解な出来事について皆んなに話した。

 エイシャとアフェクトはその話を聞いて三人のことを心配するあまり見た幻なんじゃないかと礼央れおを心配したがセリシェールだけは思い詰めたような表情で礼央れおを見ていた。

「これは子供の頃に聞いたことでうろ覚えなんだけど、私達神燐しんりんエルフに伝わる話を聞いてくれる?」

 そう前置きをしたセリシェールに三人は頷いた。

 そしてセリシェールは一つの言い伝えを語り始めた。

 それは長い年月を生きる彼女達神燐しんりんエルフにとっても遠い昔の話だった。


 その言い伝えは神燐しんりんエルフ的な言い回しもあって理解できないところも多くあった。それでもわかる範囲で纏めるとざっとこんな感じだった。

『遠い遠い、時の彼方。

 その頃はまだすべての種が大きな池のほとりで暮らしていた。

 それぞれが得意なことをして補い合っていた。

 その集落と言えるような集まりは平穏に栄えていくかと思われた。

 だけど暮らしていく者が増えていけばそれを取り纏める者が選ばれるようになった。

 選ばれた者達が話し合い、より豊かな暮らしを求めるようになって集落はやがて一つの国となった。

 のちに『始まりの国』そう言われるようになったその集落は百年ほどで失われた。

 それはそこで暮らす種の中で最も短命な者達が大きな能力を得たことから始まった。

 その能力は『掠奪』といって殺した相手の能力を奪うものだった。

 『始まりの国』の代表者達はひとりの男によってその能力を奪われたが唯一殺すことができなかった存在によって何処かに封印されたと伝えられていた。

 その争いののち『始まりの国』から多くの種族が離れていったとのことだった』

 その時に私達神燐しんりんエルフを導いてくれたのが光を纏った者と伝えられているというのがセリシェールが話してくれたことだった。


「つまり、俺はその光る何かに導かれたってこと?」

「私はそう考えている」

「どう思う?」

「ん、私には判断できない」

「すまないが私もエイシャと同意見だ。その、セリシェール、を疑っている訳ではないのだ。ただ、そんなにも昔からいる存在がレオを導く理由が思い浮かばないのだ」

「それは理解できる。これは神燐しんりんエルフとしての直感だから」

「光る何かはセリシェールを導くために出てきたってことはないのか?」

「それはない。もし、私を導くのであれば私の前に顕れる」

「そういうものなのか?」

「ん、それは理解できる」

「そうだな。そういう存在は回りくどいことはしないと思うからな」

「なるほど」

「ん、それでどうする?」

「まあ、ルゥビスの方を指していたんだから、ひとまずはルゥビスの洞窟を目指そうと思う」

「ん、わかった」

「じゃあ、行くか」

「ええ、行きましょう」

 予定よりは遅い出発になったけど、それでもまだアンクロの街を出る頃になってようやく朝市が開かれるくらいの時間だった。


 それから二日後の夜、俺の前にまたあの光が顕れた。

 この前と一緒で三人を起こそうと声をあげても反応はない。仕方なく光を眺めていても意思の疎通はできず最後には腕と思われるもので進むべき方向を指し示して淡く瞬いてその姿を消した。

 事前に話していたように光が消えたあと三人を起こすと今度はすぐに目を覚ました。

「ごめん、起こして。またあの光が顕れた」

「ん、それでどうなった?」

「やっぱり意思疎通はできなかったよ。それで今度はあっちを指したよ」

「あっちには何がある?」

「ん〜〜……」

 ひとり、セリシェールだけがボーッとしていたけど光が指した方向にあるものを地図と照らし合わせて考える。

 その方向にあるもの、それは地図上では森があるだけ。その辺りの森は俺も採取で訪れたことがない。

 理由は日帰り採取ができないことと探索者達の間ではそこまで行って採取する労力に見合った素材は無いとも言われていたので俺も候補地から外していた場所だった。

 当然、他の国から来たエイシャとアフェクトはここがどのような場所かという知識は俺以上に持っていない。

 さて、どう判断すれば……

「そこには朽ちた祠があったはずよ。といっても私が行ったのは百年は前だけど」

「っ!」

「なによ?」

「いや、改めて幼女じゃ無いんだなと思って……」

「んん、ん〜〜っ」

 ポカポカとセリシェールの抗議の拳を左肩に受けながら方針を決めていく。

「じゃあ、当初の予定通りに洞窟に進むかその祠を目指すかだけど……」

 今日までの間に得た情報では唯奈ゆいな達三人はひとつ上の階層に上がっていた。粘液状の生物スライムと蝙蝠の体躯に蜥蜴の顔をした見たことも聞いたこともない生物がこの階層にもいて襲ってくるらしい。階層が変わったからといって強いモンスターが出てくるようなゲームみたいなことがなくて良かったと思った反面、浅い階層に移動すれば安全ということもないんだなと俺は落胆したのだった。

 だからこそだ。だからこそ、無駄な探索をしている時間は無いと俺の中で警鐘が鳴っていた。

「ん、セリシェール。その祠がいつのものかわかる?」

「ん〜〜と、すごく前からだと思う」

「じゃあ、何のためのものかわかる?」

「ひっ、祠は祖先を崇めるためのものと転移のためのものがあることは聞いたことがあるけど、あそこの祠がどちらのものかまではわからないでしゅ……」

 いつまでもポカポカと俺を叩いているセリシェールの手をグッと抑えて問いかけたエイシャに息を詰まらせた。そして泣きそうになりながらの返答は最後に噛んだ。

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