第79話

 治療と休息を挟んだあと三人は再度ドラゴンの石像に挑むことにした。

 最初に挑んだ際に二人の剣は激しく消耗していたためミドヴィスが予備の武器を手に待機していた。

 ガツンッと大きな音と共に唯奈ゆいなの剣が欠けたが同時にドラゴン(石像)の右腕が破損した。

 ドラゴン(石像)の口の周りに石礫が浮かび上がって唯奈ゆいなに向かって打ち出された。

「それは一度見てるっ!」

 大きく右に飛んで唯奈ゆいなは石礫を回避、その隙を見逃さず里依紗りいさがドラゴン(石像)の左に回り込んで翼に双剣で斬りつけた。

 指骨の一本と翼膜を破壊したところでミドヴィスが叫び声をあげた。

「リイサ様っ!」

「っ!?」

 ミドヴィスの叫び声が響いたのと同時に振るわれた尻尾が里依紗りいさの腕を打ちつけ壁際まで弾き飛ばした。

「うっ!!」

「ミドヴィスっ!!」

 咄嗟に駆け出したミドヴィスが里依紗りいさに向けて石礫を放とうとしていたドラゴン(石像)の頭に右肩から突っ込んでいった。

 僅かにそれた石礫のうちの一つが里依紗りいさの肩を穿った。

「ぐうっ!」

 右手に持っていた剣を握っていることができずに落としガランという音を響かせた。


 どれくらい戦っていたのかわからない

 ミドヴィスが最初に武器を取り落とした。

「あっ!?」

「ミドヴィス!!」

 間に合わないとわかっていながらミドヴィスへの攻撃を防ごうと二人が動いた。その時ドラゴン(石像)の顔が火球に包まれた。

「助けにきたぜっ!!」

 瀬良せら 拓人たくとが先陣を切ってドラゴン(石像)との戦闘に加わった。

 状況的に考えると攻撃の手が増えて状況は好転するはずだった。

 それなのに三人の表情は絶望を浮かべていた。

「おいおいおいおいぃ!? なんでこいつはぁ……」

 拓人たくとが驚愕の声を漏らす目の前でそれまで三人が与えていたダメージを修復するようにドラゴン(石像)が再生していく。

 続けて放たれた錦城きんじょう 京也きょうやの火球が振り上げたドラゴン(石像)の右腕を捉えた。

「どうなってんだこりゃぁ……」

「タクト左ぃ!」

 衛兵のひとりが叫んだ声に反応して左から殴りつけてきたドラゴン(石像)の手を剣で受けた拓人たくとの足はその威力に踏ん張り切ることができずに後退した。

 だがそのおかげで唯奈ゆいな里依紗りいさは自身を奮い立たせてミドヴィスを壁際まで引きずって退避させることができた。

 そして状況を推測した里依紗りいさが衛兵に向かって叫ぶ。

「通路に残っている者がいれば絶対に中に入れるなっ! 誰かが入ってくると再生するぞ!」

 その声を聞いて錦城きんじょうと数名の衛兵が足を止めた。


 いまこの開けた場所でドラゴン(石像)と対峙しているのは唯奈ゆいな達三人の他に拓人たくとと衛兵が三人の合計七人。

 ドラゴン(石像)の左、入ってきたところからいうと奥側に唯奈ゆいな達三人。右側に拓人たくとと衛兵達が陣取っていた。

 左右からの攻撃が厚くなったことによってドラゴン(石像)からの攻撃が分散した。

「おっしゃぁ! イケるっ!」

 右腕を叩き落とした拓人たくとが吠える。

「石礫がくるぞ!」

「っ!」

 ガツンという音が響いて拓人たくとが尻を突いた。

 胸当ての金属板が凹む程の威力ではあったがすぐにその場から転がるように離れた拓人たくとに追撃が入ることはなかった。

「部位欠損でパターンが変わるのかよ……」

 ゲーム的な言葉を溢して立ち上がった拓人たくとはドラゴン(石像)に立ち向かっていった。

 それと同時に唯奈ゆいなが左腕を落とした。

 両腕を失ったドラゴン(石像)が両翼を大きく広げたところでそこに無数の石礫が出現、ガチガチと音を立ててその大きさを変えて二十個程の岩塊を打ち出してきた。

 回避できずに剣で受けた衛兵が後ろに吹き飛び、避け損ね岩塊をくらった衛兵の腕があらぬ方向に曲がった。そしてまともに受けてしまった衛兵が京也きょうやの前に飛んできた。

 ゴボリと口から血泡を吹き出しビクビクと痙攣をするその衛兵を目にした京也きょうやは口を押さえた。それでも喉の奥から込み上げてくるものを止めることができずに吐き出した。

 ここまで京也きょうや拓人たくとも怪我を負った者を見ることはあっても死を感じることはなかった。初めて見た死を予感させる光景に京也きょうやは恐慌状態となり叫び声をあげた。

「う、わああああああぁぁぁああっ!!」

 その叫びに反応したドラゴン(石像)が京也きょうやの方に足を踏み出した。唯奈ゆいな里依紗りいさも岩塊を避けるた際に崩した体勢から立ち直っていなかったため反応ができず、拓人たくと以外の衛兵三人は岩塊によって動けなくなっていた。

 喚き散らす京也きょうやに向かってドラゴン(石像)は再び両翼を広げて無数の石礫を出現させ始めた。

「させるかぁ!」

 振り下ろした拓人たくとの剣は翼膜を切り裂いたが石礫の出現を阻むことはできなかった。

 駄目なのか? 誰かがそう呟いた時にこの開けた空間の奥に光の柱が立ち昇った。この場にいた人間は誰も感じ取ることができなかったがドラゴン(石像)だけがそれに反応して岩塊をさらに集中し始めた。

 光が収束していくにつれてその中に四人の人影が浮かび上がる。

 それに呼応するようにドラゴン(石像)が再生していく。

「ああ……」

 瀬良せら 拓人たくとは絶望感に襲われて意識を手放した。


 唯奈ゆいな達三人も再度再生していくドラゴン(石像)を前に身体から力が失われていくのを感じていた。

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