第76話
ルゥビス近郊で大型獣の討伐が終わってから二日後。
未踏破エリアの調査のためだった。
その崩れた壁の向こうは真っ暗だったが五メートル程の縦穴を降りたあときつい勾配の斜面を下ることになった。
ロープを頼りに探索を続けながら三十分程下ったその先が緩く右に曲がっていく。松明の火を頼りにして進むと奥の方がうっすらと明るくなっていることに気づいた先頭を歩く衛兵が右手を挙げて歩みを止めた。
「二人先行する。セラとキンジョウは後方の警戒」
指揮をとる部隊長の指示に従って部隊が動き始める。
先行した二人が「苔が光っています。問題なし!」と声をあげたことで後続もその苔が発光しているところで合流した。
その苔を調べた結果、北部で昔発見された魔力を吸収して発光する苔に類似していることがわかった。その周辺に白っぽい小さな葉をつけた植物があったがこちらは洞窟内で時々見つけられる植物だった。
休息と今後の方針を打ち合わせたあと部隊長の「調査を再開する」という号令で全員が隊列を整えて歩み始めた。それは調査を再開してすぐに訪れた。
「敵襲!」
二度、剣を突き立てる音が響いたあと水の塊が衛兵にぶつかった。
「ぐっ!?」
「スライム!?」
「セラ、あの生物を知っているのか!?」
「
「お、おうっ!」
二節の呪文を詠唱したあとスライムを包む火球があらわれた。泡立つように蠢いたそれは内部の核が崩れるとスライムはその姿をも崩した。あとには煤だけが残った。
部隊長にスライム(ゲームで得た知識)を説明したあと調査を再開した。
ただ、その調査は岩壁に同化しているようなスライムによって妨害された。体色は無色もしくは岩壁に同化するような色をしていてこの低明度の環境ではその存在に気づくことは困難だった。
何度か不意打ちのように襲ってきた水の塊、火の球、石礫、風刃。それは衛兵を負傷させた。
「人種以外で魔術を使う生き物がいるなんてな」
「こっちにはモンスター、いや魔物はいないのか…… そういやぁ、この前のも大型獣、獣なんだなアレでも……」
「しかしあんなでも至近距離で詠唱もなしに呪文を放ってくるとなるとこっちの被害が増える一方だな……」
何度目かの休憩中に部隊長はそう副官に溢した。
現在負傷者は四人。幸い大きな怪我を負った者はいないが軟膏程度の傷薬くらいしか治療手段がない状況での負傷は望ましいものではなかった。
「リサの嬢ちゃんが居てくれればなぁ」
「リサって人は治療ができるんですか?」
「ああ、セラやキンジョウと同じ召喚者だ。あと二人一緒に召喚されていたな」
「その三人の名前は……」
「リサ、ユイナ、レオの三人だ」
「ユイナ、レオ、リサ……
「リサもユイナも先日死亡の知らせが届いたよ。あの二人の伸び代を考えると惜しかったな」
「死んだ……
「敵襲っ! 数三!」
「セラっ! しっかりしろっ! お前も死ぬぞっ!」
「っ!」
感傷に浸る間もなく進行方向で三体のスライムが確認されて戦闘が始まった。斬撃も打撃も核に当たらなければなんのダメージを与えることもないスライムという未知の存在を前にして浮き足立つ衛兵達。
そして前方に意識が向いていた
「っ!?」
「うわぁっ!?」
「敵襲っ!?」
頭上からの襲撃など想定していなかった衛兵達にとって未知の生物との戦闘、そして自分の繰り出す攻撃がまったく効果を持たないという事実が彼等から冷静な判断力を奪っていた。
それは不意に頭上から襲われたひとりの衛兵が剣を振り回したことでも明らかだった。その衛兵はもがき、手に持った剣を無造作に放り投げ自身の顔に纏わりついたスライムを掴もうとするがそのスライムは衛兵の手から溢れた。
「
「お、おう」
「うっ、おぅえええぇぇっ、はぁっ、はぁ……」
そうはいっても救助のためとはいっても人間相手に呪文を唱えた
「
「っ! わ、わかった!」
「前衛の人、呪文を唱えるから下がってくれっ!」
「お、おう!」
「わかった!」
そのあと
ここまでに
「途中にあった水場で今日は休もう」
そう告げてきた部隊長の言葉に従って全員で移動した。
この日魔力枯渇で意識を失った
そして負傷者が出れば治療、サポートのために人手が必要となるのはこの世界でも同じなのだった。
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