閑話

 シュリーナ(唯奈ゆいな)、エンリ(里依紗りいさ)、ミドヴィスの三人がユイナとリサが捜索に行った先で死亡したという嘘の報告を衛兵詰め所にしに行って状況報告を求められたあとの話。


 昼過ぎに詰め所に行った三人は一時間ほどで詰め所をあとにしたが、その大半は待ち時間だった。

 お喋りをしていい雰囲気じゃなかったからこの待ち時間はかなり苦痛だった。

「(いつもはこんなピリピリした雰囲気じゃなかったと思ったけど……)」

「(じっと待ってるのしんどいなぁ……)」

「(こんな場違いなとこにいたくないよぉ……)」

 三者三様に心の中でぼやいていると衛兵隊のえらい人がやってきた。唯奈ゆいな里依紗りいさもこの人とは会話をしたことがなかったので誰だかわからなかったけど、見知った顔に対応されるよりボロが出なくて都合がいいと考えた。

 それでも、このピリピリとした感じが気になった里依紗りいさがえらい人の話が終わったタイミングで訊ねた。


「あの、何かあったんですか? なんとなくピリピリしているようですけど」

「いや、何もない。あとの処理はこちらでやっておく。これは少ないが知らせてくれたことへの謝礼だ」

「ありがとうございます」

「それでは行きましょうか」

「はい」

 流石に何かが起きていたとしても素性のわからない探索者に話す筈もないか。そう思った私達は衛兵詰め所をあとにした。

 十分に離れたところで唯奈ゆいなが提案してきた。

「少しの間滞在して様子を見てみない?」

「うん、気になるよね。何もないと良いんだけど……」

「衛兵の詰め所だから緊張感があったんじゃないんですか?」

「う〜〜ん、なんか、違うんだよねぇ…… この感じ前にも感じた事がある気がするんだけどなぁ……」

「私も、なんか覚えがあるんだけどなぁ……」

「そうなんですか」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 報告に行った日から三日後。

 私達のスッキリしなかったあの感覚の原因がわかった。あまり嬉しくない形でだったが。


 それは探索者組合で依頼を受けるふりをしていた時のことだった。

 衛兵に連れられて組合の門を潜った二人の男性とそのうちのひとりに付き従う侍女の姿が視界に入ったからだ。

「最悪…… 嫌な予感これだったんだぁ……」

「受付に行ってる間にでよ。ほら、ミドヴィス行くよ」

「はい」

 依頼書が張り出されているボードの前から立ち去ろうとした私達の方に二人のうち片方、会いたくなかった男の方が近づいてきた。そのあとを侍女が追ってきた。なんとなく顔色がすぐれないように見えた。

「麗しいお嬢さん。俺と一緒に行かないか?」

「結構です。わたくし達は先を急いでますので失礼します」

「いいねぇ。ますます一緒にイキたくなったよ」

「タクト殿、お控えください。失礼しました」


 衛兵に連れて行かれたそのタクトという男の顔には見覚えがあった。

 瀬良せら 拓人たくと。元の世界にいた時に里依紗に付き纏っていた男。里依紗に付き合えと何度も迫っていた迷惑な男。

 あの男がしばらく学校を休んだのを境に声をかけてこなくなった。それに対して里依紗唯奈ゆいなは『他に彼女ができたんだろう』と結論を出して安堵したことを覚えている。

 その瀬良せらがシュリーナ(唯奈ゆいな)に声をかけてきた。胸か? 胸なのか?

 いまの里依紗は金髪ショートヘアに童顔、体型はスレンダー。悪く言ってしまえば子供体型。それに猫耳にフサフサ尻尾という外見で瀬良せらが興味を引く容姿じゃない。筈。なのに、探索者組合をあとにする里依紗の背中に睨めつけるような湿り気を帯びた視線を感じるんですけどぉ〜〜っ!?


 逃げるような勢いで私達は探索者組合を出て宿に向かった。


「アイツってエンリ(里依紗りいさ)に迫ってた奴だよね?」

「うん、そう…… 暫く休んだあと言い寄ってこなくなって清々してたんだけどね…… まさかこっちで顔を見るなんて思ってなかったよ」

「でも、なんか私の胸ばっかり見てたよね」

「おっぱい大きいが好きだったみたいだしね」

「それなら里依紗りいさの方が大きいじゃない」

「ん〜〜っ、いまはシュリーナ(唯奈ゆいな)の方が大きいよ」

「男の人って大きいの好きですよね」


 宿に着いた私達は早めに夕飯を済ませて三人でお喋りをした。

 このあとバッグの中に奇妙なものを見つけたんだけど。ナニしてるの礼央れお達は……

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