第69話

 俺は探索者組合で雑用…… じゃなくって! 解体方法や薬草採取時の注意点を新人探索者に教えていた。

 一応、これも組合からの依頼。

 でも、俺自身新人(F)からつい最近翡翠(E)に昇格したばかりで血気盛んな男の子は言うことを聞きゃあしない。まったく、困ったもんだ。って思ってたらガンドさんがその男の子にゲンコツを落とした。

「先輩が教えてくれてるんだから真面目に聞け」

「痛っ!」

「ガンドさん、どうしたんですか?」

「プレが持ち込まれたから実習にどうかと思ってな」

「えっと、それってあんまり状態が良くないんですか?」

「まあな」

 プレは鶏に似ているけど鶏冠は無くて代わりに立派な冠羽かんうを持つ鳥。食肉になるのとこの世界で卵というとプレの卵が一般的だ。


 組合の裏にまわると状態の良いものと悪いものが分けられていた。

「うわぁ……」

「だろ? お前らこれ見てどう思った」

「下手くそ」

 少年達に訊ねたガンドさんの問いかけに答えたのはリーダー格のリンクス(男子)。彼の他にトラール(男子)、ジーグル(男子)、エイラ(女子)、リーリル(女子)が今回の勉強会に参加しているメンバーだ。

「下手くそって…… それで、ガンドさん、これ、どうしたんですか?」

「ああ、森の中で何かに追い立てられるように飛び出してきたプレの群れに混乱した奴らがな」

「それで血抜きもしてないし、内臓に傷があるようなのもあるんですね」

「ああ、食肉にするにしても状態が良くないしな。それでも買い取ってやらんとアイツらも食いっぱぐれるからな」

「ははっ、お疲れ様です。それで、全部実習で使っていいんですか?」

「まあ、それでもいいがな」

「じゃあ、全部使わせてもらいます」

「おう、じゃあ保管庫に入れとくから午後からも頑張れよ」

「はい、ありがとうございます」

「あ、「「「「ありがとうございます」」」」」


 そして実習の締にプレ(実習で解体したもの)の香草マシマシ焼きを振る舞って今日の勉強会はおしまい。

 結果としては男子三人は解体が上手くない。というか男の子は「早く強くなって名を上げたい」って欲の方が強くて解体はできるやつがやればいいというスタンスみたいだ。リーリルは内蔵を見て顔を青ざめていたので午前中からずっと部屋の隅で見学。唯一エイラだけが伸び代を感じさせた。

 まあ、こういうのってセンスもあるから適材適所だよな。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 探索者組合から帰ろうとした俺はエルネスさんに呼び止められた。

「レオ、あんた宛に手紙が来てるよ」

「あ、ありがとうございます」


 差出人はシュリーナ(唯奈ゆいな)とエンリ(里依紗りいさ)。

 封書を開けると『無事にルゥヴィスに着いた』というものだった。

 時差を考えるとこの連絡が届いた今頃は彼女達もルゥビスを出た頃かな。

 そんな話を帰ってから皆んなとした。

「もうアンクロくらいまで帰ってきてるかもね」

「流石にまだじゃない?」

「ん、でもレオに会いたくて急いで帰ってきそう」

「「ああ…… ありそう」」

「えっ!? そうかな?」

「ん「「きっとすぐ帰ってくる」」」

 このまま揶揄われそうな雰囲気になってきたから話題を逸らす。


「もっと時差のない連絡手段ってないのかな?」

「急にどうしたの?」

「ん、三人のことが心配?」

「組合への連絡便と一緒に送られてきたのなら十分に早いんじゃない?」

唯奈ゆいな里依紗りいさなら大丈夫だと思うけど、やっぱりね……」

 一般的な連絡手段としては識字率の関係から口頭によるものが一番多い。探索者は依頼内容を理解する必要から最低限、読み書きと加算、減算を身につける必要がある。というよりも必須知識とされていて一定レベルにないものは今日の新人のように講習に参加して身につけてから探索者としての登録ができるようになる。だから探索者同士の場合は組合間の連絡便(不定期)に便乗するか急いでいるなら配達の依頼を出すということになる。(どちらも有料。連絡便に便乗した方がかなり割安だ)


 とか、考えているうちにセリシェール用のポーチに収納魔術の付与ができた。

「よし、できた。じゃあ説明したみたいにやってみて」

「うん。ん? んん〜っ?」

「えっ!? もしかして上手くできてない?」

「そんなことはないんだけど…… レオと繋がってる。ような?」

「どういうことっ!?」

「え〜っと、ね。正しい表現かわからないけど。ポーチにこれを入れようとした時、ポーチとレオに魔力の繋がりを感じたの」

 うん、わからん。そんなことがあるのか?

「例えばこんなことはできる?」

 そう言ってセリシェールが羊皮紙に幾つかの印を描いて説明をしてくる。

「ここにこうして…… こっちからこう。あとはこうしたのをこっちから見えるとか」

 セリシェールが何を言いたかったかというと。

 俺のバッグに入れた物をエイシャの背嚢はいのうから取り出せるか。そしてそれができるのなら他に収納魔術を付与したものから内容物の確認ができるか? ということらしい。


 それで、考えるよりも実際に試すのが早いということで実験してみた。そしたらメニュー欄に変なのが増えてた。『分離』『結合』に次いで『共有』が増えてた。収納時に「共有したい」って考えて収納したらできちゃった…… あ、正確には使用者権限(俺)が付与された者の間でだけできた。

 売り物にしたのと同じ誰でも使用可能な仕様のもの相手だとできないことが確認できた。

 ちょっとホッとした。じゃないと心情的に売り物にできないよなぁ……


 それはそれとして。

 その後、検証として俺が自分のバッグに入れたメモ書きをエイシャ、アフェクト、セリシェールの方で取り出せるかということを試した。

 それも問題なくできたので逆も試してみたら三人側からも同じようにできた。

 なので、唯奈ゆいな達に向けて新しくできるようになったこととその最後に『いまどの辺り?』と軽い気持ちで書いたメモをバッグに仕舞い込んだ。


「ん、気づくかなユイナとリイサ」

「わかるように二人が入れてないような物にくくりつけたから気づくんじゃないかな」


 そのあとセリシェール先生の魔法教室を受けていた。

 俺とエイシャがセリシェールから魔法の基礎を教わっていたらアフェクトが慌てた様子でやってきた。

 手には里依紗りいさが殴り書きした羊皮紙が握られていた。そこには『また召喚された人がいる。それも最悪なのが来た』というメッセージが書かれていた。


 俺達は三人と合流するために慌てて旅支度を始めた。

 状況報告を求めるメッセージも忘れずにバッグに入れた。

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