第66話

 セリシェールが報告した事への回答が届いたのは指定された合流地点のここについて二日後のことだった。


 それまでの間、俺達がナニをしていたかというと。

 天幕の中に篭ってた。


 数時間前のこと。


 急に崩れはじめた天候に急いで天幕の準備に取りかかった。みるみるうちに空は暗くなっていって、ついには雷鳴まで轟きはじめてバケツをひっくり返したように降りだした大粒の雨に打たれた。

 それで全員がびしょ濡れになったところでようやく天幕を張り終えた。

「ほらレオも早く入って」

「ん、セリシェールは大人しくする」

「エイシャくすぐったいぃ」

「タオルありがと」

 アフェクトが差し出してくれたタオルで濡れた身体を拭いていくんだが肌着までびしょ濡れになってて先にそっちをどうにかしないと意味がなさそうだ。

 だけど天幕はこれだけなんだよなぁ、それにもう一つあってもこの雨の中もう一度外に出たくない。

「ん、セリシェール早く脱いで」

「えっ、あっ、ま、まって、レオ、レオがいる〜〜〜」

「ん、それがナニ? 風邪引くから早く脱ぐ」

 奥の方でドタバタとやってるエイシャとセリシェール。それとは別に水を含んだ重たげな布の落ちるべちゃって音がした。

「ん?」

 振り向いたそこにはエイシャと比べると控えめな双丘が目に飛び込んできた。思わず両手で目を覆って「ご、ごめん」と謝ってしまった。

「いや、別にいい。それよりレオも早く服を脱いで身体を拭け」

「わ、わかった」


 エイシャの裸は何度も見てる。けど、けど!

 堂々と着替えているアフェクトに背を向けて着替えるのもなんだか負けた気になって向かい合って上着を脱ぐと奥の方から「はわわわわっ」なんて声が聞こえてきた。

「んっ、レオも早く脱ぐ」

 いつの間にか俺の前にやってきていたエイシャが一気にズボンを引き下げようと力を入れた。

 濡れたズボンは肌に張り付いてエイシャに抵抗して見せたがずるっといった。ズボンと一緒にパンツがずり下がって一瞬だけ引っ掛かりべちんという音が響いた。

「あ、おっきぃ」

「しょうがないだろぉ!」って騒いでたんだけどアフェクトが無言のままである事に気づいた。

「アフェクト?」

「ふぁ、ど、どうした?」

「いや、無言だし、耳も赤くなってるし」

「えっ!? あっ、レオ、気にしないでくれ」

 アフェクトだけじゃなくてエイシャと「あうあう」言ってるセリシェールの視線がおっきしたきかん棒に向けられていた。

「わっ、わわっ!?」

 両手で隠したけど手をどけろと言わんがばかりの視線がエイシャから投げかけられた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 天幕の中には気まずい雰囲気が立ち込めていた。

 全員が着替え終えてちゃんと衣服に身を包んでいるというのにアフェクトとセリシェールがチラチラと俺の方を見てくる。いや、正確には平静を取り戻した股間に視線が集中している。


「ん? 二人とも興味があるならお風呂一緒に入る?」

「〜〜〜〜〜っ!?」

「それは、ちょっと勘弁してもらえないか」

「わ、私も恥ずかしい……」

「ん〜〜、でも、興味がある?」

「エイシャ…… そ、そんな話は、俺がいないとこでやってくれ〜〜〜っ!?」

 女性同士がそういった話で盛り上がるのは知ってるけど、けどね、それは男が、俺がいないとこだけにしてくれ〜〜〜っ。

 ぜ〜、は〜と荒い息を吐いていると不思議そうな視線を向けられた。


 それから暫くの間、沈黙が流れていまに至っている。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ようやく雨があがった次の日の午後になって待ち人がやってきた。

 人と言っていいのかは悩むところだけど人の言葉を話して意思疎通ができる存在だ。


 小柄な体型に特徴的なのは両腕に当たる部分が大きな翼で腰から伸びた尾羽。太腿の辺りはフワッとした羽根に覆われていてその下は鳥の脚みたいだった。

 頭に浮かんだのはハーピー。

 物珍しさから視線を外せずにいると愛くるしい小さな顔を傾げて微笑んできた。

「レオは小さい子が好き?」

「んっ!? んん〜っ、そんな事ないから! 俺が好きなのはっ」

「ん! それは言わなくていい」


 セリシェールとハーピー(多分)さんが話をしている間に食事の準備に取り掛かった。

「セリシェールの知り合いならお肉は使わないほうがいいかな?」

「私の知ってる鳥人とりびとはそんなことはなかったけど」

「ん、本人に確認する」

「そうだな。それが早かったな」

 話が終わるまでの間に俺たちの分を準備していく。

 部外者がいる関係上、普通の探索者のように穴を掘ったり石を積んだりして竈門を作ったりと準備をしていく。食材は隙を見てちょっと多めに出しておく。

 あんまり、凝ったものできないなあ…… って、思ってたらエイシャがスープの入った鍋を取り出した。

「あっ……」

「ん?」

「あっ!」

「あ!?」

「あっ!?」


 見られた。ここは収納魔術が付与された背嚢はいのうって誤魔化すか? うん。それでいこう。きっとうまく誤魔化せる。よしっ!

「あのっ! これは———」

「ふふんっ、どうじゃ、すごいじゃろ! 時間も経過しないからずっと暖かいままなんじゃよ!」

 あ〜〜〜っ、せっかく俺が誤魔化そうと思ってたのにぃ!

 セリシェールがハーピー(仮)さんに得意げに(ない)胸を張って宣言した。


 台無しだよ!

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