第67話

 収納魔術を俺が付与したことを得意気に話すセリシェールの口を俺とエイシャで塞いだ。最初モゴモゴ言ってたのが腕をパンパンとタップし始めて、手を緩めるとまた語り始めたのでもう一度口を塞いだ。

 最終的にはタップするだけじゃなくって俺の指を舐めてしゃぶり始めたから慌てて引っこ抜いて解放した。

 その時のセリシェールの表情を見てエイシャがうわぁ〜って表情を浮かべていたけど、よっぽど酷い表情をしていたのだろうか?

 そしていま、エイシャの指示で俺はセリシェールを後ろから羽交い締めにしている。いや、別に虐待してるわけじゃないと言わせてくれ! 絵面的には幼女を後ろから羽交い締めしている事案だけど!

「ん! 暴れるな! ちゃんと拭く」


 どんな表情になっていたのかはわからないけど多分…… 酷かったんだと思う。最初は口元を拭こうとしてたんだけど、エイシャが拭こうとすると顔を逸れせて涎が塗り広げられたらしい。それで広がった分も拭こうとしたら『ぶしゅん』てエイシャの顔をべっとりと濡らした。

 そこからは自分の顔を拭いたエイシャがセリシェールの顔を拭こうとして逃げるを繰り返している。

 タオルを渡せばと言いそうになったけど、どうも戯れあってるだけに見えないこともないからそっとしておいて目をぱちくりさせてるハーピー(仮)さんに収納魔術を俺が付与したことは他言しないで欲しいとお願いした。


 この混沌とした状況で一番常識人だと思っていたアフェクトは俺達に背を向けて膝を突いて口元を押さえていた。

 あ〜〜、これって元の世界でなら『尊い……』とかしてるやつ? 知らんけど。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 そのあと、セリシェールが正気に戻ったので状況の説明をしてもらった。

 簡単に言うと『盗まれた物品の捜索はこっちでやるから、お前は帰ってくんな』だった。Oh……

 その通達を受け入れられなかったセリシェールが変なテンションになって隠す約束だった収納魔術のことをべらべらと喋ったというのがさっきまでの流れらしい。十分反省したのか「御免なさい」してきたから許したけどね。


 そしてハーピー(仮)さんはマイアと名乗った。

 本名はなんか長くて人種には発音しづらい音が混じってて対外的にはマイアと名乗っているそうだ。

 外見は本当にハーピーといった感じ。衣類も貫頭衣っぽいものを着ているだけで肌着というか下着らしきものは身につけていない。

 なんで知ってるかって? 見る気はなかったけど正面に座られた時に丈が短いから見えました。履いてないのが!


 エイシャが何か企んだような笑みを浮かべ、アフェクトからはこれだから男はしょうがないって視線を向けられた。やめて、その視線!

 居た堪れなくなってその場を離れて料理に取り掛かることにした。

 補助にやってきたエイシャが耳元で囁いた。

「今度、あんな服着てあげようか?」

「っ!?」

 声が出そうになったところ、口を押さえてコクコクと頷いた。

 あ〜っ、最近女性が増えて発散できてないからそういう話題されるとくるもんがあるなぁ。


 あ、マイアさんはお肉もOKでした。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 マイアさんに好評だったのはライパンの香草蒸しとでもいう料理。

 収納魔術も知られたことだし俺は自重しなかった。

 普段どうりに焼くだけじゃなくって魔導竈Madokamも出して蒸し料理も作った。

 それと、ハーブが効いたものが好きならと試作していたハーブを(大量に)混ぜ込んだソーセージも好評だった。これ、調子に乗りすぎて一部酒呑さんの評価はイマイチだったやつ。


 マイアさんは手に当たる部分が羽根だからフォークとか使えないよなと思っていたら、自前のフォークを取り出して器用に脚でそれを使う。

 そのフォークは持ち手の部分が太くて長い。

 あと、スープカップなんかは両方の羽で支えるようにして持って口に運んでいた。

「器用なんですね」

「私達だけならそのままつかんでガブってしますけどね」

 ちゃめっ気たっぷりにそう言うマイアさんはサングニエルの豚カツ(豚じゃないけど)を口にして「これも美味しい」と料理を楽しんでいた。

 ひとりだけ野菜や果物中心に食事をしていたセリシェールが「わぁ〜〜!」と叫んだ。あっけに取られている間にライパンの香草蒸しにフォークをたててバクリ、次いでサングニエルカツにぶすり、バクっといった。

「お、おいっ、それ肉っ!」

 それだけ口から言葉を紡いだところで満足気な表情を浮かべたセリシェールが「お肉、美味しいのじゃ!」と言い放った。見た目は幼いから無邪気な子供に見えるけどアンタ最年長だからな!


 結局、郷からいらない子認定されたなら我慢をやめたらしい。

「ず〜〜〜〜っと、皆んなが美味しそうに食べてたの見て我慢してたんだからね! それもこれもレオが悪い!」

「えっと、携行食の件ならごめん。でも、いま食べたらまた……」

「帰ってこなくていいって言われたからもういい!」

「え〜〜〜〜……」


 俺の不平をよそにお腹がぽっこりするまでセリシェールは食べた。それはもう満足と言わんがばかりに。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 その日の夜、アフェクトが先に当直にあたっている時のこと。

 天幕の外、焚き火を挟んだところで横になっていた俺のところにセリシェールがやってきて背中に身を寄せるようにしてくっついてきた。

 その感触に目を覚ました俺に気づいたセリシェールはぎゅっと抱きついて耳元で囁いてきた。

「私の純潔をあげるから、ここにおいて、一緒に居させて……」


 行きどころをなくして自暴自棄になってるんだろうけど、だからと言ってそういうことを言うもんじゃありません!

 このあとアフェクトと当直を代わるまでの間、きっちりとお説教しました。

 涙目になって「もう言いません」って言ってたけどコンコンと諭した。


 日本人としての倫理観は俺の中にまだ残っていたみたいだった。

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