第65話
久しぶりに探索者組合の依頼を受けることにした。
別にセリシェールの奪われた荷物を取り返すことを忘れたわけじゃない。
セリシェールが郷に状況報告のために送った書簡の返答を受け取るために森に行くと言うのでそのついでに受けられそうな依頼を受けたのだ。
相変わらずの採取依頼。
ただし、今回はお肉。サングニエルを俺が解体した状態での納入を探索者組合から求められた。数は二体。
サングニエルを狩ること自体はアフェクトとエイシャがあっさりと狩ってくれたので最初の一体は『分離』によって解体してみた。意外にもかなり高い精度で解体することができた。
二体目はエイシャが『分離』で解体してみたけどいまひとつの結果だった。
「解体手順の熟練度が影響してるのかな?」
「ん、可能性はある」
「じゃあ、次は普通に解体する?」
「う〜ん、セリシェールの前でそれはちょっとやめといた方がいいかな?」
解体された肉塊と地面に広がった血を見て顔を青ざめさせているセリシェールを見るとそれは避けた方がいいように思えた。
「ん、今回はレオに解体は任せて私たちが狩る」
「そうね。じゃあ、自分たちの分も狩っていく?」
「そうだね。食材確保して帰ろうか」
返答を持って来る者と落ち合う予定までまだ数日余裕があったからの判断だったけどすぐに後悔することになった。
「ん、今度はレオの番」
「そうだな、レオの実力を見てみたいな」
「ちょい待ち!? どうしてそうなるんだぁ!?」
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
「それじゃあ、アレ行ってみようか♪」
ニッコリといい笑顔を浮かべてそれを指差すアフェクトだけど!
「いやぁ、アレはちょっと…… 獲っても大味そうじゃないか?」
「ん、サングニエルは大きくなっても味は落ちない」
「え〜っ……」
というわけで、通常のサングニエルより二回りくらい大きいやつに挑むことになったんだけど穴を掘ったりとかの罠はなし、純粋な技術を見たいと言われた。
「危なくなったらすぐに行くから」
「ん、大丈夫。危なくなる前に私が助ける」
「あはは、その時はよろしく」
大きく深呼吸をして解体ナイフを構えて小石を投げた。
俺に気がついたそいつは少し身体を低くしたと感じた直後、まるで打ち出されたように俺に向かって突進してきた。
「うわっ!?」
すれ違いざまに頸動脈を狙ってナイフを振り下ろしたけど全然リーチが足りなかった。
「後ろ、すぐ来るよ!」
アフェクトの声に振り返ると向きを変えたサングニエルが突進の構えをとっていた。巨体に似合わぬ敏捷性に驚かされる。
「ちょっ!? まだ、体勢が」
言い終わる前に突進を開始したサングニエルとの間に咄嗟に杭(というには長い柵の柱)を出す。尖った方はサングニエルに向けて反対は地面に当てて。
それに気がついたサングニエルが向きを変えようとしたが突進の勢いがつき過ぎていたのと至近距離に急に現れた杭に避けきれずに左肩から入った杭が突き刺さった。
エイシャとそれに続く形でセリシェールが俺の傍に駆け寄ってきて、そのあとにもがいていたサングニエルにトドメを刺したアフェクトがやってきた。
「レオ、大丈夫?」
「うん、ビックリしたけど。怪我はしてない。と思う」
「見た感じ、大丈夫そうね」
「レオの技量であれはキツイか」
「まあ、搦手を使えばなんとか、かな」
正直に言うと自分が戦闘に向いているとは思ってない。
できることなら狩りも罠を使って済ませたいと思っている。思っているんだけど、それじゃあ駄目みたいでアフェクトによる鍛錬が俺の日課に加わることになった。朝と晩の約二時間が鍛錬にあてられることになった。なってしまった……
そのあとはサングニエルをバッグに片付けて今日の野営地の準備とセリシェールによる魔術講座が開催された。
最初は初歩的な魔力の流れを感じることからと言われたけど、生徒である俺達三人のうちアフェクトだけが上手くできなかった。
「う〜ん、アフェクトはもう人の使う魔術が馴染んでいるから魔術の行使には詠唱が必要だという考えを変えるところから始めないと駄目かも。でも、今の魔術に不満がないなら無理して覚えないほうがいいかも」
そうアフェクトに告げたあと俺達の方に向き直って(外見の)年相応の笑顔を向けてきた。
「エイシャとレオはその心配はなさそうだからご飯にしない」
「あ〜、そうだな、結構な時間が過ぎていたみたいだし、そうしようか?」
「ん」
「ああ、そうしよう」
初歩的なこと。そう言われたことができなくて悔しい思いをしているかと思ったアフェクトだったけどそんな素振りも見せない。ホントに気にしてないならいいけど。
で、ご飯なんだけどセリシェールの分は酵母づくりに成功したおかげでできた食パン。蜜漬けにした数種の果物を挟んでサンドイッチにしたもの。俺達の分はエイシャが(『分離』で)解体したサングニエルのお肉を焼いた。
サラダと野菜スープはストックしてあるものを取り出したらいいだけと簡単に準備を済ませた。
「このパン、フワッとしていてとても柔らかいわ」
「私もこんなのは初めて見た」
「ん、美味しい」
概ね好評なようで良かった。でも、元の世界で食べていた安い食パンでももっと美味しかったよなあ……
まだまだ、改良の余地は多いなぁ
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