閑話

 夜も更けた頃に浅い眠りから目を覚まして水を飲みに行ったら明かりがついていた。

「ん、リイサ、どうしたの?」

「ううん、ちょっと喉が乾いただけ」

「座ったら?」

「じゃあ、ちょっとだけ……」


 エイシャのことはまだよくわからない。彼女がいなかったら礼央れおくんが死んでたかもしれないのは理解している。でもね、お嫁さんになってるってどういうことなの!

 帰ってくる道中は考えないようにしていたことが頭に浮かんでくる。

「ん」

「ありがと……」

 私の前に果実の甘い香りがする飲み物を差し出してくれた彼女にお礼を言って一口飲む。

「……甘い、けど、美味しい」

「ん、口にあって良かった」


 エイシャの傍を見ると籠に毛糸の玉と編み針があった。

 もしかして何か編んでたのかな? 会話のきっかけを探していた私はそのことを訊ねた。

「もしかして、礼央れおくんに編んでるの?」

「ん? そう、内緒にしておいて」

「はぁ、私、編み物とかできないやぁ……」

「ん、意外。料理ができるから家事全般はできると思ってた」

「あはは、料理はね。礼央れおくんの傍にいたくて手伝ってるうちに覚えたんだ」

「リイサはどうしてレオに好きだと言わなかったの?」

「っ!」

 はぁ、ド直球の質問が来たなあ…… 少しの間躊躇った私は喉を潤してから口を開いた。驚くほどすんなりと言葉は溢れでてきた。


「私達三人は姉弟のように育ってきたの。小さい頃はずっと一緒に過ごしてた。いっぱい遊んで、時々、喧嘩もして、でもすぐに仲直りして大きくなってきたの。礼央れおくんがうちに泊まりにきた時なんかは一緒にお風呂に入ったり、一緒のお布団で寝たりしてたんだ。あ、時々、唯奈ゆいなも一緒だったんだよ」

 すごく懐かしい記憶が蘇ってきた。でも、こうして過ごしたからこそ……

「でもね、そうやって姉弟のように過ごしているうちにいつの間にか礼央れおくんのことを好きになっていて、その気持ちに気がついた時には私、ううん、私と唯奈ゆいなは彼にとって恋愛対象になってないってわかったんだ…… たぶん、距離が近過ぎてほんとの姉か妹のように思われてるんだって、そう思っちゃったの」

「だから、好きって言えなかった?」

「うん…… 言えなかった…… 関係が壊れるのが怖くて、言ったら礼央れおくんの隣に居られなくなりそうだったから……」

「だから、ずっと我慢してたんだ」

「うん……」

「ユイナも?」

「たぶん、そうだと思う……」

「ん〜、うまく言えないけど、これからはリイサも幸せを望んでいい。もちろんユイナも。一緒にレオに好きって気持ちをわかってもらおう」

「うん、うん……」


 いつの間にか私はエイシャの胸に抱かれて涙を溢していた。

 色々と話をしているうちに慰められていた。

 その母性に抱けれているうちにエイシャのお情けで礼央れおくんの傍にいることができるようになったことに対して抱いていた気持ちだとか、そういった感情が流されていった。


 それにしても、身長は私より低いのに、このたゆんとした胸は私と遜色ない大きさ(僅かに負けている)だし、括れは私より細い、羨まし、んっ、んんっ!

「んっ? リイサ、駄目! どこ触ってるの!?」

 はっ! つい、羨まし過ぎて括れから下乳のラインをなぞって柔らかな乳房の感触を堪能してしまった。というか、柔らかさが気持ちよくって手が離せなくなりそう。自分のじゃこうはならないからね。てへっ!


「ん、もう! やめなさい!」

 立ち上がったエイシャのお腹に顔を埋めているところにやってきた唯奈ゆいなの「何してんの」という奇妙なものを見るような目に晒されて私は正気に戻ることができた。

 そのあと唯奈ゆいなに必死になって事情説明した。

 変な誤解はされてないと思う。たぶん…… 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る