第27話

 組合の中に入りエルネスさんのところへ向かう。

 今日も今日とて周囲の探索者からの視線が痛い。それでも最初の頃よりは随分マシになっている。


「依頼の完了報告に来ました」

「ただいま」

 書類仕事をしていたエルネスさんに要件を告げる。

「おかえり、二人とも。依頼完了報告だったね、どっちの分だい?」

「ん、両方」

「随分、早くないかい?」

「薬草はこの籠に、ライパンの方は表の荷車に積んでます。裏にまわりましょうか?」

「そうしておくれ、声はかけとくから」

「はい、行こうか、エイシャ」

「ん」


 裏の解体場に向かうとガンドさんが手を挙げる。

「おう、おつかれ」

「はい」

「ん、ただいま」

 それだけ言うとガンドさんと他二人の男性職員はライパンの入った麻袋をおろし始めた。

「ガンドさん」

「どうした?」

「これを見て欲しいんですけど」

「なんだ?」

 ガンドさんの前に分けておいた麻袋の中から俺の解体したライパンを出す。熟成させるためにお腹の中に氷嚢を入れた状態で。この氷嚢は唯奈ゆいなが持っていた氷の魔力を封じた保冷剤(ルゥビスからの支給品)の表面に布を巻いた物。俺も欲しいなぁ、こっちでも手に入るかな。


「処理したものと、そうでないものを比べてもらえませんか?」

「それは味を比べろってことか?」

「そうです。ただ、熟成を開始して半日もたってないので、処理してないものも熟成させて比べて欲しいんです」

「てことは、三日後に味を比べろってことだな?」

「はい、依頼分を除いても余る筈ですから、是非試してください」

「分かった。これは預かろう」

「あ、腹の中に入れてある保冷剤は返してください。それ借り物なんで」

「おう、それにしても、これも綺麗に解体してるな」

「まあ、美味しく頂くためですから」

「ははっ、いい心掛けだ。じゃあ、確認するから表で待ってろ」

「ん、またあとで」

「お願いします。あ、荷車ここに停めててもいいですか?」

「おう、いいぞ」

 再び表から組合の中へ、今度は全員で組合に入ってエルネスさんに「お昼食べてますんで」と伝えて併設された食堂に向かってテーブルに着く。


「エイシャ、ここのオススメは?」

「ん、私も初めて」

 そういえばエイシャは男性探索者に絡まれるから長居してないって言ってたな。この人数に絡んで来る奴も居ないだろう。

 ひとまず全員分のノンアルコール飲料を注文したらレモネードのようなものが出てきた。

「レモネードなのか、それともハチミツとレモン風味の水なのか?」

「私的には後者」

「同じく」

「これはシツルの実を絞って蜜を垂らしたもの」

「シツルの実、あとで市場に行った時に見てみるかな」


 メニューのような物はなかったから給仕に来たキツネ耳の女性(中年)にオススメを聞くと今日はシェブルの香草焼きとのことでそれを人数分とパンとスープを注文した。料理が来るまでの間にこのあと行きたい所を話し合った。

 食材の購入に露店に向かうことは決定なのだけど、午後のこの時間(大体、二時)になると野菜類はあまり無いかもしれないとエイシャに言われた。

「無かったら明日出直すよ。それに店舗を構えてる所もあるんだろ? 行ったこと無いけど」

 ルゥビスやジェドではそういうお店を見たことはある。少し割高で俺はもっぱら露店専門で利用してたけどね。

「ん、あるけど、割高」


 エイシャの返事とほぼ同時に声がかかった。

「はい、お待たせ」

 注文した料理を手に給仕のキツネ耳の女性(中年)がやって来た。

 最初にスープ、その次にパンが盛り付けられた籠が来て、最後に大皿に(レタスに似た)葉物野菜を敷き、その上にシェブルの薄切り肉が盛り付けられたものがやって来た。結構癖のあるにおいがする。

「納得、だから香草焼きなのか」

 独特のにおいがあるから、その臭みを消すのに香草を使ってるみたいだ。味の方はどうだろうか?

「いただきます」を唱和したあと早速、シェブルにフォークを伸ばす。

 パクッと口に含んだ俺の感想は『癖が強い』だった。臭みはもちろんある。その臭みを抑えるために甘くほろ苦い香りがするものと爽やかな香りの香草が使われていた。どちらも乾燥させたものを塩胡椒で下味をつけたお肉と一緒に焼いて、最後にフレッシュなものを刻んで振りかけた感じ。結構噛みごたえがあって脂肪分は少なめ。

 探索者向けだから少し塩分が多い気がしないでもないが汗をかいた後に食べればまた違った感想になるのだろうか。

 パンは変わらず硬い、それをスープに浸して食べる。

「酵母作りから始めるか?でもなあ……」

 いや、俺はパン屋になりたいわけじゃないし、知識だけ提供するか?


 食事が終わる頃にエルネスさんが報酬を持ってテーブルにやってきた。

「素材の状態が随分良かったけど近くだったのかい?」

 エイシャが何か言うよりも早く「手伝ってくれる仲間がいて想定していたより早く採取できました。あ、それにライパンが一箇所にものすごい数が集まっていたんですよ」と言って話を濁す。

「それはどこだい?」

 流石に異常な動きを見せる獣の情報は聞き逃せないらしい。

 その説明のために俺達は別室に通された。説明はエイシャに任せて俺達は抜けていた部分を補足した。

 その報告が終わったところで探索者組合をあとにした。

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