第59話
アフェクトは自分がハーフエルフということもあってか少し緊張している。
少女の方も俺達を信用していいものか考えあぐねているようで何ともぎこちない感じになっている。
それでも出発の準備を整えながら名前を聞くことはできた。とは言ってもネイティブな発音はうまく聞き取ることができなかったから愛称だけど、金髪(幼女・神燐)エルフはセリシェールと名乗った。
彼女はとある目的の為に郷を出てきていた。
アンディグからアンクロに向かう途中でリキャンの群れが襲撃してきた。その少し前に護衛を頼んでいた探索者の一人に果実水を勧められて、それに痺れ薬を盛られたということだった。
身動きが取れなくなっていく中でなんとか作動させた護身用魔導具によって一命はとりとめたということだった。
そこから推測した俺の考えだと元々、命まで奪う気がなかったのかリキャンの襲撃で命を落とすと考えて放置して行ったのか。どちらにしても直接手を下すつもりはなかったように思う。
これについてはアフェクトからの補足情報があって、過去に神燐エルフの持ち物を奪った上に殺害したという事案あって、その報復で一つの国が滅んだとの伝承があるそうだ。神燐エルフおっかねえな。
「事情はわかったけどセリシェールはこのあとどうする?」
「奪われた荷物を取り返したいけど、私には戦う力は無い」
「えっと、セリシェール様は魔法で攻撃したりは出来ないのですか?」
「私は、その…… 攻撃魔法が苦手なの……」
あ、何となく察した。
俺も攻撃魔術って上手く想像出来ない。
試しに水球を飛ばしてみたけど上手くいかなかった。ただそこら辺一帯を水浸しにしただけで攻撃に使えそうな感じじゃなかった。
まあ、エイシャと二人して水球のぶつけ合いをして遊んだだけになったんだけどね。
あれはあれで楽しかったから良し。
「それで、荷物を持ち去った探索者はなんて名前?」
「セプテシズムと名乗ってました」
「アフェクト知ってる?」
「アンディグじゃあ聞かない名前だね」
「そのセプテシズムの特徴は?」
「特徴が無いところが特徴、かな…… 改めて思い返そうとしても思い出せない」
「認識阻害系の魔術かスキルを使ってたのかな?」
思い思いに想定できることを口にしてみても解決に繋がりそうな話が出てくるわけもないまま俺達は荷台で揺られながら街道を進む。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
アンクロまであと一日程のところまで来ていた俺達だったが途中の天候やトラブルのせいでこのまま行っても夜になって街に入れなくなるということが予測された。
そしてその予想通りに俺達は日が暮れてちょっとしてアンクロの外壁に到達した。
俺達が当直についているとルカンドさんから「明朝、街に入るまでの護衛よろしくお願いします」という言葉と一緒にスープの配給を貰った。
ルカンドさんの馬車の周りには多くの馬車や荷馬車が集まっていた。どの馬車も俺達と一緒で明日、門が開くのを待っているみたいであちらこちらに焚き火の明かりが見える。
これだけの人間がいると獣は近づいてこない。この場合最も厄介なのは人間。この集団の中に盗みを働く者が混ざっていることもある。いや、あった。俺はその場に居合わせたわけじゃ無いけど今回のように街に入れなくて外壁沿いで野営をしていた商人が襲われたというケースが起きた話を探索者組合に通っている時に聞いたことがある。
その商人はがめついことで有名で外壁まで着いたことで探索者との契約を終わらせたらしい。それで襲撃された。幸いにも一命は取り留めたが被害は大きかったと聞いた。
五から六人の探索者を護衛に雇っていたとして、一般的には探索者の食事も依頼主持ちになる。そして報酬も一日いくらという場合と全行程でいくらという風に分かれる。
今回、俺達が受けた護衛依頼は全行程でいくらというもので予定日数を超えても目的地に着くまでは(よほど例外的なことがなければ)報酬額は変わらないというもの。
件の被害にあった商人は日割りの報酬で依頼をだしていたということだった。それで外壁に着いた時点で護衛依頼を完了ということにしたらしい。まあ、自業自得としか思えないけどな。
そして今、俺達の周りにいる馬車や商隊でも同じように警戒をしている。知り合いでも無い限り不用意に接触を持つことはないようだった。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
そして翌朝を迎えて、俺は初めての護衛依頼を無事(と言っていいものかは悩むが、まあ、無事ということにしておく)に終えることができた。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
「こちらこそ、ありがとうございました」
門を潜った先の広場で簡単な挨拶を済ませて報告書への署名をしてもらってルカンドさんと別れた。
「それじゃあ、探索者組合で組合証の更新をしてから宿を探そうか」
「ん、少し休んで、街を散策したい」
「皆んなはアンクロには来たことがあるの?」
「私達は通り抜けただけみたいなものね」
「そうだね、あの時はのんびりする余裕はなかったね」
「あ〜、そのせつは心配かけてごめん」
「私は、その……」
「いいのよ、無理に言わなくても。ね」
「はい……」
ミドヴィスは奴隷だった時のことを思い出しているのだろう。言い
「私は何度か来たことがあるわ」
「私は二回目かしら」
アフェクトは何度か訪れたことがあると言い、セリシェールは二回目らしい。意外にも少ないというか、セリシェールの事情を考えると多いというべきか。
「探索者組合の場所なら私達にもわかるからついてきて」
探索者組合に入ると、ここでも彼女達はやっぱり周囲からの視線を集めた。六人のうち半数の三人が俺にベッタリとくっついている。その様子を見た探索者は俺に向けて殺意のこもった視線を向けてくる。
まあ、こういう視線にもずいぶん慣れてきたから気にしない。相手をするとキリが無いことは学習済みだ。
後ろの方でごちゃごちゃ言ってる奴らがいたけど、アフェクトに気づいて黙り込んだ。流石に高ランク探索者に絡んでくる程馬鹿じゃ無いらしい。
組合証の更新が終わるまでの間にロスター商会の場所を教えてもらって、ついでにオススメの宿(探索者向けでは無いところ)を教えてもらった。
少し時間がかかったけどアフェクト以外の組合証を無事に更新して探索者組合を出た。セリシェールは探索者では無いので更新は無しだ。
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