第56話
少し進んだ丘の先に血臭の原因があった。
ザッと見たところ十人ほどの人が倒れていた。
「駄目だ、皆んな殺されてる……」
「
「魔術?」
「多分、何か大切なものかな?」
サイズ的には人間。
無地のその外套からは確かに魔術の痕跡と言える光の粒子が見てとれた。
「これはエイシャとアフェクトの領分だな」
「そうね」
外套に包まれた何かを運ぶに当たってバッグへ収納を試みたのだが出来なかった。このことからコレが生きていることが証明された。
何かが包まれている外套を抱えて馬車まで戻ると乗客含めて朝食中だった。悪いとは思ったけどルカンドさんには報告のために声をかける。
「ルカンドさん、昨晩の件で報告があります。少し時間を頂けますか?」
「わかりました」
エイシャ達が集まっているところに俺と
「それで、これはルカンドさんに提案なんですが、亡骸の埋葬をしたいと思うんですが時間をもらえませんか?」
「そうですね、状況が状況ですので、その件については了解しました。ただ、それ程時間は取れませんよ」
「まあ、そこは頑張ります。とりあえず二時間だけ時間をもらえますか?」
「わかりました。遺品は回収しておいてください。アンクロの管理組合に状況を説明して渡して頂ければご家族に帰して頂けますので」
「回収、しておきます」
「はい、では二時間後にこちらも移動を開始します」
「アフェクトとシュリーナ(
「ん、わかった」
「ええ」
エイシャと
「それと、あの外套のことなんだけど、エイシャの『解放』で解除できるかな?」
「ん〜っ、レオの助けがあれば、もしかしたら出来るかも?」
「じゃあ、必要になればお願い」
「ん、わかった」
惨状の現場で埋葬を行う前に遺品を集めていて気がついたのだが、遺体は十二人分あったのに探索者は一人もいなかったように思う。それに一山いくらで売っていそうな武器を持った者が半数いた。
「探索者組合証が無い。もしかして探索者じゃ無い人が護衛についていた?」
「まさか、そんなことが……」
「リイサ。レオの推測は正しい」
エイシャの手の上には市民証があった。この市民証は組合に所属していない者が産まれた町の市民であることを証明するために発行されるもので組合に所属すると組合証に切り替えられる。それが市民賞のままということは組合から抜けたのか最初から所属していないかのどちらかということになる。
護衛役だと思われる遺体からはそれ以外にはポーチの中に入った私物くらいしか遺品と言えそうな物は見あたら無かった。あとの遺体は御者、商人が一人、アンクロに出稼ぎに向かっている者が三人、旅行者らしいのが一人。
「改めてこうして見ると護衛役はあの外套に包まれた何かを守っていたんだな……」
そう呟いて俺達は埋葬を済ませていった。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
馬車と合流してアンクロに向けて移動を再開する。
アンディグから三日の行程、その二日目に想定以上の出来事に遭遇した。
アフェクトによると「こういうことは殆ど無い比較的安全な街道なのに」ということであった。まあ、そうだよな。街と街を繋ぐ街道は人通りもそれなりにあるから普通は獣も近寄らない。
「リキャンの件と無関係じゃ無いよな」
「そうだね。噛まれた跡の他に刃物による傷もあったしね……」
「探索者じゃないなら同士討ちの可能性は?」
「それも無いとは言えないな」
「結局、今の状況じゃあ何もわからないね」
「ん、アンディグに知らせを出すのが良い」
「書簡だけ用意しておいてアンディグ行きの人に頼もうか?」
「ん」
午後になりアンディグに向かう行商人がいたのでその護衛についていた探索者に組合まで書簡を持って行ってもらえるように頼んだ。
そのあとは順調に行程をこなしていたのだが、夕方になり天候が崩れ始める。
ルカンドさんの方からも「雨が降り始める前に夜営の準備をしたい」という申し出があったのでそれに同意することにした。
「ルカンドさん、俺は獣の接近を知らせる仕掛けを設置してきます。誰か仕掛けてる間の護衛についてくれ」
「あ、それなら私が」
「私も行こう」
「じゃあ、行ってくる」
「ん、気をつけて。シュリーナ(
「夕飯の準備は任せて」
「お気をつけて」
夜営場所から近過ぎず、離れ過ぎない距離をとって原始的な仕掛けを仕掛けていく。そうロープを張ってそれに触れたものがいれば野営地の鳴子が鳴るという原始的なもの。
雨が降れば火を焚くことができないから視界に頼れなくなる。
まあ、それだけでは不十分なのは確かだからこそ、もう一つ仕掛けをする。以前にも仕掛けたことがある堀を街道側以外の三方に仕掛ける。
それを見たアフェクトからは「うわぁ……」という呆れた声が溢れた。
そして堀の内側にも馬車を取り囲むようにロープを張って警報器代わりにする。これにはもう一つの意図を持たせている。
「ルカンドさん、獣の接近を知らせるためにロープを全周に張ってあるので馬車から離れないように乗客に伝えておいてください」
「わかりました。そちらも日が暮れるまでに夕飯を済ませておいてください」
「はい、ありがとうございます」
報告を終えて皆んなの元に移動すると当直用の天幕と夕飯が用意されていた。
「ありがとう、任せっきりになっちゃたな」
「ん、分担」
「
「皆さん、お疲れ様でした」
夕飯を食べながら簡単に仕掛けの概要を伝えた。
「それで、今日の当直なんだけど俺とエイシャでしようと思う」
「レオは索敵能力は高いの?」
「俺の索敵能力かぁ、普通じゃないかなあ」
「ん、高くはない。と思う」
「えっ、それなら私の方が……」
雨のなか、夜間の当直、そこに索敵能力が平凡とくればより能力の高い方が安全と考えるのは当然。だとしても、昨日も当直当番だったアフェクトと
「ん、でもレオなら、大丈夫」
「本当に大丈夫なの?」
「
「そうなの?」
「まあ、どうにもならなくなる前に助けは呼ぶよ」
「本当にそうしてよ」
「何も無いことを願っていてよ」
「あははっ、二日続けてなんかあったらお祓いに行かなきゃ」
「いや、それエンリ(
聖女の称号を持っている
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