第54話

 組合長に帰れと言われた以上。組合の食堂で屯するわけにもいかず、裏の解体場の片隅で今後の予定を話し合うことにした。


 デュータさんのパーティも一度ケチのついたこの護衛依頼を受けるのは縁起が悪いと言って、さっさと他の依頼を受けて組合から出ていった。

 そうグロフゥコンの卵の採取依頼。

 俺がなんとなくフラグが立ったと感じた依頼。


「気をつけて」

 デュータさんのパーティを送り出したのがついさっきのこと。

「さて、俺達はどうしようか?」

「予定が狂ったよね」

「でも、ルゥビスには行っておかないとなぁ」

「そうだよね」

「ん、私達だけで行く?」

「そうだな」

「流石にもう一度あの依頼を受ける気にはなれないよね」

「そうよね、あんなケチがついた依頼を受ける気になれないよね」

「私もそう思う」

「空いてる馬車があるか見に行こうか?」

「そうしよう!」

「旅行気分で楽しもうか」

「ん「「「賛成!!」」」」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 乗合馬車の予約を取りに行くことにした俺達。

 この人数全員が一緒に乗れる馬車は二日後の便、ひとつだけ条件を出された。

「その日、護衛を頼んでた探索者が負傷してなあ。負傷自体はそこまで酷いもんじゃあないらしいんだがな」

「探索者組合への依頼は済ませてるんですか?」

「いま、手続きをお願いしている所だが」

「そういうことなら、その依頼を受ければ良いんじゃないかな」

 正規の手順を踏むのであれば問題は無いとアフェクトも言っているし、他の皆んなも賛成のようだし、悪い話じゃ無い。そう思える。


「ところで、構成は馬車一台ですか?」

「ん? ああ、今回はあんたらを含めても十人に満たないからな」

「じゃあ、依頼の確認してきます」

「ああ、よろしく頼むよ。このままじゃあ出発出来なくなるところだったから助かるよ」


 俺達は再び探索者組合に戻ってエルネスさんにさっき聞いた乗合馬車の護衛依頼が受理されているかを確認、その内容についても確認した。

「流石に、今度は大丈夫そうだな」

「ん、あんなことはそうそう無い」

「そうだな、信用を失うようなことをしては自分が困るだろうにな」

「そうだよね。あの商隊長も馬鹿なことをしたよね」

「まあ、私たちには関係ないことだよ」

「そうですよね。あんなことをすれば後々困ることになりますよね」

「はは、その辺は組合の方からも抗議をする予定だよ」

「本当によろしくお願いしますね」

「それで、この依頼を受けるのかい?」

「はい、お願いします」

「分かったよ。じゃあ、気をつけていっておいで」

「「「「「「はい」」」」」」


 依頼の受領と馬車の予約を済ませた俺達は当日までのんびり過ごすことにした。

 暇をいいことにお試しでじゃがいもの薄揚げを作ってみた。といっても適温に温めておいた揚げ物油の入った鍋の上でじゃがいも(っぽいもの)をスライサーでしゃこしゃことスライスしてそのまま油の中に投入。重なり合わないように菜箸で適当にかき混ぜてぷくぷくと出ていた気泡が出なくなったら油からあげて軽く油をきる。あとは全体に塩を軽く振っただけの簡単なもの。


 皆んなの前に出すと概ね好評価。

 特に唯奈ゆいな里依紗りいさは喜んでいた。

「まさか、こっちでポテトチップスが食べれると思ってなかった」

「お芋の品種が違うからちょっと甘いけど、それでもこの食感はポテトチップスだよ!」

「これがポテトチップス……」

 皆んなお気に召した様子で次々と皮を剥いた芋を俺のところに持ってきて、結果大皿に山盛りのポテトチップスを揚げる羽目になった。スライスのし過ぎで腕が疲れた……


「食べきれなかった分はバッグに保存しとくからね」

「ん、分かった」

「「「は〜い」」」

「はい」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 アフェクトが里依紗りいさに向かって「食後の運動しない?」と声をかけていた。

「あ、それなら唯奈も。あと、ミドヴィスもおいで」

「は、はい!」


 エイシャの家の裏、空き地というか元々農地だったところ。雑草を刈って焼いているということだけど何年も手を入れていないその土はところどころ硬くなっていたり凹凸も多くある。

「じゃあ、始めようか? 唯奈ゆいな、審判してくれる」

「わかった。あとで代わってね」

「うん」


 アフェクトと里依紗りいさの距離は約五メートル。

 どちらも力みのない構えのまま向き合う。

「始め!」

 フッと息を吐いてアフェクトが一気に距離を詰めて突きを放つ。

 里依紗りいさはゆらりと身体を揺らして左手に持った剣をそれに合わせた。

「っ! やっぱり、いなされるか」

「お返しだよ」

 突き出した剣の軌道を受け流した里依紗りいさはそのまま身体を捩って舞うように右手に持った剣で切り上げた。

「あはっ! でも、それは知ってる」

「だよ、ねっ!」

 探索者組合で手合わせした時にも同じように受け流したあと反対側の剣で切り上げる動作を里依紗りいさは見せていた。ただ、その時より鋒は速く、その軌跡は光の筋を引く。

 速度を増すその剣筋をアフェクトは笑みを浮かべて捌いていく。


 二人は舞いを舞うように剣を合わせる。

 鋼が打ち合っているというのに鈴が鳴るような音が連続して響く。

「綺麗……」

 ミドヴィスの呟きが俺の耳に響いた。


 十五分ほど経過した頃に唯奈ゆいなが「それまでっ!」と声をあげた。

 二人のどちらかに有効打が入ったわけじゃない。

「このまま続けても終わらなそうだし、アフェクト、休憩してから今度は私としよ。里依紗りいさはミドヴィスの相手してやって」

「いいよ。ユイナの実力も見ておきたいから」

「うん、わかった。じゃあ、ミドヴィスも準備して」

「は、はい」


 ミドヴィスは里依紗りいさと手合わせするうちに最低限の盾の使い方を身につけていった。途中から唯奈ゆいなとアフェクトも加わったのはちょっと不憫に感じたけど。


 俺? 俺も三人を相手にすることになったよ。

 運動不足の身には堪えたとだけ言っておく……

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