新生活に向けて

第53話

 アンクロまでの護衛依頼出発日。

 待ち合わせ場所に指定時間より早く向かって依頼主との顔合わせを行う。今回の依頼は通常の護衛依頼とは少し違っているようで、顔合わせが当日となっていた。初めての護衛依頼だった俺や護衛依頼を避けていたエイシャは別段違和感を感じていなかったんだけどキッチリした依頼を多く受けていた唯奈ゆいな里依紗りいさからは注意するようにと釘を刺された。


 あ、二人はいまちゃんと擬態している。ついでに皆んなの装備を紹介。

 唯奈ゆいなは明るい栗毛を後ろで纏めた令嬢風のシュリーナ。

 革鎧に左腕だけに籠手を装備していて、ベルトの左側に小剣を佩いて、右側に収納魔術を付与したポーチを装備。

 里依紗りいさはショートヘアの金髪に猫耳、フサフサ尻尾のエンリ。

 胸の部分に金属板が縫い留められた革鎧を着込んで腰の両側には五十センチ程の細身の直剣、それと右側に唯奈ゆいなと同じくポーチを装備している。

 ミドヴィスは大きな盾を背中に背負って、金属の部分鎧を胸と両腕、腰、両足に装備してベルトの左側に湾刀、右側にポーチを装備している。

 それに対して俺とエイシャは普段着よりは厚手の服(胸の内側に革を当てている)。武器と言えるものは俺は解体ナイフ、エイシャは小弓。

 そしてアフェクトは探索者組合で会った時と同じ姿。

 里依紗りいさのものより上質な革鎧(これも胸の部分に金属板が縫い留められている)を装備していて細身の直剣は左手に持っている。

 ミドヴィス以外は革の脛当ても装備している。


「聞いていたよりも馬車の数が多いね」

 当初の予定は馬車が二台、荷馬車が三台だった。それがいま目の前には馬車が四台、荷馬車が五台。想定の二倍近い数になっていた。

「聞いてこようか?」

「お願いできる?」

「ああ」


 こういう対外的な交渉は一番等級の高いアフェクトに対応してもらった方が問題は起きにくい。任せっぱなしというわけにもいかないから俺も同行するけど。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 中央に停めてある一際大きな馬車。

 そこに俺達は向かって、アフェクトが御者に声をかけた。

「すまないが、責任者はいるか?」

「貴方は?」

「今回、護衛依頼を受けた探索者アフェクトです。こちらはパーティメンバーのレオです」

「紹介に上がりました探索者レオです」

「アフェクト様ですね。御高名はかねがね伺っております。商隊長にお取次ぎいたしますので少々お待ちください」

「ああ、お願いします」

「よお、レオ、アフェクト、お前らもきてたのか」

「デュータさん、おはよう」

「ああ、デュータお前も責任者に会いにきたのか?」

「そうだ、依頼の内容と違い過ぎる。これでは手が足らん。増員が必要だ」

「因みに増員を求めると出発が延期になると考えていいんですか?」

「いや、それは商隊次第だな」

「ああそうだな、急ぐのであれば報酬の上乗せでこのまま出発することもある」

「うへぇ、それは勘弁してほしいなぁ」


 俺がぼやいたのとほぼ同じタイミングで御者が商隊長を連れて戻ってきた。

 多分俺のぼやきは聞かれた。その証拠に俺に向けて蔑んだ眼を向けてきた。

「お待たせしました。私がこの商隊を率いるクランネルだ」

「探索者アフェクトだ」

「探索者デュータだ」

 二人もクランネルの不躾な態度に不満を持ったようで対応がちょっとキツイ。それに二人が名乗ったあとも名乗らなかった俺とは視線を合わさない。完全に無視されている。俺、コイツ嫌い。


 結局、この依頼は報酬額上乗せで継続することになった。

 それに明らかに探索者を下に見ているのがわかる態度が気に障った。ルビー(A)等級のアフェクトでさえ軽んじられている雰囲気が見えた。

 それはエイシャ達にも伝わっていたみたいで、俺とアフェクトが彼女達の元へ戻った時にはアフェクトを気遣った言葉をかけてきた。

「アフェクト大丈夫? 私、アイツ、嫌い」

「エイシャ、片言になってる……」

「ん、気をつける」


 出発まで僅かな時間の間にさっきの話を皆んなで共有することにした。

「報酬額上乗せで依頼は継続になった」

「増員は?」

「増員は無し。今の人数で対応することになる」

「向こうから警護に出せる人員はいるの?」

 フルフルとアフェクトは首を振る。

「増員はないよ」

「組合に行って依頼を断る?」

「その場合どうなる?」

「依頼内容の相違だから査定には響かないだろうけど、判断は組合任せかな」

「どうする、このまま受けるか?」

「デュータさんはどうするって?」

「向こうも話し合うって言ってたよ」

「因みに上乗せ額は?」

「二割」

「ん、「「断ろう」」割に合わない」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 アフェクト、デュータさん、俺で再び商隊長の元を訪れた。

 ここでも矢面に立ってもらうのは等級の関係でアフェクト。少し悪い気がするけどこういうのは等級の高さが意味を持ってくる。

 あとで美味いものでも振る舞って労おう。


「今回の依頼、報酬とリスクの釣り合いが取れません。ですので、断らせて頂きます」

「組合には直前で依頼をキャンセルされたと報告させてもらう」

「そっちが提示してきた依頼内容と相違があったことをこちらも報告させてもらう」

 カチンときた。

 反射的に口をついて出た言葉だったけど、挟まなくていい口を挟んだと、言ったあとで気がついた。


 この商隊の移動日程が変わることになっても俺達、探索者は無理をするわけにはいかない。それは自分達だけでなく護衛対象も危険に晒すことになるからだ。

 お金のことだけが原因じゃないよ。

 それも無いとは言わんが、皆んなの安全が最優先だ。

「それじゃあ、俺達はこれで失礼します」

「お、おい、待て!」


 引き留めるように商隊長に声をかけられたが、それに従うことはしない。

 アフェクトの手を引いて振り返ることなく皆んなの元に戻ってその足で探索者組合に向かいった。この顛末を伝えるためだ。


 組合長からは相手側の話を聞いた上で適切な人員数で再募集をかけることになるだろうというように言われて、顔を合わさないようにさっさと帰ってろと忠告された。

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