第51話

 探索者組合からの帰り道に明日からの護衛依頼で必要になりそうなものを調達することにした。エイシャと依頼を受けていた時に比べたら人数も増えたことだし。


「人目を考えると収納魔術を大っぴらに使うのはマズイかな?」

「アフェクトも持っていたんだから、等級が高い人の中には持ってる人もいるんじゃないの?」

「いないことはないだろうが、数は圧倒的に少ないぞ」

「そうなんだ」

「ああ、だからこそ探索者はこういうものを持っていることは秘匿しているのかも知れない。それに商人なら目の色を変えて欲しがるだろうな」


 そういう話を聞くと商魂逞しく稼いでやろうと考えてしまう。やり過ぎると怪しまれるから程々にしないとだけど。

 そういうわけで食料やら消耗品なんかを色々と調達する合間に、しっかりとした作りの中古のバッグを二つ購入。


 家に帰って早速その二つのバッグに付与をほどこした。

 容量的には一般的な背嚢はいのうより少し少ない二十リットル程度のものと倍の四十リットル程度の容量で使用者制限、状態保存はなしのただの便利なバッグ。

 大きい方に食料を入れて存在をアピールすれば商人が食いついて来るだろうという算段だ。

 因みに大きい方の容量でもオークションに出品したあのポーチよりは少ない。身の回り品と一週間の水と食料はやっぱり馬鹿にならない量なのだ。まあ、いまアフェクトが身につけているバッグの方が圧倒的に容量は多いけど。


 こうして俺が明日の準備をあらかた終えたところにお風呂掃除を済ませたミドヴィスがリビングへ戻ってきたから入れ替わるように俺は水を張りにいく。

「先に水を張っておくから、後で沸かしてくれるエイシャ?」

「ん、わかった」

「あ、私、レオが水を貯めるとこ見てみたい」

「ん? いいけど。面白いもんじゃないよ」

「いいから、いいから♪」

 何故か唯奈ゆいな里依紗りいさ、それにアフェクトまで風呂場についてきた。

「それじゃあ、貯めるよ」

「は〜い♪」

「「うん」」

 ワクワクとした返事を返してきたアフェクトには悪いけど、本当にそんなに楽しいもんじゃないと思うんだよね。

「よっと」

「「「えっ!?」」」

 何度も水を張っているので必要な量は把握している。その量の水の塊が風呂桶の中に現れ、次の瞬間には形を崩してちゃぷんという音と共に浴槽を満たす。

 もうちょっと上手いことやれば水音がしないようにできるかな? 今度やってみよ。


「なっ、面白いもんじゃないだろ」

「い、いやいや、何あれ、どれだけの魔力使ってるの!? そもそも、魔力切れにならないの!?」

「ん? 平気だけど」

「えっ、嘘……」

「さ、戻って夕飯の準備しないとな」


 三人を促してリビングに戻ったところで「どうだった?」とエイシャが三人に問いかけてきた。

「うん、凄かった…… レオはなんでで平気なの……」

「ん、レオだから」

「それで済むんだ……」

 呆れた声を漏らした里依紗りいさとエイシャはキッチンに向かう俺を追いかけてきた。


 今日のメインはます(に似た魚)。本当はサーモンが欲しいところだけどないものは仕方が無い。深底の鍋を手に入れたからには煮物も作りたい。

「なに作るの?」

「鮭とトマトのワイン煮。鮭じゃないけど」

「手伝うよ」

「じゃあ、玉葱と大蒜にんにくをスライスして、トマトは小振りだからそのままでいいよ」

「ん、私はなにしようか?」

「エイシャは葉物野菜と燻製肉でサンドイッチ作って」

「ん、わかった」


 里依紗りいさとエイシャに指示を出しながら俺は人数分の魚を三枚におろしていく。こっちの人は魚を食べる習慣が殆ど無いかもしれないから小骨に至るまできっちり取り除き、そのアラで出汁を取る。

里依紗りいさ、お塩とって」

「は〜い」

「ねえ、どうしてエンリのことをリイサって呼んでるの?」

「「あっ」!」

 そういえばまだ唯奈ゆいな里依紗りいさのことはアフェクトに話して無かった。まあ、丁度いいか。

 二人に目配せをしてからアフェクトに「夕飯のあとで話すよ」と告げる。


 初めての煮込み料理はエイシャ、ミドヴィス、アフェクトの口にも合ったようで三人は良かった。夕飯と一緒にワインも飲んでいて、今はワインの残りと一緒に林檎(のような果物)をスライスしたものの上にチーズを乗せて頬張っている。大変満足そうにリビングで寛いでいる。


「そろそろ、お風呂沸かしてこようか?」

 そう告げて里依紗りいさが席を立つ。

「ん、私が行く」

「私、洗い物してきます」

 結局、エイシャがお風呂を沸かしに行ってミドヴィスが食器を洗いに席を立ったことで俺達召喚者三人とアフェクトの四人が取り残された。

「え〜と、最初に俺達三人のことから話すな」

「はい、お願いします」


 それから俺達がルゥビスに召喚されたこと。

 二人が勇者と聖女と呼ばれ、俺は無価値として放り出されたあと、二人に保護、扶養されていたこと。

 探索者組合で知識や技術を身につけて探索者として活動を始めたこと。

 大雨が降ったあの日ジェドで滑落してアンディグまで流されてエイシャに助けられたこと。

 そして二人が俺を探してここまで来たこと。

 エイシャの提案により二人も俺の奥さんになったこと。

 ルゥビスからの捜索があった場合を考えて擬態の魔術を付与したアクセサリーを身につけていることを話した。


 途中で口を挟むことなく最後まで話を聞いていたアフェクトは「大体の事情はわかった。拠点を求めている理由も納得がいった」と告げたあとで里依紗りいさに向かって「だけど、聖女が双剣使いってどうなの!?」とテーブルに手をついて身を乗り出し言ってきた。うん、その意見はわかります。

「聖女だからって、包丁もナイフだって日常的に使うわよ」

 あっけらかんと答える里依紗りいさだった。

「お風呂沸いた」

 そして空気を読まないエイシャの言葉にアフェクトはガクッと手の力が抜けたようだった。

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