第50話
翌日には昨日の雨はすっかりあがって朝日が差し込んでいた。
明日はアンクロまでの護衛依頼に出る予定だから天気が回復してくれるのはありがたい。
それで、今日はミドヴィスの装備を受け取りに鍛治師組合に向かっている。向かっているんだけど、道行く人の視線が突き刺さる。
「流石に目立つなぁ」
「そうだね、六人だもんね」
「ん、アフェクトも加わって目立ってる」
「それ、私だけじゃ無いわよ…… レオはこの子達を見てどう思う?」
「うん? どうっていうのは客観的に見てのことか?」
「そう、それ」
「そういうことなら、皆んなそれぞれに違った良さがある美人だな。もちろん、アフェクトも含めてな」
「ん、美人」
「あ、ありがとう。面と向かって言われると、照れるわ」
「改めて言われると照れる……」
「ふしゅぅ……」
「あ、ああ、ありふぁとう、ございましゅ……」
俺の言葉に照れた五人、周りから俺に向けられる視線がキツくなる。
「あんまり往来で睦み合ってると、
「そうだな。本当に視線が刺さりそうだよ」
「私達で
「SPみたいに周りを囲む?」
「要人警護の要領だな」
「私はどの位置につけばいいですか?」
「いやいや、冗談だからね」
「「「「あはははっ」」」」
自分たちが目立つ集団だということを自覚するはめになったけどこういう緩い感じは嫌いじゃない。楽しくていいじゃない?
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
「なかなか面白い仕事じゃった」
鍛治師組合を訪れた俺たちを待っていたのは仕事を楽しめたというドワーフの言葉だった。この人はグランさん。
アフェクトに聞いた話だと鍛治師組合では結構古株の人で最近は後進の指導に力を入れているみたいだ。
いま俺達は組合の裏手にある空き地に回ってきていて、ミドヴィスが装備の使い勝手を確認しているところだった。相手を務めるのはドワーフの鍛治師(弟子)。ドワーフさんは木剣を使用しているけど次第に熱が入ってきて盾に打ち付けられる木剣の音が大きくなっていた。
「グランさん、彼は探索者をしていたのですか?」
「ん? ああ、自分で採取に行くこともある。それに武具の扱いに精通する意味も兼ねているからの」
「成程」
「ん、ドワーフの探索者は前衛として優秀。時々、採掘が優先になるけど」
「ガハハっ、希少な鉱石には勝てんわ」
「ん、だから鉱石の出るところには、同行しない」
「なにかあった?」
「昔、少しだけ」
「聞かない方がいい?」
「ん、ドワーフのためにも」
「まあ、そんな奴ばかりじゃ無いから許してくれ」
「あ、ははっ……」
一際大きくガンという音が響く。そちらに目を向けると大きく体勢を崩したミドヴィスがドワーフの木剣を盾で受け止めていて彼女の繰り出した湾刀をドワーフが籠手で受け止めているところだった。
「終わりにしましょうか?」
「はい、ありがとうございました」
ミドヴィスが俺達の元へ戻ってきたところでグランさんは幾つか質問して、装備を持って工房に移動して行った。
細かな調整を終えた装備をミドヴィスに渡すと再びドワーフと手合わせを始める。こういった細かな調整をしてくれるのは有り難い。
「湾刀は刀身の形状が形状なだけにバランスが取り難いが面白いのぉ」
「ありがとうございます。グランさん」
「俺も楽しんでやってることじゃ」
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
武具を受け取ったあとは探索者組合に向かってあのポーチをオークションに出品することに。
当然そんな希少で高額な出品物の査定をエルネスさんだけで行えるわけもなくて、組合長の執務室まで通された。
組合長の鑑定を経た結果、組合側から提示された最低落札価格は俺の想定を遥かに超えたもので、管理組合で出された今住んでいるエイシャの家を購入、建て替えの概算に少し足らない程の金額だった。
相場が分からない俺達はアフェクトに意見を伺う。
「その金額なら妥当だと思うわ」
「じゃあ、その金額でお願いしようか?」
「ん、異論はない」
「「私も」」
「はい」
「しかし、探索者ならこういう物は手元に置いておきたい物じゃないのか?」
至極もっともな組合長の意見に「パーティホームの購入資金にしようと思ってるんですよ」と返答を返す。
それから少し雑談を交わしていると組合長は訝しげな視線を俺に向けて「エイシャだけに飽きたらずアフェクトも籠絡したか」と不躾な言葉を溢した。その物言いにカチンときて反論するよりも先にエイシャが「ん、レオはとても魅力的、そのポーチなんかよりずっと、ね」と逆に挑発するように言葉を返した。
「そうね、比べようがないわ」
「私たちだけが
二人の奥さんも擁護してくれている。若干聞き捨てならない言葉が混じっていた気がするが。
「アフェクト、お前もか?」
「いや、まあ、その…… 魅力的な男性だと思う……」
「ん、四人目」
そこっ、不穏な発言をしない!
呆れた組合長に執務室から追い出されて扉が始まる前に背後から「オークションは来月の頭だ」と声を投げかけられた。
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