第24話

 翌朝、里依紗りいさの体調も回復したんだけど、大事をとって彼女にはお粥のような穀物のスープを出して、俺達は魚の塩焼きと簡単なサラダとスープ。包み焼きに使う野菜のストックが切れかけていたから仕方がない。

 朝食を食べてから今日の予定を話し合う。

里依紗りいさは休んでて、ミドヴィスは護衛。他はジャオジュオンの採取」

「私なら大丈夫だよ」

「明日、町まで歩くことになるから、今日は休んでて」

 里依紗りいさは頬を膨らませて不満を表すけど、俺も譲るつもりは無い。

「運良く馬車が通るとも限らないんだからしっかり休んで、ね」

「……うん、わかった」

 何もしないことへの罪悪感を抱いているのかもしれないけど気にしなくていい。と言っても納得しないだろうから、馬車が通らなかった時のことを考えて体調を整えてほしい旨を皆んなの前で伝えておくことにした。

「昼前には帰ってくるようにするから」

 そう言い残して俺達は採取に向かった。


 採取の間も里依紗りいさのことは気になったけど、それを気にして作業が遅くなると後々辛つらい思いをさせると気を取り直して採取に集中した。今日の採取地点は昨日の場所のような食害はなかったから順調に採取が進む。

「この調子でいけば午前中で採取が終わるかな」

「そうね」

「私も要領が掴めてきたみたいだしね。里依紗りいさのためにも早く採取を済ませないとね」


 俺とエイシャは蔓ごとどんどんバッグに回収していく。蔓と葉の分別はあとで行うことにしたのも大きかったと思うけど、本当に午前中に必要量が採取できた。

 俺達が野営地に戻った時には里依紗りいさはジャオジュオンの蔓で籠を編んでいた。

「あ、おかえり」

「ただいま。なに作ってるの?」

「籠、採取する時にあれば便利かなと思って」

「そうだね、これもエイシャが編んだものだしね」

「そうなの?」

「そうよ、ユイナも編む?」

「私はそういうのはちょっと……」

唯奈ゆいなはこういうの苦手だよね」

 俺がそう言うと小さな声で「うっさい」と返してきた。

「採取の方は十分な量が採れたと思うから午後はのんびりしようか」

「いいの、早く帰らなくて?」

「急ぎの依頼じゃないから大丈夫」


 実際、この依頼は達成期限に十分な余裕があったし、二人でのんびりこなすつもりだった。それが三人が合流したことで想定外に早く終わった。

 人数が増えた分、食料の消費量は膨らんだけどね。


「じゃあ、お昼にしようか?」

「はいっ! お肉が食べたいです!」

 またお粥にされるのが嫌だったのか里依紗りいさからリクエストが出た。

「皆んな、それでいい?」

「いいよ」

「ん」

「はい」


 そういうわけで、サングニエルのお肉を焼く。

 午前中の採取の合間に採った山菜の中からアク抜きの必要がないものを見繕ってエイシャがサラダを作って、唯奈ゆいなとミドヴィスは近くで薪拾い。里依紗りいさには大蒜にんにくを細かく刻んでもらうことにした。


「そろそろ牛か鳥の肉が食べたいな……」

 この世界に来てまだ牛(に似た獣を含む)を見てない。あと養鶏場も無いから卵の流通も不安定で高価なんだよなあ。この世界で多く流通しているのは野良鶏(?)正確には鶏の特徴とも言える鶏冠は無くて代わりに立派な冠羽かんうがあった。確か名前はプレだったかな。


 いい匂いが漂い始めたところで皆んなが集まってきた。

「いいタイミングで帰ってきたな」

「あれだけ良い匂いがしてきたらしょうがないよ」

「それは同意だね。私も朝がお粥だったから余計に、ね」

「ん、それだけ元気なら明日は安心」

「じゃあ、ご飯にしようか。いただきます」

「「「「いただきます」」」」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 昼食後はそれぞれに寛いで明日の帰還に備えることにした。

 俺が「魚を獲りにいく」と言ったら結局、全員で川にいくことになったけど。

 川原に着いたところで唯奈ゆいなが「ガチンコ漁?」と聞いてきたけど、この辺りはガチンコ漁に向いた川じゃない。それにガチンコ漁だと小さな魚まで死なせることがある。(多くの河川で禁止された原始漁法の一種)


「まあ、見てて」

 そう言って俺はやなの基礎を組んでいく。見る見るうちに組み上がるそれを見て三人はポカンとしているがお構いなしにやなを組み上げる。

 やなが出来上がるといつの間にか上流にまわっていたエイシャが「もういい〜」と叫んできた。

「いつでもいいぞ!」

 俺が叫び返すとエイシャは川に飛び込んでバシャバシャと大きな水飛沫をあげる。その頃になって二人は仕掛けの意図に気がついたらしく、ミドヴィスの手を引いて上流に向かって走る。四人は横並びになってやなへと魚を追い込んで来る。

 川幅を狭めて速さを増した水流は放っておいても魚がかかることがある。それを四人で追い立てているのだから、この前よりも多くの魚がやなの上で跳ね回っている。俺はそれを片っ端から選別、持って帰る分は次々と締めてまわる。


 この魚はアンディグに帰ってから露店で売ってみようかと思って獲っている。そう考えたきっかけはエイシャのあの提案。

 一手間かけることで価値が上がるということを広めるためだ。

 まあ、若干ズルはあるのだが、そのくらいの方が違いを実感出来るだろうという思いもあった。

 五人でも結構な時間がかかる程に大量の魚を締めた。


 あの鱒に似た身を持つ魚も結構獲れたから、夕飯の準備までの間にキノコなんかも採りに行った。

 そう、夕飯は鱒(?)の包み焼きにする予定。エイシャの背嚢はいのうに入れてあったバターを見つけたから、どうしても試してみたくなったのだ。


 包んでいた葉を開けた途端にバターの香りが広がって食欲を刺激した。皆んな無心で食べていた。これだけ旨そうに食べてくれると作り甲斐があるというものだ。

 その光景が俺をほっこりとした気持ちにさせた。

「レオ、嬉しそう」

「ん、ああ、こういうのいいなぁって思ってな」

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