第22話

◇◆ ◇◆ 礼央れお Side. ◇◆ ◇◆


 俺と里依紗りいさは野営地から街道方向に移動していた。昨日ここへ来る迄の間にもいくつか目的の薬草はあったからそれらを採取していく。

 最初に採取するのはロホドデンドロンという樹木の葉。薬草として括られているのに樹木の葉とはこれ如何にって馬鹿なことを言ってないで説明しないとな。

「最初はここに群生しているロホドデンドロン。石楠花しゃくなげに似ているけどこいつは低地でも自生する常緑低木、大きくても二メートルを超えることはなくて、葉長が十センチから十二センチのものを採取するんだ。これより小さくても大きくても駄目らしい」

「このくらいのは大丈夫?」

 そう言って指差した葉は八センチ程の物だった。まあ、普段から意識してないと目視で大きさの判断は難しいか。

「これ使って」

 探索者組合に顔を出していた時に使っていた物をこっちでも用意した補助具。単純に細い木の先端に突起を作り、そこから十センチと十二センチの間を食紅で染めただけの物。因みに俺の中指の長さが大体十二センチ。

「この赤い印の間に入る物が採取対象、葉の根元をこうやって親指と人差し指で摘んで捻ると」プツっと小気味良い音を立てて葉が枝から離れる。

「こうやって簡単に採れる。やってみて」

「うん、『プツ』これでいい?」

「ん、大丈夫。じゃあこの辺のを採っていこうか」

「うん」

 特に難しいこともない初心者にも出来る採取作業を二人でこなしながらどちらからとなく雑談を始める。その雑談も途切れたところで里依紗りいさが聞きにくそうに口籠もる。

「あ、あ〜、あの、礼央れおくんは、その、エイシャさんと、その、もう、の?」

「ん、なにを?」

「えっ、ええ〜〜!? それを、私に聞くのぉ!?」

「だから、なにを?」

「あの、その、セ、というか、夫婦の、営み……」

「夫婦の、営み…… っ!? してない、まだ、してない!!」

「よかった、まだなんだ…… ふっ、ふふっ」

 急に機嫌が良くなったけどそっとしておこう。


 午前中に採取出来たロホドデンドロンの葉は籠の三分の一程の量とチョット採り過ぎた。

 太陽が頂点に差し掛かる前に俺達は野営地に戻ることにした。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 野営地に戻った時には他の皆んなはまだ戻って来てなかったから、先に昼食の準備を始める。


 朝は魚だったから昼はお肉。ネックの部位(所謂いわゆる豚トロ)を使って塩胡椒で味を整える。焼いているうちに出てきた脂で野菜と細切れ肉を炒めるとたちまち野営地に立ち込める旨そうな匂いと食欲を刺激するジュージューという音。

 それに負けないくらいのグギュル〜〜、ドサッという音。またミドヴィスのお腹が鳴ったのかと思って音のした方を向けば唯奈ゆいなが両手で顔を覆っていた。

「恥ずかしい……」

 唯奈ゆいなの呟きはお肉の焼けるジュージューという音に掻き消された。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 昼食後は午前中の報告をしてから皆んなで薬草採取をすることになった。

 驚いたことに午前中のうちにライパンを三十匹狩ったというのだ。


「ライパンってあんな所に巣を作るんだな」

「確か、窪地に枝を集めるんだっけ?」

「ん、でも今回のは多過ぎた。一箇所にあれだけ居るとは思わなかった」

「そんなに?」

「私が見たことのあるライパンの巣は一箇所で多くても四から五組だった」

「ん、ユイナが言うように何箇所かまわるつもりだった。けど、一箇所で必要な数が揃った」

「何か異常発生の原因がありそうだね。それも一緒に報告しようか」

「ん、必要と判断したら調査依頼が出る。町からも離れているから畑に食害も出ないと思う」

礼央れお里依紗りいさの方はどうだった?」

「こっちはロホドデンドロンの採取が終わったよ」

「思ったよりも簡単で採り過ぎちゃった」

 ぺろっと舌を出して里依紗りいさが戯けているとエイシャからも質問が出る。

「リイサ、レオとは進展があった?」

「んっ!?」

「えっ!?」

「な、なにを、言ってるのかな!?」

 思いもしなかった質問に里依紗りいさがワタワタと慌てて手を振る。

 俺と唯奈ゆいなは驚きのあまりあいた口が塞がらないままでいた。

「ん、レオと二人にしてあげたのに何も無かったの?」

「……なかった」

 残念なものを見るような顔で里依紗りいさを見るのはやめてあげてっ!

「エイシャは俺と里依紗リイサに何かあってもいいの?」

「ん、口づけなら私もしてるし、二人も奥さんになるなら、それくらいはいいんじゃない?」

「そ、そうね、お嫁さんなら、キスくらいしても当然ね」

 俺とエイシャの会話に唯奈ゆいなも加わる。その間も里依紗りいさは顔を真っ赤にして口をぱくぱくしていた。

「レオ、キスってなに?」

「ああ、俺達のところでは口づけのことをキスとか接吻て言うんだよ」

「そうなの。キス…… 接吻…… ん、覚えた」

 ニコッといい笑顔を見せてくれるエイシャの頭を撫でる。

「んむぅ、子供扱い……」

「ごめんごめん」

 お気に召さなかったようなので謝っておく。

「そういうのは、二人だけの時……」

 呟いた言葉は俺以外には聞こえていないはず。

「じゃあ、私が礼央れおとキスしてもおかしくないよね」

「ん、そうね」

 恥ずかし気に俺の方に目を向けてきた唯奈ゆいなだけど、ちょっと待って欲しい。

「いや、この流れでキスはしないよ。雰囲気ないじゃない」

 ガーンとショックを受けたような表情になったけど、そろそろ休憩は終わりにしないと採取時間が取れない。


「は〜い、そろそろ採取に行くよ」

「ん、二人とも気を取りなおす」

「「は〜い……」」

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