第21話

 ミドヴィスのお腹の音と朝食のおかげで今朝のことは有耶無耶にできたと思う。というか思いたい。


 片付けを皆んなでさっさと済ませて、昨晩掘った堀も埋めたところで今日の予定を共有することにした。昨日はそういうミーティング的な話しをすることが出来なかったから今こうして時間を取っている。

「俺とエイシャが探索者をしていることは昨日話した通りなんだけど、依頼の内容までは言ってなかったよね」

 二人は頷いて先を促す。


「今、受けている依頼は二件。ライパンの肉を集めるのと薬草採取」

 スッと挙手して里依紗りいさが確認してくる。

「ライパンは何体? それに薬草もどのくらい必要なの?」

「うん、ライパンは三十匹、薬草はこの籠一杯」

「三十…… それにこの籠、結構大きいよ」

「ん、ライパンはこの先に何箇所か群集地がある。そこで狩る予定」

「薬草は強壮、鎮痛、解熱、止血それぞれに使う予定の物を集めるから見つけたら説明するよ」

「ん、レオ。人数も増えたから二手に別れない?」

「その方が早いかな?」

「それは、どう分けるの?」

「ライパンは私、ユイナ、ミドヴィス。薬草はレオ、リイサ。これでどう?」

「その分け方は危険じゃないかな」

 唯奈ゆいなはもしもの時のことを考えて異を唱えた。


「私は大丈夫だと思うけど」

「えっ!?」と驚きを露わにして唯奈ゆいな里依紗りいさを見る。

「私だってそれなりに対処できるよ」

 実際、里依紗りいさ唯奈ゆいなと一緒にそれなりに危険なことにも対応してきた。普段はバックアップをすることが多いけど、こんな浅い森にいる獣にそうそう遅れをとることはないという自信もあったのかも知れない。

「ユイナ、そんなに心配なら昼からリイサと交代するようにすれば?」

「んん〜、仕方ない、それで手を打つわ」

「ん、レオはリイサに薬草採取を教えてあげて。ユイナとミドヴィスは私と一緒にライパンを狩る」

 役割分担を終えた俺達はそれぞれの担当する依頼に向けて動き始めた。


◇◆ ◇◆ エイシャ Side. ◇◆ ◇◆


 野営場所を起点にして街道側に薬草採取に向かった礼央れお里依紗りいさの姿が見えなくなったところで唯奈ゆいなはエイシャに詰め寄った。


「エイシャ、さん。礼央れおのこと、どう思ってるの?」

はいらない。私もユイナって呼んでる」

 そう言ってエイシャはユイナと視線を合わせる。こうやって視線を合わせているとユイナの気持ちが少しだけ伝わってくる。ゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。

「ユイナはレオを私にとられたって考えてる? レオが助けられたことを恩に感じてエイシャと一緒にいる。そう考えてる?」

「っ、違うの!? だって、今まで一緒にいた唯奈里依紗りいさの気持ちにも気がつかなかったのに…… それなのに、それなのに……」

 悔しそうとも受け取れるような表情をエイシャに向けて、感情のままに口をついて出た言葉は力無く途切れ、ユイナは俯いてしまった。

「ユイナがエイシャをどう思っていてもいいけど、エイシャはレオを無理やり縛り付けたりしてない。レオがエイシャと一緒にいるのはレオが選んだこと。それにユイナはレオに向けてその気持ちをちゃんと口にした?」

「……ううん、できなかった。口にして、関係が壊れることが怖くて言えなかった……」

「レオが心配で言ったことだと思うからエイシャは今の話、悪くは捉えてない。これから一緒に暮らしていくんだから、もっとユイナのことを教えて。だから、これからよろしく」

「……うん。わかった、よろしく、エイシャ」

「ん、それじゃあ行こうか? ミドヴィスも今のこと、言わないでね」

「は、はい!」


 エイシャとユイナはお互いが知っているレオのことを教え合うことを約束してライパンを狩りに向かった。

 ユイナとミドヴィスはライパンをどうやって狩るのか知らないようだったので、簡単に説明しておくことにした。

「ライパンは基本的に夜行性、今の時間帯は巣穴に戻っているはず。巣穴の見つけ方はあとで教えるけど、巣穴にこの『眠りの吐息』(小瓶に入った液体ですぐに気化する)を垂らして眠ったところを狩っていく。小さな個体や必要以上の数は狩らないで。もし、巣穴に『眠りの吐息』を垂らし終わる前に起きている個体を見つけたら鳴く前に仕留めて」

「鳴かれるとどうなる?」

「眠っていたライパンが起き出して逃走する。そうしたら他のところに行かないといけないから非効率」

「そうなると、弓かナイフがあった方がいいのか?」

「なければ、石でも投げる」

「またまた、そんな冗談を…… えっ、本気?」

「ん、エイシャはこれ使うけど」

 コクリと頷いたあと背嚢はいのうから小弓を取り出してユイナに見せる。

 一般的な弓よりは小さいけど取り回しを重視したサイズのものだ。

「じゃあ、起きてるライパンの対応はエイシャに任せた。唯奈とミドヴィスは周囲の警戒でいいかな?」

「ん、それが妥当」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 結局、起きているライパンと遭遇することはなかったのでエイシャの弓の腕前を披露することはなかったんだけど、昨日、遭遇したことを考えたらもう少し起きてる個体がいてもおかしく無いと思ったんだけど。


 そして、エイシャが知っている群生地に着いたところで目を疑った。普通なら巣穴は外敵に見つからないような場所につくられるか、周辺の枝や草で覆われる形で隠されている。

 それなのに目の前には雑に隠された(いくつか隠されていないものもある)巣穴がいくつもあって、その中のいくつかは目を凝らして見れば奥にライパンの姿が確認できた。

「本当は茂みの影とか枝や草で隠されてるはずなんだけど……」

「あはは…… それじゃあ唯奈とミドヴィスに『眠りの吐息』の使い方を教えて」

「お、お願いします」

「ん、わかった。見てて」

 小声で打ち合わせをして足音を殺して一番手前の巣穴に近づいていく。


 やることは簡単だった。小瓶の封を開けて三滴巣穴の中に垂らす。そうするとすぐに液体は気化してライパンは目を覚さない。そこを引っ張り出して脚を縛ったら捕獲完了。

 奥の方にいるライパンは木の先に輪っかを作って、それを脚にかけて引っ張り出すようにしている。

 この道具はレオが『カニを獲るひっこくりの方がいいんじゃないかな』と言って輪っかを絞れるようにしてくれたものを使っている。これは予備を含めていくつか持って来ているのでユイナとミドヴィスにも『眠りの吐息』の入った小瓶と一緒に渡して狩りを開始した。

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