第20話

 翌朝、俺とエイシャが目を覚ました時には唯奈ゆいな里依紗りいさの二人が背中合わせで座ったまま眠っていた。

 エイシャは俺の腕を枕にして眠っていたのだけど、魔力も十分に回復したみたいで疲労は見えない。


 エイシャは綺麗な顔を近づけてきて、俺達は唇を触れ合わして挨拶を交わす。

「おはよ」

「んっ、おはよう」

 もう一度唇を触れ合わせたところで、起きていたミドヴィスから声をかけられた。


「おはようございます。レオ様、エイシャ様」

「おはよう」

「ん、おはよう」

「もしかしてミドヴィスは一晩中起きてた?」

「いえ、夜半まではご主人様方に休むように言われていましたので」

「じゃあ、ちゃんと寝たんだね」

「はい、眠りました」

「ならいいか」

「レオ、心配しすぎ」

「そうかな?」

「そうだよ」

「そうですね」

 単純に寝不足だと疲労も取れず、作業効率が下がるということを経験しているからこそ出た言葉なんだけどな……


「朝飯、準備しようか」

「ん、朝は魚がいい」

「了解、塩焼き? 包み焼き?」

「ん〜、両方?」

「じゃあ、サラダ任せていい?」

「ん、任された」

「あ、あの、私は何を……」

「ああ〜っと」

「ん、夜の見張りしてたんだから休んでいていい。それでいい? レオ」

「そうだね」

「えっ!? でも、私は奴隷です」

「別にいいんじゃない? 俺の奴隷じゃないし、ご主人様はまだ寝てるしね」

「ん、この後、働いてもらうから、今は、休む」

「はい……」


 昨晩、試しに掘った穴を利用して包み焼きを人数分用意する。作ってた簡易竈だと一度に調理できないから丁度良かった。

 ある程度準備ができたところで唯奈ゆいな里依紗りいさを起こす。

 唯奈ゆいなは寝顔を見られたことに照れて「ふにゃぁっ!?」と叫び声をあげてまだ寝ぼけて「うにゅうにゅ」言っていた里依紗りいさの腕を引っ張って川の方へ走って行った。

 俺はその背中に「すぐに朝飯できるぞ」と声をかけた。


「照れちゃって初心うぶなんだ、ユイナ」

「でも、そこが可愛くない?」

「ん、仕方がないからお姉さんがしっかり教えてあげようかな?」

 エイシャは唇の端を少しだけあげて蠱惑的な笑みを浮かべている。けど、これ絶対変なこと考えてるよなあ。

「因みに、何を教えてあげるの?」

「ん、レオとお風呂に入った時のこと」

「ん、んんっ!? それはやめよう、俺にも被害がでるからな!」

「ん、そう? あの二人なら、いい反応が返って来そうなんだけど」

「それ、楽しんでる?」

「ん、楽しんでる」

 そう言って浮かべた笑顔は心底楽しそうだった。


 そんなコントじみた会話を交わしながらも朝食の準備は順調に終わり、二人が戻って来るのを待つ。こういう時に状態変化が起きないバッグは便利だな。

「なあエイシャ」

「ん?」

「このバッグみたいにこんなのあったら便利っていうような物、何か思いつかない?」

「ん〜〜っ、すぐには思いつかない。何か思いついたら言う」

「ああ、そうしてくれ」

「ん、それより、今日はライパンを狩りに行くでしょ?」

「ああ、そうだな」

「考えたんだけど、今回は今まで通り普通に仕留めて組合の方に提出しない?」

「もしかして、それに追加して昨日処理した分を出すつもりか?」

「ん、そう。そうすれば違いを実感出来るから、指名依頼も受けやすくなる。この先、この五人で暮らすとすれば稼ぎは多い方がいい。でも、のんびりする時間も欲しい」

「付加価値を付けたいわけだな」

「そう、最初は私達だけ。でも、採取する物にこうして付加価値を付けることが普通になれば、町のためにもなる。はず」

「もしかしてだけどエイシャは素材の良さを活かして町おこしをしたいのかな?」

「町おこしがどういう意味かわからないけど、他と違うところがあれば人が訪れるようになるかも。私がするのは手助け。あとは町の人次第」

「まあ、そうだね。全部俺達が手を貸す必要はないな」

「ん、気づいた人からやってくれたらいい」

「まあ、出来ることからやっていこうか」

「ん、町が賑わえば私達のためにもなる」

「色々考えてくれているんだな。頼りにしてるよ」


 つい、エイシャの頭を撫でてしまって、子供扱いされたと怒るかと思ったのだが返って来た反応は違っていた。

「ん、もっと撫でる」

「可愛いな、もうっ」

 撫でる代わりにギュッと抱きしめてしまった。


「あ、ああ…… あ、朝からなにしてるのっ!!」

「あ〜っ! なに、羨ましいことしてるのぉ!!」

「「えっ!?」」


 振り返ったそこには思い思いのことを叫んでお互いの顔を見合わす唯奈ゆいな里依紗りいさがいた。

「ん、二人もこっちに来る?」

 二人に対してこっちに来いとエイシャが告げたその時、いつの間にか起き出して来ていたミドヴィスのお腹がグギュル〜〜と大きな音を立てて鳴った。


「そ、それよりも、朝食にしないか?」

 うずくまり真っ赤な顔を両手で隠す彼女の耳が項垂れてペタンと倒れていた。あの耳、感情に合わせて動くのかな? 面白いな。

 今度、触らせてくれないかなぁ。


 俺のそんな考えは三人に筒抜けだったみたいでエイシャには強く抱きつかれて耳元で「ミドヴィスみたいなが好きなの? 私達だけで満足できない?」なんて囁かれると背筋にゾクゾクしたものを感じる。

 そんな俺達を見て唯奈ゆいな里依紗りいさがにじり寄って来た。

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