第19話

◇◆ ◇◆ ミドヴィス Side. ◇◆ ◇◆


 ご主人様の探し人が見つかって良かった。

 けど、これでアタシの仕事もおしまい。これまでの奴隷生活の中でもすごく待遇が良くて恵まれていたこの生活も終わるんだ……


 ご主人様達は今、四人で話し合い。

 その間、アタシは周囲の警戒をしているの。

 夜になって、このひらけた野営場所の周囲、茂みまでは獣が近づいて来ている。様子を窺っているだけで襲ってくる様子は見えないけど。

 臭いからライパンが多数、それにサングニエルが三頭。


「さっきのサングニエルのお肉、美味しかったなぁ……」

 気がつくと緩んだ口元から涎が一筋。じゅるりと音を立てて涎を啜る。

「また、食べたいなぁ」


 お役御免となった奴隷がこのまま一緒にいられる筈がない。いつもそうだった。性的なご奉仕をすることを受け入れていないアタシは役割が終わればまた別のご主人様に選ばれるまで商館で過ごすことになる。

 性的ご奉仕を受け入れている奴隷の中には役割を終えた後もご主人様の元に居続けることがあるという話は聞いたことがある。

 十二の時に奴隷になったアタシの労役は十年。今、アタシは十四だからあと八年は奴隷生活を送ることになる。


 そんなことを考えていたら、ガサっと音を立てて茂みが揺れる。

 そっちにいたのは確かサングニエルだった筈。無闇に人に近づかない筈の獣が近づいて来たことに警戒心を高める。

 ゴクリ、アタシの喉が鳴るのと同時に茂みから出て来たのは小さなサングニエルだった。

 アタシはサングニエルを刺激しないように、でもご主人様に聞こえるくらいの声量で声をあげた。


「ご主人様、サングニエルの子供です!」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ミドヴィスの押し殺した叫びに唯奈ゆいな里依紗りいさはキョトンとした表情を浮かべてそちらに視線を送る。

 そこには小さなサングニエルがこちらに向けて鼻をひくつかせていた。


 獣避けの効果が弱い? ハズレをつかまされた?

「サングニエルは家族単位で行動している。子供がはぐれたとしたら、親が探しに来る。その時に俺達が近くにいたら間違いなく襲ってくる」

 それは探索者組合で解体術を学んでいる時についでのように教えられた話だけどそれを思い出した。

「それって」

「ヤバくない?」

「エイシャ、移動した方がいいかな?」

「ん、今から移動しても、この暗さの中だと他の獣に襲われる可能性がある。そのほうが危険」

「刺激しないようにするのが一番いいか」


 どうしようかと話し合っていると俺達の元へ足音を殺してミドヴィスが下がって来た。

「ねえ、礼央れお唯奈があの子を追い払うって言うのはダメ?」

「ご主人様! それは危険です」

「ユイナ、それはやめた方がいい」

唯奈ゆいななら大丈夫だよ」

「俺もやめた方がいいと思う」

「「なんで?」」

「夜の森で騒ぎを起こして他の獣まで集まってきたら対応出来ない」

 もしパニックでも起こされて怪我をしたら。血の臭いがすればそれを求めて肉食の獣が集まってくることは容易に想像が出来る。それは今の状況よりまずい。


「じゃあ、どうするの?」

「ん、んん〜、レオ。バッグに地面の土を入れて穴を掘ることはできる?」

「わからない。ちょっと、やってみる」

 エイシャの意図が何かわからないけど、言われたように試してみる。

 まずは地面に手を突いて一辺一メートルの立方体を収納するイメージを思い浮かべる。その掌に触れていた感覚が消える。

「ん、できた」

「ああ、できたな。それで、どうする?」

「ん、私達との間の土を収納すればどう?」

「成程な、堀を作るんだな」

「ん、水は張らなくていい、わざわざ渡って来ることはしないと思う」

「じゃあ、ぐるっと一回り堀を作るか」

「私もやる」

唯奈ゆいな里依紗りいさは俺とエイシャが作業してる間、周りに注意を払ってくれ」

「「わかった」わ」

「ミドヴィスは他に近寄ってくる獣がいないか警戒してくれ」

「わかりました」


 一辺が二十メートル程の四角形を描くように堀を掘る。いや、掘ると言うのが適当かは微妙なんだけど。

 幅、深さ共に三メートル程度の堀をどんどん作っていく。

 今回のことで気がついたのは、収納するその体積に比例して魔力を消費すること。作業中に気になっていたことだけど、俺とエイシャで一度に収納できる体積が違っていたこと。

 あとでそのことについてエイシャに訊ねて判明したんだけど。

「ん、やっぱりレオの魔力、多い」

「そう? 俺にはわからないんだけど」

 気の抜けた会話をしていられるのは堀を作る作業が終わって、堀の淵をグニエルがうろうろしているところに親がやって来て連れて帰ったのを見届けたからだ。


「ん、レオ、魔力の回復してぇ」

「ん、わかった。こっち来て」

 流石に三人の目があるから裸で抱き合うことはしない。

 それでも座っている俺の足の間に腰を下ろしたエイシャを後ろから抱きしめて、服の裾から中に手を入れておへその上に手を置いた。

 そこで二人から叫び声が上がった。


「なっ!?「何してるの!!」」

「んっ、魔力の回復……」

 流れ込む魔力に陶酔するようにエイシャの声も甘く蕩けている。


 二人はその光景に自分の目を手で覆いながら頬を朱に染めていた。

 その二人は指の隙間から礼央れお達二人の様子を食い入るように見つめていたんだけど。

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