第18話

 ライパンの解体を済ませた頃にはすっかり日も暮れていた。

 その場の片付けを終えた俺達は月明かりが照らす広場で焚き火を中心に腰を下ろしている。俺の隣にエイシャ、向かい側に唯奈ゆいな里依紗りいさ。ミドヴィスは周辺の警戒を担当している。


 最初に口を開いたのは里依紗りいさ

「色々聞きたいけど、最初にこれを教えて」

 俺は頷いて先を促す。

「私達と暮らすのが嫌になったの?」

 何を聞かれるのかと緊張していたがふっと息を吐いて答える。

「そうじゃないよ…… 俺、二人の負担になってる気がして引け目を感じていたんだ。だから独り立ちしたかったんだ」

「じゃあ、私のこと、ううん、私達が嫌いになったんじゃないんだね」

「そんなことないよ。二人には、この二年間世話になりっぱなしで感謝しかないよ。その、ちゃんと話さずに出て来たことはごめん。二人が過保護になってたから言ったら反対されると思っての行動だったけど、やっぱりごめん」

「うん…… 嫌われてなければそれでいい。とりあえず、許す」

「ホントに心配したんだよ。私達がジェドに着いた時には未帰還のままひと月も経ってたから、もう、ホントに……」

 唯奈ゆいなはそこまで言って言葉を詰まらせた。その頬からは涙がとめどなく溢れていた。

「うん…… ごめん……」


 二人からはもっと責められてもおかしくない筈なのに、相変わらず優しいなこの幼馴染達は。

 俺の目にも熱いものが込み上げてきた。エイシャはそんな俺にそっと寄り添ってくれた。

 二人が落ち着いたあと、あの日俺が崖から落ちた時のこと、エイシャの家で目を覚ましてからこれまでにあったこと、俺の魔力量が桁外れに多いらしいこと。それにエイシャの協力を得て収納魔術が使えるようになったことを告げた。

 そして今はこのアンディグで探索者をしていて依頼を受けてここに来ていることを告げた。


 静かに話を聞いていた二人は俺の話が終わると聞きたかったであろう問いかけを投げかけてきた。

礼央れおは私達の、ううん、ルゥビスには戻らないの?」

「今の俺はアンディグの探索者なんだ。それにエイシャと一緒にいたいしね」

 隣のエイシャが俺にもたれかかり、それを見た二人の身体がビクッと跳ねた。

 それを見たエイシャが二人に向かって告げる。

「私はレオと一緒ならそっちの国に行ってもいい。でも、貴方達の反応はそういうことじゃない」

 二人の視線が泳ぐ。ん? どういうことだ。

「今、はっきり答えて。レオと一緒にいたい?」

「「っ、いたいに決まってる」じゃない!」

「私とレオが男女の関係だったとしても?」

「おいっ!?」

「ん、レオ、今は聞いていて。これは二人の気持ちの問題だから」

 俺とエイシャはまだ肉体関係は無い。ちょっと煽りすぎじゃないか?

 二人がキッとエイシャを睨んで叫ぶ。

「それでもいたいよ。私もずっと礼央れおくんのことが好きだったんだもん!」

「私だって、礼央れおのことが好きだった。里依紗りいさのことも好きだから言い出せなかった!」

 その二人の叫びに俺は狼狽える。まさかそんな風に思われているとは思っていなかった。全然、気づかないまま今まできた。


「ん、その言葉が聞きたかった」

 俺の隣で満足気な声を出すエイシャ。

「二人に私からの提案、これ以外でレオと一緒にいることはできない。私と一緒にレオの奥さんにならない?」

「「なるっ!」」

「えっ!? ええ〜〜っ!?」

 俺の想定していなかった提案がエイシャの口から飛び出した。そして二人はその問いに即答した。

 俺は驚いて絶叫するしかなかった。


「ん、それじゃあ二人とも、これからよろしく」

「わかった。エイシャさんもこれからよろしく」

「仕方ない、これしか礼央れおくんと一緒にいられないんだもん。ん、んんっ、エイシャさんこれからよろしくね」

 三人はにこやかに会話をしているけど、俺、ホントにこれから、どうなっちゃうんだろう……

 そこはかとない不安を感じながらも俺はそれを眺めていることしかできなかった。そして半ば呆然と三人を眺めている俺に向かってエイシャはニコリと笑いかけてきた。

「ん、レオ、そういうことだから、二人のこともちゃんと考えてあげて」

「あ、ああ…… あ、えっ、ちょ〜と待って! 急にそんなことを言われても!」

「レオは二人のこと、嫌い?」

「い、いや、そんなこと、ないけど……」

「ん、じゃあ、好き?」

「好きか嫌いかで言うと、好きなんだろうけど、いや、そうじゃなくて! 二人は、その、それでいいのかってことで…… 納得、できてるのかなと思って……」

「ん、んん〜、二人はどう?」


 俺とエイシャの会話を黙って聞いていた二人だったけど本当のところはどうなんだろうか? 日本人の倫理観から考えると受け入れ難いんじゃないかという不安が俺にはあった。

 そんな俺の不安など無用だと言わんがばかりに里依紗りいさが即答してきた。

礼央れおくんと一緒にいられるんだったら、私はそれでもいい! だって、もう会えないかもしれないって思ってたんだから。それに……」

「私も礼央れおと一緒にいたいから…… 礼央れおが気にしてるのは、倫理観だと思うんだけど一緒にいられないことに比べたら、そんなの気にならないよ」

「ん? レオ達がいたところは一夫一妻だったの?」

「あ、ああ、俺達のいた国は法律で一夫一妻と定められていた。重婚が認められた国もあったように思うけど、俺達のいた国はそうだった」

「そんな法はアンディグには無い。だから気にしなくていい」


 あ、そうなんだ……

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