第16話

 そこにいたのは数ヶ月ぶりの再会となる幼馴染、唯奈ゆいな里依紗りいさ、それと知らないケモ耳の女性。

 二人は俺の方を見て驚きの表情から怒ったような表情へとかわる。

「ちょっ『ぐぅ〜〜〜〜っ』、んん〜〜〜っ」

 唯奈ゆいなは怒りの表情から何か言おうと口を開いたところで『ぐぅ〜〜〜〜っ』とお腹がなった。恥ずかしさのあまり、そのまま唸ってしゃがみ込んだ。

「あ、あははは、はぁ〜〜」

 何故か里依紗りいさも顔を赤くして「あはは……」と乾いた笑いを向けてくる。


 ここは俺から声をかけた方がいいよなぁ。

「二人とも、久しぶり?」

 ガバッと顔を上げた唯奈ゆいながこっちに駆け寄って来る。

「レオっ!」

 俺を庇うようにエイシャがその豊満な胸に俺を抱く。

「「ええっ〜〜〜〜!!!」」

 絶叫、それに合わせるようにズザァ〜〜という音を立てて唯奈ゆいなが膝をついてそのまま突っ伏した。

「そんな…… やっと見つけたと、思ったら、女がいるなんて…… ふっ、ふふ、ふふふっ…… んがぁ、そんなことが、許せるかぁ〜〜!!」

「ッパ〜ン!!」

「ふ、ぐっ!?」

 唯奈ゆいなが叫び声と共に立ち上がったところに後ろまで来ていた里依紗りいさに頭をはたかれて再び突っ伏した。


唯奈ゆいな落ち着いて、ひとまず話を聞きましょう」

 里依紗りいさの言葉は務めて冷静に聞こえるけど目には怒りが見てとれる。対応を誤るとヤバイ。

 俺は冷や汗が吹き出すのを感じながら、ひとまず謝ろうと決める。

「二人とも、勝手に出ていってゴメン」

 がっしりとエイシャの胸に抱かれたまま謝罪の言葉を告げた。駄目だ、俺も取り乱してるな。

「ごめんじゃないよ礼央れおくん、それより、その人は誰?」

 静かに発せられたその声はまるで喉元にナイフを突きつけられているような不穏な圧力があった。

「落ち着いて里依紗りいさ、彼女はエイシャ。俺を助けてくれた人で、俺の相方」

「「相方……」ふふっ…… 相方……」

 あれ、俺、対応間違えた…… かな?


 二人が四つん這いのまま距離を詰めてくる。近い、近いって。目の前数センチのところまで詰め寄ったところで二人はエイシャに頭をおさえられて止まる。

「うっ」

「うっ?」

「うわぁ〜〜ん、礼央れおくん、とられたぁ〜〜っ!!」

礼央れおが…… 私たち以外の女と……」

「えっ!?」

「ふふんっ」

「………………」

 現在の状況は里依紗りいさが大泣きして、唯奈ゆいなが地面に両手をついて項垂れている。それを見た俺は驚きの声をあげ、エイシャは勝ち誇っている。その光景を名も知らぬケモ耳さんが絶句して眺めている。なんだこれ……


 二人が冷静さを取り戻したのは、ケモ耳女性のお腹からぐぅ〜っという音が聞こえてエイシャが魚の塩焼きを勧め、彼女がそれに齧り付いて発した『美味しい』の声がこの野営地に響いた時のことだった。


 同時に二人のお腹からもぐぅぐぅとお腹の音が響いてきた。

「とりあえずなんか食べる?」

礼央れおくんの作ったご飯が食べたい……」

礼央れおのご飯が食べたい!」

「はいはい、それじゃあ、ちょっと待っててね。エイシャ、三人にスープを出してあげて」

「ん、わかった」

 背嚢はいのうの中からスープの入った鍋とカップ、それと深めの小皿を取り出して湯気の立ちのぼるスープを注いでいく。(人数分のカップが無いんだよ)

「「「えっ!?」」」

「ん、料理ができるまでこれを飲んでるといい」

「あ、「「ありがとう」」ございます」


 離れ難い魅力を持つエイシャの胸から身体を離した俺は、バッグから昼間獲った魚を三尾取り出して手際よく串を打って軽く塩を振り熾火のそばに立てる。

「エイシャ、魚の焼き加減見てて」

「ん、わかった」

「あとは…… よしっ」

 離れた場所に石で簡易の竈を組み、熾火を移す。

 追加でバッグから大きめの鉄板とサングニエルの腿肉、調味料を取り出す。

 下処理を済ませて火にかけておいた鉄板で焼いていくとたちまちじゅわぁ〜っという音と脂の焼ける甘い匂いがその場に立ち込める。

 驚いた表情を向けてくる三人には悪いけど今は料理に集中させて欲しい。

 なんか、ぽか〜んとした表情でスープを飲んでるけどもう少し待っててくれよ。今、美味しい肉焼いてやるからな。


「そういえば、その人、誰?」

「あ、えっと、この子はミドヴィス。私達の…… その、」

「ん? ああ、奴隷を連れてるんだ」

「っ、そう、荷物を運ぶのと礼央れおの捜索のためにアンクロで買った」

「ええっ、奴隷買ったの!?」

「ん、レオ、こっちだと労働力として奴隷を買うことは普通。買う側にも制約は多くあって、なんでも言うことを聞かせられるわけじゃない」

「そうなんだ、エイシャは奴隷を買ったことがあるの?」

「ん、ううん、私は無い」

「おっと、いい感じに焼けてきた。そっちはどう?」

「こっちはまだ」

「じゃあ、先にお肉出すね」

「ん」

「三人とも、お肉が焼けたからどうぞ」

 煮沸消毒をしておいた解体ナイフで適当な大きさに肉を切り分けて、三人に木製の取り皿とフォークを渡していく。

「焼けたら魚の塩焼きも食べていいからね」


 相当お腹を空かせていたのか三人は夢中になってサングニエルのお肉を頬張っていた。

 話をするにしても三人が落ち着いてからじゃないとできそうにないか。

 先に二人のことをエイシャに説明しておくとしようかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る