第13話

 川に着いた俺たちは早速、魚を獲るために仕掛けを組み立てることにした。

 今回はやな漁。

 収納魔術のおかげですだれ状に組み立てた太めの竹材や柱になる木材を持ち込めたおかげで設置もスムーズ。不思議そうな目で俺を見ているエイシャにニヤリと笑って見せる。


 設置位置を指定しながら分割して組み立ててある柱をバッグから取り出す。

 最終的に組み上げた柱の上にすだれ状のやなを緩く傾斜を描くように設置する。

 やなの脇をその辺にある岩や石で塞ぎ川を堰き止める。これで上流からの水はやなに流れ込む形になるけど川の水はすだれの隙間から溢れて下流に流れていく。

 因みに俺の作ったこのやなはわざと隙間を大きくとっていて小さな魚はそのまま抜けて行くように工夫している。この辺りの加減は結構難しかったけどな。


「よし、できた。エイシャ、上流で水遊びしようぜ」

「ん? 魚獲るんじゃないの!?」

「そうだよ、その為に必要なことだよ」

「んん!? 遊ぶのが、魚を獲ることになるの?」

「そうそう、上流からバシャバシャしながらこのやなに向かって下って来てくれ」

「ん〜〜、やってみる」


 エイシャは半信半疑のまま、言われた通りにバシャバシャと大きな水飛沫をあげてやなの方にやって来る。それに追いたてられるように魚がやなの上で跳ねる。

「わっ! いっぱい、魚が跳ねてる!」

「上手いぞ、エイシャ!」


 俺はやなの上で待ち構えて跳ねる魚を拾い集めていく。

 魚を追い立てた勢いのままエイシャもやなに上がってきて一緒に魚をつかみ始めた。そのまま収納魔術を付与されたバッグへと思ったのだが生きていると入れることができなかった。仕方なく薬草を入れる為に持ってきた籠に放り込んでいくとすぐに籠は一杯になった。


 エイシャに向けて「籠一杯になったからもういいぞ」と叫ぶ。

「ええ〜っ、もうちょっと獲ろう」

「じゃあ、このままだとバッグに入れられないから俺、魚の下処理するから」

「ん、そっちは任せた」


 想定した以上に大漁だった。隙間から抜け落ちなかった小さめの魚は下流に逃していく。

 もう少し小さな魚を逃がせるように工夫した方がいいかなと考えたりしながらひたすら魚を締めて血抜きをしていた俺のところに「あ〜、楽しかった」と満面の笑みを浮かべたエイシャが籠一杯の魚を持ってやってきた。

 俺はにっこりと笑ってエイシャにも手伝ってもらうことにした。


「ねえ、この作業にどんな意味があるの?」

「ん?ああ、これはね、魚を即死させることで鮮度を保って、血抜きして臭みの元を取り除いて少しでも美味しく食べる為にやってるんだ」

「そうなの」

「あれ、こっちじゃ、獣を狩った時に血抜きしない?」


 いや、思い返してみればルゥビスでも大半の探索者はしてなかったような気がする。そう考えると探索者の間では一般的な知識じゃ無いのか?

「動物の肉も血抜きをしてやれば臭みが少なくなるぞ」

「ん、それじゃあ、今回のライパンで試そ」

「ああ、そうしよう」

 美味い料理を振舞っていたら、すっかりエイシャも食べることが楽しみな食いしんぼキャラになったな。微笑ましく思って眺めているとコテンと首を傾げて「ん、どうしたの?」と聞いてくる。

「なんでもないよ、エイシャが可愛いなと思って見てただけ」

「もう、恥ずかしいなぁ……」

 照れるエイシャがとっても可愛い。


 それから二人で魚の処理をして収納魔術の施されたバッグに保管。籠ややなを洗ってからこれも片付ける。

 周囲に誰もいないことを確認して自分たちの身体も洗う。エイシャの前で裸になるのも彼女が俺の前で裸になるのも今更だし、恥ずかしさはだいぶ薄れている。それでも彼女の裸を直視するとムラムラとする気持ちはある。いや、裸の彼女の容姿とスタイルに欲情しない男は微乳派か幼女趣味に違いないと俺は断言する。


 こうして肌を見せ合い何度も口付けをかわしている俺達だけど、まだ一線は超えてない。勢いでしようとしていたのを止めたあの日からゆっくりと関係を深めている。

 そりゃあスキンシップ過多であることも認めるし、一緒に風呂に入っている。なんならベッドも一緒だけどそれだけはしてない。ヘタレと罵るならそうすればいい。

「すごく沢山穫れた」

「簡単だったろ?」

「ん、凄いね。レオのいたところの工夫って」

「先人の知恵だよな」

 エイシャには俺が勇者召喚に巻き込まれて別の世界から来たことも幼馴染二人から自立しようとしてここに流されて来たことも伝えている。

 全て理解した上でエイシャは俺を受け入れてくれている。これほど嬉しいことがあるだろうか。

 いまはエイシャと二人で暮らしていくために力を合わせてやっている。


 陽が傾き始めた頃に野営地に戻って、俺達は役割分担をして夕飯の準備に取り掛かる。鮎やアメゴに似た魚は内蔵をとって串を刺していく。大きめの鱒に似た魚は内臓をとった際にその身の色がサーモンみたいだったから周辺で採取したきのこ類と一緒にホイル焼きならぬ包み焼きを試すことにした。

 全ての下準備を済ませて調理に取り掛かる。塩焼きの火加減はエイシャには難しいかなと思ったから俺が担当。それを隣でエイシャにも見てもらう。

 包み焼きの方はその合間に熾火にかける。

「あと、何か作る?」

「ん、スープは背嚢はいのう(収納魔術)の中に作り置きがあるからサラダかな」

「ん、じゃあ、ちぎってく」

 葉物野菜を適当な大きさにちぎるのはエイシャに任せて、小粒のトマトに似た野菜を半分にカット。それらを混ぜ合わせてクルトンを添えてサラダとした。あとは手作りマヨネーズ、ドレッシングをバッグから取り出して魚の焼き上がりを待つ。


 熾火の上に落ちた脂がジュワッと音をあげ堪らない匂いが漂う。

「ねえ、レオもういい?」

「ま〜だ、もう少し待って」

「ん、待つ」


 周囲の警戒を怠ったつもりは無かった。

 それなのに俺達がその気配に気がついたのは茂みとの境に三人が姿を現した時だった。

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