第11話

 そんなコントじみたやり取りを交わしているとネギルイエさんが戻ってきた。


「お決まりになりましたか?ミドヴィス以外の者は性的な御奉仕も了承しております」

「あぅ、そっちはいいです……」

 里依紗りいさが変な声をあげて顔を赤くして俯いた。

 やめなさいって! 変な誤解されるからっ!


「んっ、ん。こほん、それで、三人の値段を教えてもらえるかしら」

「はい、ユーミルは三百五十AGアンクロ・ゴールド、カステリアは三百AG、ミドヴィスは三百二十AGになります。RGルゥビス・ゴールドでお支払いの場合はユーミルは三百八十八RGと九RSルゥビス・シルバー、カステリアは三百三十三RGと四RS、ミドヴィスは三百五十五RGと六RSになります」

 AGとRGは一対コンマ九なのかな? 街の人はあんまり気にしてないみたいだったけどしっかりしてるな。


「ミドヴィスを三百二十RGでどうでしょうか?」

 流石に攻めすぎたか? ネギルイエさんの表情が変わらなくてさっぱり分からないけど。相手にメリットのない交渉はまず断られるだろうから、少しだけ利を提示する事にする。こちらとしてはどちらにしても必要な事だし、商人ならそのままRGを持っていても問題ないだろうし。

「その代わりBGブレウ・ゴールドへの両替をお願いしたい。もちろん手数料は通常通りに引いてくれて構わない」

「このあと、ブレウに向かわれるということですか?」

「そのつもりです」

「それで如何程いかほど御入用でございますか?」

「RGで赤金貨十枚」

「手数料を引いて八十一BGになりますが宜しいですか?」

「それではこれを」

 革製の小袋に入れておいたお金を数えてからテーブルの上に置く。

「では、お待ちください」

 お金を数え終えたネギルイエさんは再度部屋から出ていった。


「このあと、どうする?」

「必要なものを買いに行って、明朝出発でいいんじゃない?」

「そうだね。まあ、ミドヴィスがどのくらいの荷物が持てるかだよね」

「その辺は本人に確認してからだね」

「まあ、そうだよね」

 今後の方針をどうするか尋ねてきた里依紗りいさと簡単に打ち合わせを交わして、待っている間に一般的な奴隷について認識の確認を行った。


 私達が聞いた奴隷制度は大きく分けて三種類。

・借金奴隷/労働奴隷

 借金や労働期間が終われば解放される。

・犯罪奴隷

 終身刑になった者は危険な鉱山での労働が定番。

 それ以外の場合は刑期の軽減の為に幾つかの労働の中から選択して労役に就く場合がある。

・家政奴隷/農奴/漁奴/猟奴など

 奴隷商に出回ることは殆どなく、貴族の庇護下で世襲的に労務にあたる。移動の自由は無い。

 この他にも特殊奴隷と言われているものがあった気がするけど、これは詳しく教えてもらえなかった。


「ミドヴィスは借金奴隷かな?」

「どうだろう?」

 とか話しているうちにネギルイエさんがミドヴィスを連れて戻ってきた。

 ネギルイエさんは私達の向かいのソファーに腰をおろし、ミドヴィスはネギルイエさんの右斜め後ろに立った。緊張してか、それとも無意識にか耳がピコピコと動いて可愛らしい。


「それではまずはこちらを」

 両替されたBG硬貨を受け取り背嚢に仕舞う。

 ネギルイエさんは唯奈がBG硬貨を仕舞ったのを確認して、それからテーブルの上に置いた木箱の中から小皿や小瓶、筆を取り出して何やら準備を始めていた。

「まずはこちらの小皿に血を一滴落としてください。ミドヴィスも血を一滴落としなさい」

 この辺りの手順はラノベなんかで見かけるお互いの血を混ぜ合わせたものでいんを描くやり方みたいだった。


 ネギルイエさんは唯奈とミドヴィスの血、それと小瓶の中に入った液体を混ぜ合わせてミドヴィスの右手の甲にいんを描く。紋様を描き終えると一瞬それが光って、そこに奴隷紋がしるされていた。

 正規の手順を踏まないとこの奴隷紋は消えないと説明された。


「これでミドヴィスはお客様の奴隷となりました。組合証を提示ください」

 言われるがままに提示した組合証に先程の血を混ぜた液体を垂らすと唯奈の組合証に彼女の名前が記されていた。

「ご主人様、これから宜しくお願い致します」

 深々とこうべを垂れて礼をするミドヴィス。

 最低限の礼儀作法は身につけているのは商品価値を上げるために教育を施している。そういうことなんだろう。

「宜しく」

「宜しくね」


 ミドヴィスと挨拶を交わしたあと、ネギルイエさんから奴隷についての説明を受けた。

 ミドヴィスは想像していた通り借金奴隷だった。十年の労役か購入額(三百二十RG)の返済で奴隷から解放される。

 普通に働いても奴隷に払われる賃金ではそれだけのお金は稼げないだろうから労役の年数で解放される方が一般的らしい。十年経てば普通の女性は子を育てている時期だろう。

 つまり、奴隷から解放される頃には行き遅、おっと、この世界の基準だと私達もヤバイからなぁ……


「さて、これで用は済んだかな」

「そうだね」

「それでは、私達はこれで失礼します」

「はい、またの御利用をお待ちしております」

 ネギルイエさんの慇懃な礼に見送られながら商館をあとにする。

「買い物に行ってから宿に帰ろうか?」

「そうだね、ついでにご飯食べて帰ろうか?」

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