第8話

◇◆ ◇◆ 礼央れお Side. ◇◆ ◇◆


 俺はエイシャの勧めもあってアンディグの探索者組合で登録し直した。「新規登録になりますので、今までの実績は無いものとなります」というようなことを言われたが、俺の実績なんて大したものは無いから気にならなかった。それよりも、周囲からの視線が痛い。


「なあ、エイシャ」

「ん?」

「どうしてこんなに視線を集めてるんだ?」

「ん、それはレオの髪の色が珍しいから」

「それだけ?」

 小声でエイシャと話していると受付のおばさんから本当のところを告げられた。

「皆んなエイシャちゃんの恋人が気になってんのさ」

 恋人と言われたことで顔が熱を帯びる。

「レオ、顔が赤い」

「そういうエイシャこそ」

「あらあら、いいわねえ。っと、はいできたよ」


 新しい俺の認定証を受け取る。これでこの町でも依頼を受けて報酬を得ることができる。ずっとエイシャの負担になるワケにはいかないからな。


「それで、もう子作りはしてるのかい?」

「ブフォッ! んなっ!?」

「ん、んん、エルネスさん! 揶揄わない」

「あはは、ごめんよ」


 エルネスさんの一言で組合内にいた若い探索者からきつい視線を向けられる。それをわかっての行動だろうが、エイシャが俺の腕に抱きついて胸を押し付けてくる。そうなるとさらにきつい視線が飛んでくる。

「なあ、これって闇討ちされない?」

「ん〜、大丈夫じゃない?」


 流石に組合内で問題を起こす程の馬鹿はここには居ないようなので背嚢はいのうの中から買い取ってもらえそうな物を取り出す。

 一番の有力株はリジュだったんだけど流石に採取してから日数が立ちすぎて状態が悪かったから捨ててしまった。残っているのは兎に似た獣・ライパンの皮と猪に似た獣・サングニエルの皮、それと細かな水晶塊。


「これを見るとホントにアンタが北から流されて来たって実感するねえ」

 エルネスさんの言うとは兎に似た獣・ライパン、その体毛は北に行く程白くなり、その毛皮がここでは珍重されている。とはいっても持ち込んだのは三枚。大したものは作れないからそれなりに買い叩かれることは承知の上で買取を依頼している。

「これはアンタが捌いたのかい?」

「そうです。解体方法はルゥビスの探索者組合で教わりました」

「そうかい、ちょっと待っててね」

 エルネスさんは素材を持って扉から奥へ入っていった。


 建物の作りが同じならその奥にあるのは解体場。

 受付の方で判断出来ないような素材が持ち込まれた際に解体場のお偉いさんに聞きに行くのはどこも同じなんだろう。


 待っていたのは5分にも満たない時間だったがその間にも周囲の視線、いや殺意は高まっていく。

 なんせ、最初は腕に抱きついているだけだったエイシャが今は撓垂しなだれ掛かっているのだから仕方がない。

「これ以上周りを刺激しなくても……」

「んふっ、これで私たちの関係を疑う者はいない♪」

「そうかもだけどさ」

「ん、何なら、お風呂の時みたいに後ろから抱きしめて?」

 ザワッと場の雰囲気が変わる。殺意増し増しって、勘弁してくれよ……


「なんだなんだこの雰囲気はよぉ」

「ん、ガンドさん、こんにちは」

 奥からエルネスさんと一緒に筋骨隆々のおじさんが出てきた。エイシャの反応からここの職員という事はわかる。

「おう、エイシャちゃん。そっちのが旦那か?」

「そう、レオ。仲良くして」

 二人の会話に周囲の探索者から呻き声が上がる。とりあえず無視しとこう。


「お前、いい腕してるな」

「えっ」

 カウンター越しに肩に手を置かれて褒められた事に驚きの声が溢れた。

「丁寧にそれでいて素材として利用する際に無駄が出ない様に処理されている。なかなかの腕だ」

「ありがとうございます。ルゥビスの探索者組合で教わりました」

「そうか。それより、北にはお前みたいな髪色の奴は多いのか?」

「いえ、自分以外では見たことがないですね」

「目立つな、そりゃあ」

「そうですね」


 ガンドさんと会話をしているうちにいつの間にか周囲の殺意がなくなっていた。そして話の区切りがついたところでエルネスさんが査定額を告げてくる。

「今回は少量だったからこれくらい。と言いたいとこだけど、処理が丁寧だったからこれでどうだい?」

 銀貨十三枚。俺の想定では十枚行けばいい方だったから問題は無い。一応エイシャの表情を伺うと頷いてくれたから問題なし。

「はい、それでいいです」

「また、なんか珍しいもんがあったら持ってきな」

「ありがとうございます」

 ガンドさんは手を挙げて奥に戻っていった。

「それじゃあ、これからよろしくね」

「はい、お世話になります」


 周囲の探索者から妬みを含んだ視線を感じながら俺達は組合を後にした。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


「あ〜、面白かったぁ」

「やっぱり、わざとだった……」

「これだけ見せつけておけば私に言い寄ってくるのも減るだろうし、レオはガンドさんに認められたとなれば簡単には手を出してこない」

 エイシャはケラケラと笑ってそう言うがホントにそうかなあ。

「町を案内するからついでにお昼にしよ」

「そうだな、お腹も空いたしな」

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