第7話

◇◆ ◇◆ 唯奈ゆいな里依紗りいさ Side. ◇◆ ◇◆


 捜索場所で見つけた遊動索を持ち帰った私達は探索者組合経由でルゥビスへ言伝を依頼した。内容はもちろん礼央れおの捜索のために川を下っていくこと。

 これについては反論を許さない為にこういう形をとった。


 あの時、私達が引き止められていなければ礼央れおがこんな目に遭うことは無かったかもしれない。そう考えられるタイミングで礼央れおは遭難していた。もうこんな思いは二度としたくない。


 受付さんやすでに引退した高齢の探索者の方にも話を聞いたが、あの規模の大雨なら商業都市アンクロまで流されていてもおかしくないと言われた。その言葉の裏には生きている可能性は限りなく低いという感情が含まれていることも理解している。それでもこの僅かな希望に私達は縋り付くしかない。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 捜索を開始してから一週間が過ぎた。

 日を追う毎に里依紗りいさは焦燥感を募らせていく。それは唯奈も同じだったけど、二人が同じように焦っては見つけられる痕跡も見逃してしまうと自分を戒めて捜索を続けた。

 それは思った以上に唯奈を疲弊させていった。


 ここまでの捜索の間に礼央れおの痕跡は無い。

 川沿いにある住居や途中で見かけた人にも話は聞いているがさっぱりだった。

 里依紗りいさが新しく覚えた探索の能力を駆使して川の中まで搜索しているがなんの進展も無い。それでも、私達は絶望することなく、ううん、正確には決定的な確証を求めていたのかもしれないけど捜索を続けた。


 捜索を開始して十一日目、商業都市アンクロが見えてきた。

 ここまでに礼央れおの消息に繋がるものは何も発見されていない。

 途中、食料が底をついたが川で魚を獲ったり、罠を仕掛けて兎に似た獣を狩って食い繋いできた。二人ともこの世界アルジョンブロンに召喚されて以来随分と逞しくなったものだと思う。それでも、やっぱり……

「ねえ、里依紗りいさ、今日はここで泊まらない?」

「うん、そうだよね…… 物資の補充も必要だし……」

「まずは宿を探そうか」

「うん、そうだね」


 二人とも口にはしないがずっと川沿いに移動して野営続きで水浴びくらいしかできずにいた。お風呂に入りたいという欲求を持っていてもおかしくは無い。

 だって、年頃の女性なのだから。まあ、この世界では既に家庭に入っていてもおかしく無い年齢なのだが……


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 高く聳え立つ外壁の門をくぐり街の中に入る。

 商業都市というだけあって多くの人が行き交っている。

 それにルゥビスと比べても引けを取らない程に整備されている。見渡す限り石畳が整備されており、二階建ての煉瓦造りの建物が建ち並んでいる。門からまっすぐ伸びる石畳の道が続き、その奥に広場が見える。


「探索者組合に行くなら、この通りをまっすぐ進んだ右手に見える三階建ての建物がそうだ。宿を探しているなら通りの左手、『小竜の尻尾亭』が料理も酒もいいのがあるぞ」

「ありがとう」


 探索者風の風体をした私達が街に入る時も身分証の提示と税金の徴収だけですんなりと街には入れた。一応、他国へ入ることになる為、身分証は探索者としての物を提示している。肩書は剣士と神官、流石に『勇者』や『聖女』を名乗るのはまずい気がしているからね。

 情報をくれた衛士にチップを渡す。これくらいのことで今後の関係を良好に保てるのならお安いものだ。


「どっちから行く?」

「う〜ん、まずは宿かな」

 礼央れおのことは気がかりだが日が経ち過ぎている。それにこの頃になると私達の焦燥感も限界を振り切っていた。

 無事である事を願いつつ捜索を続けるしかないし、唯奈里依紗りいさも気分転換をしないとおかしくなりそうな危うい雰囲気があった。


 小竜の尻尾亭は多くの旅人、商人で賑わっていた。見た限りでは探索者は少ない。安全面に配慮した宿を案内してくれたのかもしれない。

 あの衛士に感謝しないとね。


 とりあえず一泊。このあとの聞き込みや準備の進捗によってはもう少し滞在することになるだろうけど。

 案内された部屋に荷物を置き、交代でお風呂に向かうことにした。お互いを改めて見てこのまま探索者組合に行くことが憚られたからだ。

 恥ずかしい話だが随分見窄みすぼらしい姿になっていた。

唯奈ゆいな、先にお風呂入ってきていいよ」

「うん、ありがと。そうする」

 一緒にお風呂に行かないのは念の為。鍵はかかるが簡単なもので不在時に貴重品を残して部屋を離れることは避けたい。

 この辺りの感覚は二年経っても元の世界の感覚が抜けない。


 唯奈ゆいなと入れ替わりにお風呂に入って旅の汚れを落としたあと、女将さんに「あとで部屋に桶とお湯を持ってきて欲しい」と頼んだ。

 流石に汚れた服をそのまま持ち歩く気になれずに洗濯しておきたかった。途中、川で洗うことはできたけどそろそろ新しい物が欲しい。

「服も一緒に調達しなきゃだね」

 そうなってくるとこの先の荷物の量が問題になってくる。

唯奈ゆいなに相談かな」


 部屋に戻って早速相談を持ちかける。

唯奈ゆいな、このまま南下していくならポーターがいたほうが良くない?」

「まあ、いた方がいいわね、でも信用できる?」

「うん、そこが問題だよね」

「わかってるじゃん」

「だから、奴隷を買おう」

「っ!? 倫理的にどうなのそれ」

「こっちだと合法だよ。それに女性の奴隷にすれば唯奈ゆいなが心配してるような事もないだろうし……」

「ちょっ!? 私が何の心配してるっていうのよ!」

「何って、夜の営み的なやつ」

「してないわよっ!! それに、そういうのは、ホントに好きな人がいいというか、礼央れおがいいというか、何というか……」

 後ろの方の言葉は小さくなって里依紗りいさに聞こえたかどうか怪しい。

「ん? 何だって」

「何でもない!! それより、奴隷を見に行くんでしょ!」

 ぺろっと舌を出して「揶揄い過ぎたかな」と口にするが里依紗りいさ悪怯わるびれた感じは無い。


 久しぶりに髪を整え、マシな服に着替える。

 二人の感想は「服はこの街で買い直そう」だった。川原を歩き続けたことで一番マシな服でさえ所々擦れていた。

 対外的な立場もあるから女将さんに服屋の場所を聞いて先にそっちに向かった。当然ながら中古服、この世界では一般的に中古服が出回っている。こっちにきて暫くの間は支給された服だったし、自分たちで買った物はどこかドレスじみた物でルゥヴィスに置いて来ている。


 それで、今回購入する物は実用性重視の動きやすさを第一に選んでいく。

 唯奈ゆいなはパンツスタイルにタートルネックのロングスリーブ、これにジャケットを加えていくつか購入した。里依紗りいさはハーフパンツに巻きスカート、ハイネックのトップスを購入した。街を出る時に追加で外套を購入する予定。


「じゃあ、今度こそ探索者組合に行こうか」

「そうだね、礼央れおがここにいればいいんだけど、いなかったら蒼の国で通用する組合証を発行してもらわないと」

「そうだね。礼央れおが見つかればいいけどね。それにしても組合証はゲームの様にどこでも通用すれば簡単なのにね」


 露店で肉串を購入。お腹を満たしてから探索者組合へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る