第6話

◇◆ ◇◆ 礼央れお Side. ◇◆ ◇◆


 夜になって風呂に入る。

 この世界に来て初めて夜に風呂に入る。


 ルゥビスやジェドにいた頃には夕方、暗くなる前に入るか桶に入った湯で身体を拭うくらいの事しかしてこなかったから、なんか懐かしい気分になった。

「レオ、湯加減はどう?」

「うん、いい感じだよ」

 湯船に手を浸けて湯加減を見て外にいるエイシャに答える。

「ん、分かった」


 どうして俺が家主を差し置いて一番風呂を頂いているかというと、(俺の知っている)他の家では普通に薪で湯を沸かしていたんだけど、エイシャの家の風呂が魔導窯という謎の仕組みで湯を沸かしていて俺には手が出せないのだ。なんでも主な燃料は薪である事は変わり無いのだが、そのまま窯で燃やしている訳じゃ無いらしい。


 久しぶりの風呂だからと湯船に浸かる前に入念に身体を洗っていると背中にむにゅっと柔らかな感触が押しつけられた。

「え、ええっ、なんでっ!?」

「ん?私の家の風呂に私が入るのがおかしい?」

「ううん、そこはおかしくないな」

「ん。ならいい?」

「いや、この状況がおかしいの」

「レオの背中を洗ってるだけですが?」

「なんで、一緒に入るの?」

「ん、入りたかった?」

「あ、そうですか……」

 駄目だ、これ以上何を言っても変わらなそうだ。

「そもそも、俺たちって知り合ってからそんなに時間が経ってないのになんでこんな事…… はっ! これが、この国のおもてなし?」

「ち・が・う〜、私がレオの事を気に入った。他の人に取られたく無いから積極的になってる! そのくらい気付け!」

「あっ! じゃあ、あの恋人って本気にしていいの?」

「レオは嫌なの?」

 背後からぎゅっと抱きしめられる。

「い、嫌じゃない、むしろ嬉しい」

「ん、なら、良かった……」


 そのあと、お互いに背中を流し合ってから二人で湯船に浸かる。

 俺の足の間にエイシャが収まり背中を預けてくる格好で寛いでいる。俺の両手はエイシャのお腹に回されて、その上に彼女の手が添えられている状態。腕には柔らかな感触が触れている。鎮まれ〜、鎮まれ〜。何処がとは言わないが男性諸君ならわかるだろう?


「なあ、俺のどこが気に入ったんだ?」

 えっちな気分になってきそうなのを逸らすのと聞いておきたい気持ちがあって訊ねてみた。はぐらかされても別にいいやという軽い気持ちで。

 それなのにエイシャはちゃんと答えてくれた。

「レオの魔力が流れ込んできた時にお腹がキュンキュンと切なくなった。それにその黒い髪も艶やかで綺麗だし」

「それだけ?」

「ん、最初は。今は、レオの料理も好き!」


 顔をこっちに向けてそう言って笑うエイシャはとても無邪気で可愛らしい。

 ただし、身体を捻った事でお湯に浮かぶ柔らかそうな乳房が目に飛び込んできた。フイっと視線を逸らしたのだが遅かった。

「ん、触りたい?」

 右手をそっと持ち上げられて掌に柔らかな感触が伝わってくる。

「んんっ!?」

 しっとりとした感触が掌いっぱいに広がったところで身を捩る。左手が彼女のお腹からズルッと滑って下腹部へと落ちる。

「っ!? んっ、あっ、んんっ!?」

 ザバっと音を立ててエイシャが身体を丸める。太腿に挟まれた左掌は多分、あの時と同じ場所に導かれている。

「あっ、ああっ、魔力、流れ込んでくるっ、んっ、ああっ!」


 どうやら、俺は粘膜接触で魔力の移譲ができるらしい…… これなんてエロゲ? こんな能力、普段使えねえよ!?

 いや、それよりもまずはこの状況を…… あまりに限定的で使えない能力に呆然としているうちにエイシャは身体の向きを変えて俺と向かいあう。

「ねえ、このままひとつになれたら、すごく気持ち良くなると思わない……」

「そ、それは……」

 ひどく魅力的な誘惑。

 柔らかな膨らみは俺の身体に押しつけられて形を変え、とろんと蕩けた視線は俺を捉えて離さない。わずかに開いた唇からは甘い吐息が俺の首筋に触れる。

「その、俺、初めてなんだ……」

「ん、よかった…… 私も、初めて……」


 そのエイシャの言葉に秒で冷静になった。

 俺を包み込もうとしていたエイシャの身体を抱き止めて静止する。

「エイシャ、その気持ちは嬉しいし、本気でしたいけど。今のエイシャは俺の魔力で冷静な判断ができてない(と思う)。だからさ、そういうのなしでしたくなってくれたらしよう!」

「むぅ〜……(勇気を出したのに、こういうのは勢いも大事なんだぞ)わかった。そういうなら今は我慢する……」

「ん、ありがとう」


 正直に言ってしまえば、俺も滅茶苦茶我慢している。エイシャのお尻にはひどく元気な俺の分身が押し当てられているから彼女にも興奮していることはバレているはずだし、エイシャが身動みじろぎすればビクんと跳ねるのが彼女にも伝わっているのか、わざと動いて俺の反応を楽しんでいるような気がする。

「なあ、あんまり動くなよ」

「んっ、気持ちよさそうな、顔してる……」

 位置的にエイシャは上目遣いになって、蕩けた視線を俺に向けてくる。たまらん! 可愛い! 一度は取り戻した理性がガリガリと音を立てて削られていく。


「お返し……」

 背骨に沿って触れるか触れないかという力加減で指を這わす。

「ふっ!? ふう〜、んんっ! んあっ、ああっ!!」

 感覚が敏感になっていたのかエイシャは背を仰け反らせて大きく息を吐いてからグッタリと脱力した。

「えっ! ええっ!?」

 慌てて彼女の身体を支えて胸に抱く。

「大丈夫エイシャ!?」

「んっ、だい、じょうぶ…… せな、か、触られ、た、時に…… ビリって、気持ち、よく、なった……」

「はぁ…… よかったぁ……」

「ん、ぎゅって、してて……」

「ああ、可愛いなあ」

 小さく呟いた俺の声はエイシャに聞こえていたみたいで彼女にギュゥっと抱きしめられた。


 久しぶりのお風呂は思ったより長い時間湯船で過ごすことになった。

 エイシャの身体の柔らかさを存分に堪能させられたことは内緒。

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