第41話終焉の槍
天使長ミカエルは、勝ち筋を模索していた。なぜか目の前の少女は攻撃してこない。だからできるだけ、相手の弱点を探る。
だがどこからどう見ても弱点なんて見えなかった。どうするかと考えていると、突然爆発音が聞こえた。
「なんだ!?」
魔術で音がした城の周りを見る。見えたのは、軍に街を破壊され、蹂躙される天使達だった。
ミカエルは状況を理解し、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りのまま、元凶に向かって叫ぶ。
「貴様!!」
ミカエルの必死な形相に、レミエルは高笑いで答える。その目に侮蔑と憐れみを携えながら。レミエルは一つの槍を召喚して、ミカエルに向けた。
そしてようやく口を開く。
「さあ、終わらせましょう」
その言葉を皮切りに、戦闘が開始した。
ミカエルは天使の長だ。それ故に戦闘力は天使の中で一番高く、知略にも優れている。今まで何人かの格上にも勝利してきた。その経験を活かせば、十分に勝てる———はずだった。
「……ごはぁっ」
口から血が溢れ出す。
戦闘が始まり数分、ミカエルは完全に押されていた。先程からミカエルの繰り出す攻撃は全て避けられ、レミエルの攻撃は全てミカエルに当たっている。そのどれもが急所をわざと外した痛め付ける為の攻撃だったため死にはしていない。
だがその気になればいつでもミカエルを殺せるのだろう。
その証拠に目の前の少女は汗ひとつかいていない。これは決闘などではない。ただの狩りだ。
「はぁ。天使の長だからって少しは遊べるかと期待したのに、全然ダメね」
レミエルは残念そうに肩をすくめる。ミカエルは辺りを見て、勝ち筋を探す。辺りは先頭の余波で粉々で、戦いの際に移動したのが功を奏して輪廻の輪に通じる扉は残っているが、他の建物は全て壊れていた。
(なにか、何かないのか? なんでもいい、この化け物を倒す手段は!)
だがその希望が叶うことはない。レミエルは槍を振り上げる。万事休すか、と思われた瞬間、レミエルはその場から飛び上がった。
直後、レミエルが居た場所に炎と岩の魔術が降り注ぐ。
「まさか……!」
ミカエルは魔術が飛んできた方を見る。そこには二人の天使がいた。
「ミカエル、無事ですか?」
その内の一人、女の天使が話しかけてくる。彼女の名はラファエル。最上位天使の一人だ。本来ここには残らず世界の侵攻を任せていたのだが、さっきの要請のおかげで駆け付けてくれたのだろう。
「地上の神か。まさかお前がこんなにもやられるとはな」
そしてもう一人。ミカエルを庇うように立つのは最上位天使のウリエルだ。彼もラファエルと同じで、侵攻していた天使だ。
今ここに、最上位天使の三人が揃った。これなら、いけるかも知れない。密かに希望が湧き出てきた。
「二人とも、やるぞ。攻めてきたのはあの少女含め後一人いる。もしその一人があの少女と同格だった場合、我らに勝機はない」
「そうですか。なら、早々に片をつけましょう」
「軍もいるが、それらよりこちらの方が厄介か」
三人が、構える。レミエルは三人の様子を見て、嬉しそうに笑う。
「少しは楽しませてね?」
二回目の戦闘が始まった。ミカエルが剣を持ってレミエルに向かい走る。ウリエルは魔術を起動し、ミカエルの援護に回る。ラファエルはそんな二人と自身に肉体と魔術を強化する魔術をかけ、攻撃の魔術を手に突っ込む。
対するレミエルは三人の攻撃を全て避け、距離を取る。そして自らの腕を引っ掻き、血を流した。
「なんのつもりだ?」
レミエルが何をしようとしているのかわからないミカエルは、それを見ることしかできなかった。それが破滅に繋がる一歩だとも知らずに。
招来
月槍『グングニル』
レミエルの血が宙を舞い、武器を作り上げていく。
出来上がったのは緋色の槍。華やかな装飾が施された美しい槍は、同時に破滅の魔力をその身に宿している。
普段は見えないはずの魔力が可視化され、辺り一面が紅に染まる。
ミカエル達は唖然としてその光景を見る。まるで世界の終焉のようで、身震いしてしまう。
「あああああ!」
下がる戦意を上げるため、怯える自分を隠すため、ミカエルは雄叫びを上げてレミエルに突撃する。それに倣って他の二人も同様に突っ込んでいく。
だがやはり、攻撃が当たらない。全てが避けられるか受け流され、ダメージを与えることができない。
このままではレミエルの的確すぎる攻撃よって全滅してしまう。相手が攻撃する気のない今が最後のチャンスだ。
「神能解放『死に花』!」
天使の神能は皆決まっている。それが『死に花』。自身の限界を一時的に超えることのできる神能だ。だが代償として効果が切れれば確実に死ぬ。
この神能は魂を消費して使う技なのだ。故に一時間の効果時間が切れれば、塵になって消えてしまうのだ。
もちろんミカエルもそれは理解している。だが、今使わずとしていつ使うというのか。
一時間もあれば、敵の二人を倒し天界に通じる転移門を破壊することだってできるかもしれない。死んでしまってもまだ最上位天使は残っている。
だから出し惜しみはしない。
「あら、面白そうな技ね」
犠牲になった天使達の憎しみを込め、ミカエルはレミエルに向かって行った。
「そうか、今ここにしかチャンスはないか。ラファエル、お前は残っていてくれ。私とミカエルで奴と奴の仲間を討つ」
「わかりました。武運を祈ります」
ラファエルが飛び立ったのを確認し、ウリエルは『死に花』を使い、レミエルに向かって行った。
それから二人とレミエルの戦いが始まった。だが、それは戦いとは言えなかった。
命を賭して戦う二人を嘲笑うように、攻撃は全て避けられ、手痛い反撃をくらう。魂がどんどん削られていき、確実な死が刻一刻と迫ってくる。
「なぜだ、なぜ攻撃が当たらない!」
ミカエルが焦った声で叫ぶ。先程からレミエルは攻撃を全て避けてしまうのだ。決まったと思うものも、死角からの攻撃も全て。
その代わりにレミエルの攻撃は自分達に悉く当たり、致命傷を負わせていく。攻撃を読んでいるにしても、これでは読めすぎている。何かあるはずなのだ。
「じゃあ教えてあげましょう。お馬鹿な天使。私の神能は『嫉妬』その効果は運命を変えるというもの。未来を見て、その未来を変えるのが私の神能。だからあなた達の攻撃は私には当たらないし、あなた達は私の攻撃を避けられない。わかった?」
「なん、だと」
これでは絶対に勝てないではないか。レミエルとウリエルは絶望した。その絶望に染まった顔をレミエルは満足気に見つめ、全てを終わらせるための魔術を発動した。
魔術『破月の槍』
ラミエルが手を振り上げた瞬間、『グングニル』が幾つにも分裂し、数万本の槍となった。
「さようなら、哀れなゴミ虫さん」
レミエルが手を下ろす。それに合わせて、槍の雨が破壊のエネルギーと共に天界に降り注いだ。その威力は尋常ではなく、着弾した瞬間に爆ぜる特性も相まって、辺り一面が更地になってしまった。
「さて、後はあの扉に何があるのか、調べるだけね」
建物と二人を破壊したレミエルは、軽い足取りで輪廻の輪の扉に歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます