第37話神の舞踏会3

兄さん達の所に転移した私はなぜか最上位神達に囲まれていた。

二人がいた場所が最上位神達の側だったのが運の尽きだったようだ。最上位神達にすぐに見つかり、囲まれた。

そしてめちゃくちゃ話しかけられている。すごかったとかどうやってやったのかとか、さっきの葛藤についてのことが多い。

一気に話しかけないで欲しい。どれに答えていいかわからなくなる。


「これこれお前達、優華が困っておるぞ。やめんか」


壇上から降りてきたヘラが最上位神達を止めてくれた。まともなのはヘラだけかもしれない。まぁポンコツだが。


「お姉ちゃん、すごく綺麗だった」

「お前めちゃくちゃ強えじゃねえか。帰ったら剣教えてくれ!」


神達からは解放されたが次は兄さん達が私を囲った。

お願いだから少し待って欲しい。話しかけられすぎて疲れた。


「お姉ちゃんめちゃくちゃ疲れてるね」

「……人と話すのが苦手なのは変わってなかったか」

「お姉ちゃんはキャラ演じないと話せないもんね〜」

「ぬ、そうなのか? では優華のこれは素ではないというわけか」


おいやめろ。そんな目で私を見るな。私を可哀想な子を見るまでみないでくれ。

確かにアニメのキャラとかを演じなければ話せないしこの口調も日常化してきたけど私は可哀想な子では断じてない。


「お姉ちゃん、不満足な目をしてるけど事実だからね」

「わざわざ言うか普通」

「お兄ちゃん、本気のジト目っていいよね」

「優子、いきなり性癖を開示するな。混乱する。後そのパスはやめろ」


優子にジト目を向けたら何故かこうなった。

………最近、優子の事が少し怖い。妹だからあんまりこういう感情は持ちたくないが、正直怖い。

今まで会えなかった衝動なのかもしれないけど少しは自重して欲しい。

私がそんなことを考えていると、三人組の知らない神がこちらに来た。

その内の一人、豪奢なドレスを身に纏う女が話しかけてきた。


「お初にお目にかかります優華様。わたくし上位神のジュカと申します。わたくしの右にいる者はイシュタム、左にいる者はザラと申します。後もう一人紹介したい者がいるのですが、残念ながら欠席していらしたのでこの三人で挨拶しに来た所存です。以後、よろしくお願いします」


すごく長い自己紹介をしたジュカに私はよろしくとだけ言う。気が済んだのか三人はヘラに話しかけに行った。

はぁ、ヘラのせいでよく話しかけられるな。さっさと家に帰りたい。


「お姉ちゃん、さっきのヒトには気を付けたほうがいいよ」

「俺も優子に賛成だ。あいつは絶対腹黒だから気を付けたほうがいい」


二人はそう言うが本当にそうか?

まぁそもそも関わり合いたいとは思っていないので私から話しかけることは無いがな。


「嬢ちゃん達大丈夫か?」


私が一息ついていると今度はアレースが話しかけて来た。少しくらい休ませてくれ。私は疲れた。

そんな私の心の中の訴えが届くはずもなく、アレースは話を続ける。


「あの三人は悪女四天王の三人だから気を付けろよ」

「アレースさん、悪女四天王ってなんですか?」

「悪女四天王ってのはな、見境ないしに他の奴の世界を侵略してるあいつらの別の呼び名だ。もう一人アテナってやつがいるんだがそいつが一番やばくてな。悪女四天王の中で一番世界を奪ってたな」

「そうなんですね」

「しかもあいつら実力が上のやつとかには媚びてくるからまぁ最悪なんだよ」

「うわぁ、お兄ちゃん。絶対にあーいう女とは結婚しちゃダメだからね」

「するかあんなクズ女なんかと!」


なんかすごく聞き覚えのある奴の名前がしたな。アテナって私が殺したあの自称女神だよな。

………うん、絶対にあいつらとは関わらないようにしよう。

あと兄さん口悪いぞ。だからモテないんだ。


「おい優華、なんかものすごく失礼なこと考えてないか?」

「別に、カンガエテナイガ?」

「おいめっちゃ怪しいぞ」

「せいぜい兄さんがモテない理由を考えてただけだ」

「おい! 言っとくが俺はモテないんじゃない、寄ってくる女が最低すぎるから一歩引いてるだけだ!」

「あーはっはっは! お前らおもしれえなあ!」

「ちょっとアーレスさん俺を擁護してくれよ!」

「モテんやつはモテないんだ仕方ない!」

「断言しないでくれよぉ!」


ふふ、久しぶりだなこのやりとり。昔は結構してたんだよなぁ。というか私達兄弟全員彼氏彼女がいた事がないから煽れないんだがな。


「そういや嬢ちゃん、イツァムナーの野郎が何かしてこなかったか?」

「いや、彼は私を遠目で見るだけで特に何もしてこなかったぞ」

「そうか、ならいいんだが……って、嬢ちゃん見られてて大丈夫だったか? 嫌なら俺から言うぞ?」

「別に、最近見られる事が増えたから気にしてはない」

「まぁ、それならいいのか?」

「私もわかるよその気持ち。推しを遠くから眺めているだけで満足しちゃうよね」

「お前のそれは違うだろ」


優子、その言い方だと私がイツァムナーにとっての推しということになるからな。その意味わかってるのか?


「一応言っておくけど私は推しがいたら積極的に関わりにいくタイプだよ」

「なんで言ったんだよそれ」

「なぁ嬢ちゃん、お前の妹どうなってんだ? 会話ができねえぞ」

「なんか……ごめん」


ちょっと残念だけど可愛い妹なんだ。許してやってくれ。

私達はそのまま四人で話した。アーレスが一緒にいるおかげか、寄ってくる神が少なくて、話す機会がほとんどなかったのでとてもよかった。

アーレスはヘラと同じくらいまともなので、話していて苦労しない。兄さん、見習うんだぞ。

そんな感じで話していると、それはやってきた。

会場の中央に転移の予兆を感じた瞬間、一人の女が姿を現した。

その女は人の形をしておりながら、人とはとても見えない不気味さを纏っている。

漆黒の髪と瞳にこの場ではあきらかに場違いなパーカー姿。格好は人間のようだがやはり雰囲気はまるで違う。

人の形をしたそれは、機械のような無表情で周りを見回し、私達を見て動きを止めた。そして、無表情のまま、口を開いた。


「何者ですか、あなた」


その言葉は私に向けた言葉である事がわかる。だからこそ言いたい事がある。お前こそ誰だ。突然転移してきて名乗りもせずに私に話しかけないで欲しい。


「人に聞くならまず自分が名乗ったらどうだ?」


私がそう言うと女は手をポンと叩いて一つ頷いた。その間もずっと無表情でだが。


「うっかりしていました。私の名はクレヴァー。一応賢神をやらせてもらっています。私も名乗ったので再度問いましょう。あなた、何者ですか?」


クレヴァーか。聞いた事ある名だな。だが彼女の質問の意図がわからない。私の名前を問うているとは考えにくい。ならば私の存在か、私の立場を問うている可能性が高いか。

だが一応聞いておこう。


「何者、とは?」

「あなたを私は知りません。一目見ただけでもわかる、その常軌を逸している力を持つあなたを。天界と魔界の情報を知る私がです。あなたの世界、実力、名前すらも聞いた事がない。答えてください、あなたは何者ですか?」

「私は神森優華。ただの神だ」

「……そうですか」


納得いってないようだが、私も自分がどういう立場にいるかはわからない。特に働いてるとかでもないしな。


「さて、では今回の目的を果たして帰りましょうか」

「おいクレヴァー、貴様、舞踏会に乱入しておいてただで帰れると思っておるのか?」

「もちろん帰れますよ。それに、それどころではありませんからね」

「なに?」

「これを見てください」


クレヴァーはそう言って指を鳴らした。すると、会場の舞台に魔術で作ったと思われるスクリーンのような物が出来上がった。


「なっ、これは!?」


ヘラ達は驚きの声を上げる。魔術に対してではない。その魔術に映し出されたものにだ。

そこには、白の翼を生やした人型の生物が一つの世界を壊している様子が映し出されていた。


「ご覧の通り先程、天使が侵攻してきました」

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